敵襲

 アカネを加え、エルクたちは村を出発した。

 アカネ曰く、村は解体されるようだ。老若男女問わず全員が連れて行かれ、鉱山や農場などで強制労働となる。幼い子供や老人などもいるが、悪事と知りつつ放置した罪はある。

 ヤマト国には、このような村がいくつもある。

 エルクは、馬車の中でアカネに質問した。


「な、アサシンって他にもいるのか?」

「ああ。養成所がある」

「へぇ……あんたもその養成所を?」

「そうだ。18で卒業して、今は19……アサシンでは新人だ」

「年上かぁ。スキルは?」

「卒業し、政府に仕えるアサシンとなった時に解放された。空中に足場を作り出すスキル、『力場エアポート』のレベル20だ」

「ふむふむ。な、カヤとは知り合いなのか?」

「ああ。カヤは御庭番衆だが、アサシン養成所では後輩だった。御庭番衆とは、表舞台で活躍するアサシンのような存在だからな」

「ほほう……」

「お前……アサシンなのだろう? ガラティン王国のアサシンはどういう教育を受けるのだ?」

「いや俺、アサシンじゃないって」

「では、その装備は何だ?」

「…………エマの趣味」

「は?」

「ちょっと、さっきからそこの二人、うるさいわよ」


 ヤトがエルクとアカネの間に割り込んだ。

 エルクはやや不満げに言う。


「別にいいだろ。もう隠し事ないし」

「あなたね……はぁ」


 ヤトがため息を吐く。そして、カヤと御者を交換していたソフィアが言う。


「ヤトさん。あなたにどんな事情があろうと、ここではガラティーン王立学園の生徒として、ヤマト国政府代表ビャクヤ殿に書状を届けるという任務を忘れないように」

「わかっています。ですが、家族と別れるくらいの時間はありますよね?」

「……厄介事になる可能性は?」

「非常に高いです」

「……はぁ。我々は使者です。ヤマト国政府と争う気はありません」

「その場合は、私だけで戦うので」

「……戦うのは、確定事項なのですか?」

「ほぼ確実に。兄上、姉上、妹の三人が、私を見逃すはずがありません。私は櫛灘家の汚点ですので」

「…………いちおう、自衛の許可は学園から出ています。私の任務に《生徒を守る》というのもありますし、あなたたちを守ります」

「ありがとうござます」


 ヤトは、《いざという時にヤトに手を貸す》と解釈した。

 そして、ヤトはエルクを見る。


「エルク。兄様、姉様はトリプルスキル、妹のヒノワはスクウェアスキルの天才よ。純粋な剣術では、私は三人の足元にも及ばないわ」

「え? あ、ああ」

「いざという時は……あなたに任せる」

「え、俺?」


 エルクはいまいち理解していない。

 だが───カヤは信じていた。自分が深く傷つけば、エルクは立ち上がってくれると。

 恐らく……エルクなら、ビャクヤ、ユウヒ、ヒノワの三人と戦える、と。

 

「な、家族なんだろ? 戦って……」


 と、エルクは言いかけて……やめた。

 家族に関して、エルクがどうこう言う資格はない。そもそも、エルクも家族だった人間を傷つけ、その家を潰そうとしている。

 

「……なに?」

「いや……なんでもない」


 ヤトもまた、いろいろ抱えている。エルクはそう思い、それ以上何も言わなかった。

 話題を変えようと、アカネの方を見る。

 アカネは、ヤトの方を見ていた。


「それにしても……生き写しのようですね」

「…………」

「夜葉様……あなたの、ご母堂様に」

「やめて」


 ヤトは、アカネを真っすぐ見て拒絶した。

 エルクは首を傾げて聞く。


「ヨルハ?」

「……馬鹿な母親よ。お願い、それ以上は聞かないで」

「お、おう……」

「……申し訳ございませんでした」


 アカネも頭を下げた。

 どうやら、ヤトにとって触れてはいけない部分らしい。

 話題を変えようと、エルクはアカネに質問することにした。


「な、ヤマト国の町って───……」


 と───そこまで聞いた瞬間、馬車が急停止した。

 いきなり急停止したことで、馬車内が揺れる。

 そして、カヤが叫んだ。


「ヤト様、敵襲です!! 夜祭遊女です!!」

「「「「!!」」」」


 最初に飛び出したのは、ソフィア。

 次にヤト、アカネ、最後にエルク。

 エルクは、眼帯マスクを装着しフードを被ったことで最後となった。

 馬車から飛び出すと、着物を着崩した女が数人と、騎士風の男たち、チンピラ風の男女が馬車を囲んでいた。

 プルミエール騎士団、夜祭遊女、暴王の構成員。今では統一し『女神を崇めし者たちアドラツィオーネ』と呼んでいる。

 エルクは舌打ちする。


「チッ……アドラツィオーネ、ヤマト国にも来てたか」

「エルク。瞬殺禁止ね」

「へいへい」


 ヤトが《六天魔王》を抜き、構えを取る。

 カヤも薙刀巴御前をウェポンボックスから取り出し、頭上でクルクル回転させる。

 ソフィアは、ウェポンリングから一本の聖剣を抜いた。そして、アカネに聞く。


「手を借りても?」

「ああ。S級危険組織は、我々アサシンにとっても排除すべき敵だ」

「感謝します」


 そして、エルクは……静かに両手を広げた。


「じゃあ、やりますか」


 ◇◇◇◇◇


 アドラツィオーネの構成員が襲い掛かってきた。

 ヤトは六天魔王を構え走り出す。そして、騎士風の男の剣を紙一重で躱した。

 スキル《洞察眼》───攻撃を見切る眼。レベルが上がり、効果が上がった。

 ヤトは、振り下ろされる剣の腹に、六天魔王を合わせる。


「───なっ」

「『破刃』」


 騎士の剣が折れた。

 武器破壊の技。剣が折れた騎士は無防備になる。

 そこに、六天魔王による斬撃を放つ。


「『六道刃』!!」


 六回の斬撃により、男は血を噴き出して倒れた。

 ヤトは技を放つと同時に納刀し、構えを取る。

 背後で隙を伺っていた夜祭遊女の女が、持っていた扇から無数の『糸』を伸ばした……が。


「居合技───『旋虎』」

「!?」


 捻りを加えた居合が、糸を全て絡め取り切断した。

 すぐに納刀し、一瞬で女の間合いに入り、居合で両腕を切断する。


「っがぁぁぁぁ!? ぐげっ」


 そのままハイキックで女の首を叩き、意識を刈り取る。

 すると、ヤトの両側からチンピラ風の男女が迫っていた。

 一人は鎖を振り回し、もう一人はナイフを両手に持っている。

 ヤトは舌打ちし、居合の構えを取る……が。


「はぁっ!!」

「疾ッ!!」


 カヤの薙刀、アカネの掌底が男女を吹き飛ばす。

 ヤトを守るように、カヤとアカネが構えを取った。


「あなたたち……別に、守らなくていいわよ」

「そうはいきません。この連中……かなり手ごわいです」

「確かに、素人ではありませんね。カヤ、ヤト様、油断せぬよう」

「そうね……あっちみたいに、楽にやれればいいんだけど」


 ヤトが視線を送った先は、エルクとソフィア。

 ソフィアは、聖剣片手に大勢に囲まれていたが……全く余裕だった。


「ふふ、久しぶりです。こんなに大勢、敵意を持った人たちに囲まれるなんて……あぁ、滾ってきます」


 元、剣聖。

 スキル名ではなく、剣を極めし者に送られる称号。

 ソフィアは、ガラティン王国始まって以来、歴代最年少の剣聖だった。だが、教師になるという夢を捨てきれず引退した過去を持つ。

 ソフィアが持つ聖剣「エクスカリヴァー」は、かつてソフィアが攻略したダンジョンの秘宝。七つの能力を持つ武器である。

 アドラツィオーネの精鋭だろうと、ソフィア相手では分が悪い。

 そして、エルク。


「悪いけど、お前ら相手に遠慮はしないからな」


 両手を地面に向けると、大量の小石が浮かぶ。エルクが腕を振ると、小石が弾丸のように放たれ、アドラツィオーネの構成員たちを直撃する。

 何人かは防御するが、『念動舞踊テレプシコーラ』で急接近したエルクの拳、キックを受けて数十メートル吹っ飛ぶ。

 エルクは右手の短弓を展開し、矢を発射。念動力で操作された矢は、アドラツィオーネの構成員たちの両腕、両足を綺麗に貫通する。

 無数の絶叫が響き、何人も地面に転がる。

 ヤト、アカネ、カヤの三人は、ようやく四人倒したというのに……ソフィアとエルクだけで、二十人以上倒していた。


「……どうやら、負けの心配はないわね」


 ヤトがそう呟いた七分後、アドラツィオーネの構成員たちは撤退した。

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