真の実力

 念動力解放率60%

 エルクは『念動舞踊テレプシコーラ』で身体を操作し、ロロファルドと真っ向勝負に持ち込む。

 ロロファルドの武器はナイフ。右手に持つ黒いナイフをクルクル回し、エルクの首を狙い斬りかかる。

 エルクは、そのナイフをブレードで防御、ハイキックで側頭部を狙うが、ロロは回避。

 ロロは、服に仕込んでいたダガーナイフを何本か取り出し投げる。

 だが、エルクは全てのナイフを空中で止め、逆にロロへ向かって投げ返した。


「わお」


 ロロは、両手のナイフを高速で振るい、全てのダガーナイフを弾き砕いた。

 エルクは右の短弓を展開、矢を装填しロロへ放つが、ロロは矢を切り落とした。

 念動力を纏わせたナイフを、容易く切った。

 

「人形とは違う……」

「当然。あんな出来損ないと一緒にしないでよね」


 短剣技のマスタースキル、『ジャックザリッパー』

 ナイフ使いの到達点。ロロは間違いなく、ロシュオやエルウッドより強い。

 でも───それだけだ。


「エルクさん、やっぱり強いね……その辺の雑魚とはレベルが違う」

「……そりゃどうも」

「ね、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない? エルクさん、ピピーナ様からどんな『チートスキル』をもらったの?」

「だから、もらってないっての。しつけーな」

「嘘ばっかり。まぁ───どんなスキルだろうが、ボクの前では無力なんだけど」


 ロロは両手を広げる。


「スキル領域展開───……『スキルキャンセラー』」


 空間系スキル、『スキルキャンセラー』

 ロロが許可したスキルのみ使用可能な空間を展開する。

 ロロが許可しないスキルは、一切が使用不可。つまり、エルクは念動力が使えない。

 どんなに強くても、エルクの強さはスキルに依存する。スキルがないエルクなど、ロロの敵ではない。

 人形の時とはスキルの密度が違う。


「さぁエルクさん、これでも勝てると思う? 今のあなたはスキルが使えない……どうする?」

「こうする」


 エルクが地面に手を向けた瞬間、ロロの身体が爆発的に浮き上がった。


「!?───っごぇ!?」


 そして、天井に叩きつけられ落下。

 受け身を取れずモロに地面に叩きつけられ、肺の中の空気が全て出た。身体が痺れて動けない。目の前がチカチカし、『スキルキャンセラー』が解除された。

 すると───ロロの身体が浮かびあがる。

 高速で移動し、近くの壁に叩きつけられた。痛みを感じる間もなく、ピンボールのように大聖堂の壁に叩きつけられる。

 そして、エルクに向かって思い切り引き寄せられ───その顔面に、拳が突き刺さって吹き飛んだ。


「だらぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ぐ、が、っはぁぁ!?」


 地面をゴロゴロ転がり、エレナの足元で止まる。

 ロロはゲホゲホむせて、意味が分からないのか目をグルグルさせる。

 エレナは、ロロにそっと触れた───次の瞬間、ロロの負傷が完全に回復する。

 ロロはゆっくり立ち上がる。


「……何をした?」

「空間系スキルの効果範囲。どのスキルも最大半径50メートルなんだろ? だから、お前が立つ地面の真下、50メートル部分を念動力を使って全力で持ち上げた。お前は天井に叩きつけられたってわけだ」

「…………」

「スキルキャンセラー、だっけ? どんなに強い空間系スキルでも……一度見た能力だ。対処法を考えるのは当然だろ」

「…………」

「俺を舐めるからこうなるんだよ。ビビりで人形なんかに戦わせるからだ」

「…………おまえ」

「ここまでね、ロロファルド」


 ロロの顔色が変わった瞬間、エレナが止めた。

 エルクは、エレナを睨む。


「次はエレナ先輩が相手ですか?」

「ごめんなさいね。私、戦闘能力皆無なの……エルクくん、今日はここで引くわ。ふふ、またね」


 エレナが指を鳴らすと───ロロ、ラピュセルと一緒に煙のように消えた。

 残ったのは、倒壊寸前の大聖堂。そして、生徒たちの死体。

 エルクはマスクとフードを外す。


「はぁ……」


 すると、大聖堂の柱の陰から、小さな蝶が飛んできた。


「お、おわった~?」

「シルフィディ、大丈夫だったか?」

「う、うん……」


 シルフィディは、巻き込まれないようにエルクが念動力で保護し、近くの柱の陰に隠していた。

 シルフィディは怪我一つない。エルクは安心した。

 だが……負傷者、死者は出てしまった。

 すると、大聖堂の扉が開きポセイドンたちが入ってくる。


「エルクくん!! よかった、無事だったか……」

「校長先生……」

「女神聖教は退いたんじゃな? だが……この有様は」

「……すみません、守れませんでした」


 教師数名、生徒大勢の死体が転がっている。

 だが、ポセイドンは頷いた。


「大丈夫じゃ。ダンジョン化は解除されたようじゃが、ダンジョン内で死んだのなら蘇生スキルと蘇生魔法の対象に入るじゃろう。ナイチンゲールを呼んで、全員復活させようぞ」

「は、はい……よかった」

「さて、今回もいろいろ聞かせてもらう必要がありそうじゃ」


 エルクは、ポセイドンと一緒に大聖堂を出た。


 ◇◇◇◇◇


 当然のことだが、この日の授業は無くなった。

 生徒たちの安否確認、死者の蘇生、捕らえた生徒の洗脳を解く。

 ポセイドンたち教師は、投入された生徒約七十名を捕獲することに成功していた。

 急遽呼び出されたナイチンゲールが、魔法で洗脳を解くが……。


「……これほど高度な洗脳は、見たことがありません」


 驚き、感激すらしているようだった。

 後片付けの始末を教師たちに任せ、エルクはポセイドンとエルシに話をしていた。


「なるほどのぉ……」

「つまり、上級生を含めた『誘拐』が奴らの目的だったのか」


 ポセイドンは髭をいじり、エルシは悔しそうに歯ぎしりをする。


「不覚……新入生だけでなく、上級生まで誘拐されるとは」

「被害人数は三十名くらいかの。でも、誘拐された新入生約七十名は戻ってきた。まぁ……ヨシとは言えんが、悪いことばかりではなかったようじゃな」


 エルクは、ポセイドンとエルシに言う。


「あの……俺、寮に戻っていいですか? みんなが心配で」

「そうじゃな。戻ってええぞい。朝ご飯もまだじゃろ?」

「……あはは」


 エルクは腹を押さえ、苦笑いして校長室を出た。

 ポセイドンは、エルシに言う。


「二度目の襲撃……さすがに、ガラティン王国も動くじゃろうな。それに、ワシもそろそろ本気でやらんとなぁ」

「校長……」

「ほっほっほ。それにしても女神聖教……何が目的なんじゃ?」


 ポセイドンの問いに、エルシは答えられなかった。


 ◇◇◇◇◇


 寮に戻ると、ちょうどソアラとヤトがドアを開ける瞬間だった。

 さらに、カヤも戻ってきた。

 シルフィディが飛び出し、ソアラの頭の上に載る。

 

「ヤト、ソアラ、カヤ……よかった、無事だったか」

「みんなよかったぁ~~~……」

「わたし、無事だよ。よくわかんないけど、がんばったの」

「……本当に、わけがわからなかったわ」

「同じく。向かって来る敵だけを斬ったけど」


 怪我らしい怪我もしていない。

 寮のドアを開けると、ソフィア、ガンボ、フィーネがリビングの掃除をしていた。


「ガンボ、フィーネ、ソフィア先生……無事だったか」

「あったりまえだろ。つーか、マジでなんだったんだ?」

「ね、ね、エルク。エルクは大丈夫なの?」

「俺は平気だ」


 と、キッチンからメリーとニッケスが大皿片手にやってきた。

 大皿には、サンドイッチや唐揚げなどがたくさん載っている。


「まずは腹ごしらえ!! だとよ」

「ニッケス!! 無事だったのか」

「おう。メリーも無事だぜ」

「……私、何も活躍できませんでした」

 

 ちょっと項垂れるメリー。口元がへの字になっていた。

 そして───……階段から、寝間着姿のエマが下りてきた。


「ふぁぁぁ……眠いですぅ」

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

「みなさん、おはようございます~……顔、あらわなきゃ」


 学園がダンジョン化したことなど知らず、エマはのんびり起きて顔を洗いに行ってしまった。

 寝坊……それが、このダンジョン化した学園から身を守る、最高の手段だったのかもしれない。

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