第2話
満面の笑みで黄色い声を発しながらそれを抱き締め頭を撫でたりしている徹に、
「お前、なんか気持ち悪いな」
と遊佐木は顔をしかめながらも近付き、徹の腕の中から切なげな目で見詰めてくる生命体を、あらゆる角度から観察する。
「いやー、すごいですねぇ、こんなかわいい生物がこの世にいたんですねぇ。でも確かに新種かも知れませんね、犬でも無いし熊の子とかでも無いし、ウォンバット的な感じでもあるけど少し違うし」
さらには頬ずりなどをしまくって、そのもふもふ具合を全力で味わっている徹だったが、
「……いや、新種とかそういう問題でも無い気がしてきたな」
「え?知ってる動物だったんですか?何です?」
顔はもふもふにうずめたまま尋ねた。
「いや、全く知らない生命体だ。というか、想定外の生命体と言うべきだな」
「?よくわからないんですけど……」
首を傾げながらもその生命体を抱く腕は決して緩めない徹に、遊佐木は大きなため息をつき、
「いいか、まずそんなアニメキャラのようなピンク色の毛を生やした哺乳類は存在しない。哺乳類の毛にはメラニンという黒い色素が含まれていて、毛の色はその色素の濃淡で決まっているんだ。だから色素の無い白い毛から、段々とメラニン濃度が上がっていくにつれて、黄金色、茶色、黒、と色が濃くなっていくのであって、そこに赤だの青だの緑だのピンクだのといった色が生じる可能性は皆無なんだよ」
「そうなんですか?……って、何を遠ざかってんですか」
「いや、未知の生命体には最大限の注意を払う必要があるのでな。毒とか、突然の凶暴性とか」
言いながら後ずさり数メートル離れた大木の脇に立ち止まった。
「いやいや、そんなものがあるわけないでしょう、こんなかわいい動物に」
一瞬その生命体を見やりながらも徹はそれを手放さない。
「お前がどう思うかなど現実の現象には何らの関係も無いぞ。しかし……哺乳類で無いとすればそれは何だ?そんな甘ったれた座敷犬のような
「さすがに昆虫ってことは無いんじゃないですか?」
「わからんぞ。昆虫にも毛ぐらいいくらでも生えている。毛虫が
「が?」
「……こういった通常の進化や系統から外れた不可解な動物のことを何と呼ぶか知っているか?おおよその場合はオカルト用語として用いられているが」
「……
腕の中のそのかわいい生命体をまじまじと見詰めながら徹が不満げに言うと、生命体は相変わらず小さく震えながらそっと徹の胸元に顔を擦り寄せた。
「かわいいなどという人間の主観も生物の
「先生にはチュパカブラがかわいいと認識されているんですね」
「かわいいだろ、獲物の骨までむさぼり尽くしそうな凶悪極まる顔をしてるのに血を吸うだけな所とか、『チュパ』がスペイン語なのに『吸う』という意味で、日本語の吸引の擬音とかぶってる所とか。まぁそんなことはどうでもいい。とりあえずそいつがUMAなのだとしてだ。だとしたら、私は科学者だからな、やるべきことは決まっている」
とポケットからニトリル製のオペ用手袋を取り出し、遊佐木は装着しながら徹の方へとゆっくりと近付き始める。
「あ、先生もやっぱり抱いてみる気になりました?手袋越しでもこの魅惑のもふもふ感は伝わると思い……」
「よし、解剖しよう」
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