第2話

当時のフィレンツェはまさにルネサンス真っ只中。


オスマン帝国の侵攻により東ローマ帝国は激しい戦禍に見舞われ、その中で数多くの有識者たちがフィレンツェに亡命し新しい文化をもたらし、いよいよ一四五三年にコンスタンティノープルが陥落され東ローマ帝国が滅亡すると、ローマ帝国支配下にあった人々は、それまでのキリスト教を国教とした封建的で戒律遵守の厳しい世界からの解放を謳い、精神的な自由、いわゆる人間性の解放を求めて、自由な文芸の復興を精力的に行い始めたのです。


しかしそれにより、これまで厳禁であった裸体をモチーフにした芸術作品が幾つも生み出されルネサンスの象徴となっていく中で、その裸体を誤解・曲解した一部の刺激に飢えた若者たちが「リベラツィオーネ・デル・カールポ(肉体の解放)」を唱え、自由な男女交遊に興じる一群を形成しており、ちょっとした社会問題になっておりました。


アンジョレッタが生まれたのは東ローマ帝国滅亡から三年後。


頭の先から爪先までルネサンス一色で育ったとも言える自由奔放な子で、十五歳になった頃にはごく自然な流れでそんな若者たちに加わり、彼女なりのルネサンスを謳歌しておりました。


しかし十八歳のある日のこと、とうとうそれが家族の知るところとなり、時代は変わっても古いしきたりを重んじる両親と三人の兄姉は彼女を激しく責めたて、常々そんな彼らとの暮らしを窮屈で退屈だと感じていたアンジョレッタは家を飛び出し、大都会フィレンツェへと旅立つことにしました。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る