第19話

「今日からりーちゃんはここに住むからぁ、あたしが設備の使い方を教えてあげるねぇ」

「お、お願いします!」


「ユウはりーちゃんにつける役職を考えてあげてぇ」

「了解。って言っても、まずはリリウムが出来る事を知らないと」

「それもそか。りーちゃんはぁ、何が出来るのぉ?」


 マリアに問われたリリウムはうんうんと自分に何が出来るのかを考え始めた。


「そうですね……強いて言うなら料理、とかでしょうか……?」


「うーん、キャラ付けとして弱いかなぁ。確かに料理係は必要だけどぉ、せっかくユウと一緒で妖精が見えるんだからぁ、それ系の仕事にしてみたらぁ?」


「でも、私はマリアさん達と違って魔石を用意出来ませんよ?」


「そんなのあたし達が用意するから気にしなーい。どっち道あたし達が留守の間ここを守る人が必要なんだからぁ、妖精と上手い事やってなんとか出来ない?」


「そうだな。ここを失う訳にはいかないから、俺達が不在の間守りを任せられる人間はほしいと思っていたところだ」


「私戦いの事とかわかりませんけど、大丈夫ですか?」


「だいじょぶだいじょぶ。PMCの業務には軍事教練もあるからねぇ、あたし達がビシバシ指導してあげる」


 そう言ってマリアはにっこりと微笑んだ。彼女的には不安を和らげるために微笑んだのだろうが、不安でいっぱいのリリウムにとっては凄まれているようにしか感じなかった。


「お、お手柔らかにお願いします……」


「決まりだな。それじゃ、マリアはそのままリリウムにベース内の案内をしてやってくれ」

「りょうかい」


「フレッドは俺と一緒にベース内の点検作業だ。そのついでに、魔石と材料さえ渡せば妖精は大抵の事をやってくれるらしいから、ベースそれ自体を要塞化する計画を建てよう」


「了解。しかし、未だに信じられねえ不思議生物だな」


「信じようと信じまいと使えるものはなんでも利用する。PMCの常識だろう?」


「そりゃそうだけどよ、リリウムちゃんはともかくユウが見えるってのが納得いかねえ」


「知るか。俺だってなんで見えるかわからないんだ」

「案外お前、リリウムちゃんの親戚だったりしてな」


「バカな事言ってないでさっさとやるぞ。時間は有限なんだ」

「へいへい」


 フェンリルベースはおおよそ10キロ程度の川幅を誇る川の中央に建設されている。形状は円状となっており、端から端まででおおよそ1キロ弱の広さだ。


 ヘリポートが川の流れる方向を正面として左右に二箇所あり、中心部に、生活に必要な設備や武器庫等々がある事が判明している。


 以前魔石狩りをした際に水の浄化設備や発電機など、生活に最低限必要な設備を妖精の力を借りて開放している。しかし、まだまだ全貌を把握するには至っていなかった。


「まるでパンドラの箱だな……せめて館内地図があれば早いんだけど」

「贅沢言ってんじゃねえよ。使えるだけありがたいと思え」


「わかってるよ、ちょっと愚痴っただけさ。しかし、これだけ広いんだからもう一つくらい武器庫があってもいいと思うんだよね」


「リスク管理の観点から考えると間違いなくあるはずだ。ヘリポートが左右に別れてるってのもミソだな。今使ってる武器庫が左岸にあったから、きっと右岸にもあるはずだ」


「俺もそう思う。たまたま高機動車が見つかったけど、施設の規模から考えて他にももっとあっていいはずだ」


「他にもって?」


「戦車とかヘリとか。設計者がどういう意図でここを作ったのかはわからないけど、ここは明らかに軍事拠点だ。となれば、当然仮想敵もいるはずだ。もしフレッドが指揮官だとしてこの世界の敵対勢力にどう対処する?」


「俺ならヘリボーンからの電撃作戦とかだな。後はドローンを使った作戦とか」


「そうだね。仮に目的が鉱山資源だったりしたら、戦車や航空機での爆撃は資源そのものを駄目にしかねない。恐らく、誰が指揮官でもそう考えるはずだ」


「となるとやっぱり人力か小規模の爆撃ってなるよな」


「そういう事。そして、それら兵器を保管しておく場所となれば必然場所は大型になる」


 今二人の視線の先には大型のシャッターがあった。ちょうど話しに出ていた戦車やヘリボーン用のヘリが通れそうなくらいの大きさだ。やはりここも溶接されていて開ける事が出来ないので、妖精に頼んで開放してもらう。 


 待つ事10分。かけられたカーテンが捲れ上がると、そこにはやはり新品同様のシャッターがあった。左端の壁に設置されたパネルの「開」ボタンを押す。


 ガシャガシャという金属が畳まれる音と共にシャッターが上がっていく。その先にあった光景は期待以上のものだった。


「……やっぱりあったか」


 部品ごとに分解して地球から運んできたのだろう、組み立て作業の途中で放棄された「それ」はそこに鎮座していた。


 規模が規模なのでどれだけの魔石を消費する事になるかわからないが、これを開放する事が出来れば今のフェンリルにとって「切り札」になるのは間違いなかった。


「ユウ、あれを見ろ」


 切り札となるだろう存在に目を奪われていると、先に周囲の探索を行っていたらしいフレッドが声をかけてきた。彼が指差す方向には「特殊兵装庫」と書かれた扉があった。


 重たい鉄の扉を押して開くと、中にはドローン兵器を始めとする文字通り特殊兵装が所狭しと並んでいた。


「一体全体どこの金持ちがこの施設を作ったんだ? ドローン兵器なんて何百万すると思ってやがる。それをバカみてえに保管しやがって」


「パッと見た感じ最新の物はなさそうだけど、どれも現役で使われてる物だ。バッテリーさえ充電すれば今すぐにでも使えそうだね。これは棚からぼた餅だ。早速明日使おうか」


「自爆型から投下型までよりどりみどりだな。いよいよもってここの重要性が増してきやがった。何がなんでも侵入者を入れねえようにしねえと……」


「同感だ。端に機関銃を設置する程度でいいかなと思ってたけど、そんなんじゃ駄目だ。ガチガチに固めて要塞化させる必要がある。そのためには魔石が必要だ」


「だな。人手を集めたら急いで魔物狩りして集めねえと」


 思いがけない収穫を得た二人は明日使うドローンを何機持ち出して格納庫を去った。明日からはキルト王国に向かう事になる。可能な限り心身を休ませたかった。


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