第6話 愛する故郷にて 後編
「一曲所望されますか・・ふふ」
ハッとして振り返る
そこには懐かしい あの少年の姿
大きな砕けた建物の破片の座って リュートを手にしてる
呆けたまま 小さく頷く
「・・では」少年は微笑して リュートを奏でだす
祭りで幾度も聞いた 見知らぬ異国の曲
その妙なる旋律は
今 置かれた 残酷な現実をひと時 忘れさせてくれる
曲が終わる・・・
涙がそっと流れ落ちる
「では 代価を頂いても?」吟遊詩人の少年が問いかける
「え、あ」私は還す言葉を忘れて、戸惑っていたら
彼、吟遊詩人の少年はすぐ傍に それは音もなく降りてきて
首すじに牙を突き立てた。
「!」
血が一筋流れ落ちる
「・・悪くないですね 昔からそうだった 美味だった」
「そう泣かなくてもいいですよ 嘆かなくてもいいかも」
「多くは失われましたが 大事な幼馴染の子と貴方の妹は生きてますから」
「貴方が逗留した村で 貴方が帰った事を知って
もうすぐ 迎えに来るか くすくすっ」
吟遊詩人の少年の瞳が輝く金色に変わってる 不気味な笑み
「・・貴方は一体?」
「・・よく知ってるはずですよ
ああ、僕には『十字架』も『にんにく』も効きませんから
多少の日光も平気です うふふ」
牙を見せて 楽し気に笑う
「・・では またどこかでお会いできるでしょうね」
「私の故郷の街の崩壊は貴方のせいですか?」震える声で問いかける
「・・どうでしょうね さてね
黒死病の騒ぎに紛れ 多少 血を頂きましたが
直接的には 僕は関わってませんから・・・」
「良きクリスマスを・・」
微笑んで少年は仰々しく会釈をして消え去った
間もなく 二人の娘たちが こちらに向かって駆けてきた
「兄ちゃん!」
懐かしい 会いたかった 愛しい妹と愛する人
私は愛する人達を涙と共に抱きしめる
そして 頭の片隅で あの不思議な吸血鬼の少年の事を想う
微笑んだ笑みが どこか悲し気だった
FIN
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