【300字SS】たのしいせいかつ

君野 新汰

1、箱詰め (第83回Twitter300字ssお題:箱)

 オーヌキさんは箱詰めがうまい。淀みなく迅速に、けれど流れ作業にならず一箱一箱丁寧に。古傷のせいで右手が不自由だというのが信じられないほど、それは見事な手捌きだった。

「商品の行く末を考えるといいんだよ」

 慣れない箱詰めに四苦八苦する僕に、彼女は言う。

「商品を手に取った誰かが、嬉しそうに使ってくれる。そんな情景を思いながら作業すれば、自然と上達するよ」

 少し考えて、僕は言った。

「理想の体型を想像しながら筋トレすれば早く筋肉がつく、みたいな?」

「……ちょっと違うかな」

 オーヌキさんは苦笑すると、次に梱包する拳銃を手に取り、撫でた。黒光りする銃身を愛でるように。それとも、てのひらに刻まれた古い銃創を慈しむように。

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