蹂躙スル現代兵器、武装企業ハ解放ス。~企業に騙されて異世界に行ったけど、破棄された軍事基地を見つけたので亜人達と蜂起します~

山城京(yamasiro kei)

第1話

「あまり時間はないぞ! 急げ急げ!」


 そう言ってユウは足として生き残った高機動車が使えないかの確認をした。確認した内二台は横転して使い物にならなかったが、一台だけ無事な車両があった。


 おまけに荷台には12.7mm弾を使用する支援火器がついていた。てっきり荷台には異世界開発事業の設備だけを載せているものだと思っていただけに、この発見は僥倖だった。


「いいもの見っけたよん」

 マリアはそう言って荷台に二本の無反動砲を載せた。あの竜がどれだけ頑丈な鱗を持っているのかはわからないが、これであれば少なくともダメージは与えられるだろう。


「効くかどうかはわからんがとりあえず死体から弾だけはかき集めてきたぞ」

 フレッドは両手いっぱいのマガジンを抱えて運転席に座った。マリアが使用する銃はショットガンなのでこの弾は使用出来ないが、元々彼女には荷台の支援火器を使用してもらう予定なのでこれで問題ない。


「よし来るぞ……総員備え!」

 ユウは窓から顔を出して小銃を構える。フレッドはハンドルを握り、いつでも発進出来るよう構える。マリアも支援火器のレバーを握りその時に備える。


 悠然と地に降り立った竜はこちらに一心に視線を向けた。まるで高機動車それが食べられるものなのか食べられないものなのかを吟味しているようだった。


 緊張の一瞬だった。何かの間違いでこのまま飛び去ってはくれないだろうか。そんな甘い考えが脳裏をよぎる。しかし竜はそんな考えを裏切るようにギザギザの歯の隙間から炎を溢した。


「マズイ、ブレスだ! 掴まれえ!」

 そう言ったフレッドの動きは早かった。車が横転するのではないかと思うほどの急発進。そして急カーブ。三人を乗せた高機動車は竜の背後に回った。


 戦闘が始まった。あれだけの巨体相手に狙うという行為は必要なかった。ただ、銃を向けて引き金を引く。それだけで命中した。


「ちょっと! 全然効かないんですけどお!」

 マリアが支援火器のレバーを全力で引きながら言った。極太の薬莢がこぼれて撒き散らされる。飛んできた真鍮色の薬莢がボンネットの上で跳ねる。


 絶え間ない12.7mmと7.62mm弾の雨が竜に曝されるが、効いている様子がまるでなかった。BB弾でも撃っているのかという錯覚すら覚えた。


「効かなくても撃て! 撃ちまくれ! とにかく時間を稼ぐんだ!」


 鱗に覆われていない白い腹の部分を狙ってみるが、チュンと弾かれる音がしてまったく貫通しない。ひょっとすると、あの白い部分にも鱗があるのかもしれない。


「ちっくしょう。こんな泥試合は嫌いだあ」

 支援火器の弾薬が切れたのかマリアは自前のショットガンを撃ちまくっていた。ユウのM32MODも銃身が真っ赤に赤熱していた。これ以上この銃で戦うのは危険だ。そう判断したユウはフレッドから銃を受け取りそれで弾をバラ撒く。


「クソ! 奴だって生き物なんだ……どこか弱点があるはず……!」

 ユウは弾を身体の至るところにバラ撒き、竜の反応を注意深く観察した。すると、目への攻撃は嫌がっている事に気付いた。


「目だ! 目を狙え!」

「りょーうかい。無反動砲使うよ! フレッド運転しっかり!」

「無茶言うなっての!」

「いいからやれ!」


「なんでウチにはこえー女しかいねえんだ! わかったよ、その代わりちゃんと当てろよ!」

「当然。ユウ、足狙って。あたしが目を狙う」

「了解!」


 荷台にいるマリアから無反動砲を一本渡される。

 フレッドが蛇行運転でブレスの照準を狂わせる。そして、竜が見当違いな方向にブレスを吐いているその瞬間、三人を乗せた高機動車と竜が一直線になる。


 ユウが竜の右足目掛けて無反動砲を放った。通常の弾ではダメージを与える事は叶わなかったが、流石に無反動砲クラスの武器であればダメージを与えられるようだった。


 頑強な鱗を侵食し、足を穿つ。竜がバランスを崩すと同時にマリアが目を目掛けて無反動砲を放った。強烈なカウンターマスと同時に放たれたHEAT弾は寸分違わず目標地点に到達した。


 ノイマン効果によって発生するメタルジェットは頑強な竜の鱗とはいえ阻止する事は出来ないようだった。竜の右目付近がユゴニオ弾性限界によって生じたライナーによって侵食され、ごっそりと肉を抉り取った。


「やったか?」


 竜が吠えた。空気を震わせるほどの悲鳴だった。あまりの衝撃にフレッドはハンドル操作を誤ってしまった。高機動車が横転してしまう。マリアは荷台から投げ出され、ユウとフレッドはシートベルトをしていなかったが故に座席の中を激しく転がった。


「グッ!」

 ユウは強かに頭を打ってしまった。意識が薄れていくのがわかった。


   ◯


 第三次世界大戦に端を発する各地の紛争は激化の一途を辿り、遂に国対国という構図が維持出来なくなるほどに国力を低下させた。


 世界的に軍縮が叫ばれ、一部の先進国を除き国軍が解体されていった。代わりに民間軍事会社――PMCと呼ばれる存在が台頭し、国が彼らを雇い、国境を警備させる時代になった。


 そんな折り、戦争特需により豊富な資金を得ていた企業群は戦争によって疲弊した国に対して宣戦布告を行った。


 後に国家解体戦争と呼ばれる第三次世界大戦に次ぐ一連の戦争は、アメリカなどの先進国の一部を除き、企業が雇ったPMCが各国を占拠、企業の植民地化をさせていった。


 政治的取引によって核戦争という最悪の結果にこそ至らなかったものの、世界は新たに企業国家と呼ばれる国群を生み出す事になった。


 とどのつまり、恵まれた人種は自らの生命を安堵する事によって、下々の者を企業に売ったのだ。


 2056年。貧富の差は拡大に拡大を続けていた。世界は富める者はより富め、貧しい者は這い上がる機会すら得られない資本主義の極地となった。


「作戦を説明する」

 照明が消されたブリーフィングルームで、青白く光る電光ボードの前にスーツ姿の男性が立っていた。


 彼のネームプレートにはオーリスと書かれている。神経質そうないかにもホワイトカラーといった男だった。彼は今回の依頼元から出向してきている人間だった。

 オーリスは指示棒を持ち、電光ボードに表示された地図上のある地点を指す。


「依頼主はアウスレーゼ。北海道のエリア1に突如として巨大構造物が出現した。以降この構造物は『箱』と呼称する。我々の事前調査により、この箱は異世界に繋がっているという事が判明している。先遣隊の調査によると、生物が生息している可能性が非常に高いという事だった。すなわち、資源があるという事に他ならない」


 オーリスはメガネの位置を調整し、一息ついた。


「そこで、我々は異世界開発事業を執り行う事にした。諸君らには、異世界開発事業を安全に取り進めるための拠点確保をお願いしたい。言わずとも理解していると思うが、我々を取り巻く環境は悪化の一途を辿っている。今回の事業が成功すれば、資源不足という世界的な問題を解決出来るかもしれない。重要な事業の一端を担うという事を覚えておいていただきたい。何か質問は?」


「敵対勢力がいた場合に考えられる技術レベルは?」

 隣に座っていたフレッド・デューイが尋ねる。金髪ロン毛の彼はガムをクチャクチャと噛みながらだらしなく足を伸ばしていた。


 仮にも依頼主の前でよくそんな態度が取れるものだと感心するが、PMCなどといっても所詮は流れ者の傭兵だ。自分のようなタイプの方が珍しいのかもしれない。


「確証はないが、事前調査の結果少なくともこちらより高いという事はないと思われる。付け加えるならば、そうした事情を探るのも諸君の仕事だ。他に質問は?」


 ユウの隣に座っていたカスミが挙手した。彼女はユウの所属するPMC、フェンリルの代表だった。


 髪型が黒髪ショートなので、一見すると日系の血が色濃く出ているように思えた。しかし、視線を下に向けると出るところが出ているので、上手い事血の配合が行われたケースだという事がわかった。


 泣きぼくろが色っぽい妙齢の女性だが、年齢を聞くとげんこつが飛んでくるので誰も聞こうとしない。


「フェンリル代表、カスミ・レオーネです。今回のミッションは複数のPMCによる共同ミッションとの事ですが、指揮系統はどうなっているのでしょうか?」


「私が指揮する……と言いたいところだが、今回は各々PMCのやり方に任せる。その方がお前達もやりやすいだろう?」


「……ようは丸投げじゃねえか」

 フレッドがボソリと呟く。まったくもって同意だが、今の発言が元で依頼主の機嫌を損ねて依頼自体がなくなるなんて事になってしまっては困るじゃないか、とユウは思った。幸いにしてオーリスの耳はあまりよくはないらしく、彼の耳には届いていないらしい。


「了解しました。では、我々のやり方でやらせていただきます」


「うむ。ああそうだ、現地には私も赴くのだが、護衛がいないので困っている。すまんが私の護衛を諸君らで決めておいてくれ。他に質問は?」


 それからまばらに質問が起こり、あらかた出終わったタイミングでオーリスはブリーフィングを終了させた。

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