ystävä-友-

 竜に捧げる歌は本能的に知っていたが、タイヴァスの伝承を教えてくれたのは育ての母であるシスターだった。捨て子だった私達は同じ修道院で育った。修道院の庭にはスズランが咲いていた。私は庭で、ライカは川辺のスズラン畑で同じ日に拾われた。

 母は人間だったが、私達の血が青いと知ってなお、慈愛に満ちた母は実母のような愛をくれた。おやつには美味しいベリーパイを手作りしてくれた。夜には子守唄を歌ってくれた。


 修道院には一人、姉がいた。彼女も魔女だったが、十歳の誕生日に小さな竜の迎えでタイヴァスへと飛び立った。その日、隣の村で元捨て子だった美少年が神隠しにあったらしい。彼は姉と同じ日に拾われたという。


 竜の炎から生まれるのだから竜の多くはタイヴァスで生まれるけれど、地上で生まれた竜はきっと魔女が歌うまで人間の姿をしているのだ。お姉ちゃんは竜の花嫁になったのだと私達は密かに囁いた。


 子ども好きの母は昔から捨て子の面倒を見ていた。スズラン畑で拾った子は皆魔女だった。私達を拾った前夜にも、一人の魔女を見送ったらしい。彼女は十一歳だった。強く大きな竜が彼女を迎えに来た。強い竜を呼ぶのには多くの魔力が必要だったのだろうと母は言った。その日も、村はずれで元捨て子の男の子が神隠しにあったと聞いた。腕っ節の強い俊敏な男の子だったそうだ。私達の予想は確信に変わった。


 もちろん竜の多くはタイヴァスからやってくる。若く体力がある頃はもっと多くの魔女の子を育てていて、竜と魔女の伝承はタイヴァスから魔女を迎えに来た竜に聞いたと彼女は言った。普通の人間は竜の存在を知らないらしい。


 幸せな日々は九歳のある日、突然終わりを告げた。母は魔女を匿った罪で、魔女の一味として火あぶりにされた。母と同じように魔女の子を育てた人間の良心が一斉に焼かれた。

 その時、母が命懸けで私達を湖の畔へと逃がしてくれたおかげでライカと私は今生きている。


 私は泣き続けた。自分だって悲しいはずなのに、泣いている私を強く抱きしめてライカは毎日慰めてくれた。


「泣かないで。私はずっとエリザのそばにいるから」


 母を恋しがって眠れない私にずっと子守唄を歌ってくれた。母と同じ味のベリーパイを作ってくれた。唯一の友達にして最後の家族。生まれたときから片時も離れなかったライカだけが私の心の支えだった。


 昔を思い出しながら森でベリーを摘んでいると、教会の鐘が鳴った。結婚式があるようだ。木の陰からこっそり覗くと、見覚えのない司祭と美しい花嫁の姿が見えた。


「花嫁さん、綺麗だね」


 花模様のレースのヴェールを被った花嫁を見て、ライカは白い花を摘んで花飾りを作り始めた。器用な指先で花の冠を作ると、それを被った。


「見て、竜の花嫁さんみたいでしょ」


 白いワンピースを着て無邪気に笑うライカはとても可憐だった。私が男だったならば、きっと彼女に恋をしていた。私が頷くと「エリザ大好き」と鈴のような声で喜んだ。ライカはもう一つ花の冠を作ると、私の頭に被せた。


「エリザもとっても綺麗。エリザもきっと素敵な竜の花嫁さんになれるね」


 ライカが目を細めると、長い睫毛がいっそう映えた。優しいこの子の笑顔を守らなければ、と私は強く誓った。命に代えてもライカを守り続ける。いつかライカが運命の竜の花嫁となるその日まで。

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