女神聖教七天使徒『愛教徒』ラピュセル・ドレッドノート⑨/強敵

「ほぉぉぉぉぉ~~~~~ぁたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたっ!!」

「ぐっ……ッ!?」


 超高速のラッシュがエルクを襲う。

 念動力で身体を覆っても『響く』打撃だった。エルクは両腕を交差し、ラピュセルの拳を防御する。打撲や打ち身という負傷ではないが、痛いのに変わりない。

 バックステップで逃げようとしても、ラピュセルがすぐに追いつく。

 休まず殴る。それがラピュセルの戦法だ。


「このっ……」


 エルクは右足を踏みつけ、念動力で床を砕く。

 衝撃で一瞬だけ建物が揺れるが、なんとラピュセルは衝撃に合わせて身体を揺らし、さらに揺れた衝撃そのものを力に変えて正拳を放つ。


「『震撼しんかん』!!」

「!?」


 ズドン!! と、エルクの腹に拳が突き刺さる。

 念動力の防御をすり抜けた重い一撃。ラピュセルが踏み込んだ衝撃で、再び建物が揺れた。


「っがは……くっ、お前」

「受け入れなさい。神罰を」


 かかと落とし。

 足にきてしまい、避けられない。

 エルクは両腕を交差してラピュセルのかかと落としを受け止めるが、恐ろしい衝撃で立っていられず、そのまましゃがみ込んでしまった。

 強い。

 女性で、しかも外見はどう見てもシスターにしか見えない。だが実際はバリバリの近接戦闘タイプ……ヤトよりも、バルタザールよりも、今まで出会った誰よりも強かった。

 エルクは足払いを仕掛けるが、ラピュセルは身体を捻った回転飛びで回避。そのまま空中で足をバタバタさせ軌道を変え、エルクに蹴りを放つ。


「ぶはっ!?」


 頬を蹴られ、エルクは床を転がる。マスクとフードが外れ、素顔があらわになった。

 すぐに身体を起こすが、ラピュセルはすぐ真横で拳を構え、エルクの顔面に向かって打ち下ろしの右を放つ。

 驚く間もなく、エルクは念動力で瓦礫を引き寄せ防御。だがラピュセルの拳はエルクの念動力で覆った瓦礫を容易く砕いた───攻撃力が、上がっている。

 エルクは『念動舞踊テレプシコーラ』で無理やり回避。多少の距離ができた。


「ふふ……ようやく、温まってきましたね」

「この、野郎……いかにも『直接戦闘は苦手です』みたいなナリのくせに、滅茶苦茶動くじゃねーか」

「あらら、騙されちゃいました?」

「ああ、おかげでな」


 エルクは肩をぐるぐる回し、ニヤリと笑う。

 そして、ゆっくり両手を広げ───言った。


「三割じゃ無理か……じゃあ、五割でやってやるよ」


 エルクの念動力解放率───50%


 ◇◇◇◇◇


「はぁッ!!」

「シッ!!」


 ロシュオの剣を、エルウッドは双剣で受け止めた。

 明らかに、レベルが上がっている。以前のロシュオは剣技こそエルウッドより上だったが、『双剣技』と『神速』を合わせたエルウッドには及ばなかった。

 だが、今は双剣技と神速を合わせたエルウッドと互角だった。

 互いに離れ、剣を構える……すると、エルウッドが言う。


「この短期間で、どれだけレベルが上がったんだ……?」

「簡単だ。女神聖教指導者、ピアソラ様の『チートスキル』のおかげさ」

「……チート、スキル?」

「ああ。女神様が七天使徒にのみ与えた、唯一無二のスキル。ピアソラ様のチートスキルは、『他者のスキルレベルを上げる』ことができるんだ!! さらに、新たなスキルを授けることもできる……オレはまだシングルだが、いずれダブル、お前と同じトリプルになってみせるぜ」

「スキルを与えるスキル……馬鹿な、あり得ない」

「あり得ないなんてことはあり得ないのさ……どうよ、エルウッド。そろそろ考え直せ。こっちに来れば、お前のスキルもレベルが上がるし、さらに進化するぜ?」

「興味ない」


 エルウッドは、バッサリ切り捨てた。

 スキル、スキル進化、レベル、マスタースキル。

 どれも、ただの能力だ。本当に大事なことを、エルウッドは知っている。


「ロシュオ……お前こそ、こっちに戻って来い!!」

「は?」

「本当に大事なものは、スキルなんかじゃないだろ? お前にだって、家族や友人が」

「くっせーよ。ったく、青くせぇガキだとは思ってるけどよ……大事なのは、どれだけ自分が裕福に、自由になれるかだろうが。お前だって自由になりたいとか言ってたくせに、青くせぇこと言ってんじゃねぇよ」

「…………」


 エルウッドは黙り込む。

 自由───確かに、エルウッドに自由はない。

 世界最大の王国、ガラティン。

 第一王子として生まれたエルウッドは、幼いころから次期国王としての英才教育を受けてきた。

 でも……本当は、王様なんてやりたくない。

 トリプルスキルとして生まれたエルウッドは、冒険者になりたかった。

 学園で学び、冒険者として経験を積み、仲間と共にダンジョンへ潜り、お宝を探し、町の酒場で飲み会をして───そんな生活に、憧れていた。

 だけど、ロシュオのいう自由と、エルウッドが夢見る自由は、きっと違う。

 エルウッドは双剣を構え、ロシュオに言う。


「ロシュオ───確かにオレは自由を夢見てる。でもそれは、大事なものを踏みにじって得る物じゃない!!」

「はっ、だったら永遠に夢見てろ。ま───……お前は女神聖教に連れて行くけどなぁ!!」


 ロシュオが構え、飛ぶ。

 

「剣聖技───『聖十字斬』!!」


 速い、強い、重い───きっと、エルウッドでは受け止めきれない。

 エルウッドは、静かに呟いた。


「スキル展開───『風哮陣タービュランス』」

「ッ!?」


 ロシュオが驚愕する。

 空間系スキル。

 レアスキルの一種で、自身を起点に半径五十メートルほどの《空間》を形成する能力。スキル進化で得られる場合と、初めから持っている場合の二種類が存在する。

 エルウッドの三つ目の空間系スキル『風哮陣タービュランス』は、空間内に暴風を巻き起こすことが可能。その暴風は、エルウッドの意志で操作可能。

 飛び上がったロシュオに暴風を叩きつけ、剣聖技が崩れる。

 同時に飛びあがったエルウッドは、逆に暴風を背に受け爆発的に加速し、双剣を構えた。


「この、エルウッドぉぉぉぉっ!!」

「双剣技、『烈風連牙刃』!!」


 エルウッドの連続斬りが、ロシュオを切り刻む。

 だが、不安定な態勢ながらもロシュオは防御。数回斬られたが、着地した。

 エルウッドは再び構えるが、ロシュオは盛大に舌打ちした。


「覚えてろ……エルウッド、テメェも兄貴と一緒にブチ殺してやるからよ!!」


 そう言って、ロシュオの姿が消えた……脱出系スキルだ。

 エルウッドはスキルを解除し、歯を食いしばる。


「ロシュオ……きみは間違っている。必ず、オレが連れ戻す」


 決意を胸に、エルウッドは双剣を強く握りしめた。

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