第4話 あなたと分けるなんて一言も言ってない
時計を見ると、10時10分だった。ほとんど時間が経っていないのが不思議だ。
「マリアちゃん、帰ろう。」俺は促した。
はっと気づいたマリアは、なぜか俺に抱き着いてきた。
「怖かった! 愛田さん、守ってくれてありがとう!」
俺は戸惑う。何もしていないからだ。
「いや、俺は何もしていないよ。」
「そんなことない!居てくれただけでも心強かったし、私を逃がそうとしてくれたでしょう!」
なんだか評価されすぎのような気がする。
君がいると足手まといなんだ、って本音だったんだけどな。
「とにかく帰ろう。君の家はあっちだよね。」」
「はい、行きましょう!」マリアはそう言うと、俺の腕をとり、ぴったりくっついてきた。
「あの…マリアちゃん…」俺がおずおずと言うと、
「怖いんで、家までこれでお願いします!。」と言われてしまった。
甘い匂いがするし、ちょっといけない気持ちになりそうだ。
だが彼女は弱っているだけだ。変な気を起こしたら、あとが面倒だ。下手をしたら訴えられるかもしれない。コンプライアンス万歳。
俺はなんとか理性を保ちながら、一軒のアパートの前に着いた。
「じゃあ俺はこれで。」帰ろうとしたら、マリアに止められた。
「お茶くらい飲んでいってください。お願いです。」マリアは真剣なまなざしで俺を引き止める。
j仕方なく俺は言う。「じゃあ、ちょっとだけ。店長も連絡するから。
俺はそういって、店長に電話し、帰りに怪獣のようなものに襲われかけたが、無事に送り届けたこと、彼女が心細いので少し一緒に居てほしいといっていることを伝えた。
店長は、「とにかく安全第一でね。あと、彼女がバイトを辞めないように、、君の魅力で引き止めてね。」
と言った。
まあ魅力はどうでもいいが、彼女がこれでバイトをやめると、店への損失が非常に大きいことは確かだ。
俺は電話を切り、彼女の部屋にお邪魔した。
正直、女の子の部屋に入るのは初めてで、ドキドキする。
彼女の部屋は1Kで、俺の1DKより狭い。
玄関を入ると左側に浴室と洗面所があり、右がトイレとキッチンスペースだ。
ダイニングテーブルなどは置けないが、ワゴンが置いてある。
部屋に通された。二人がけのソファーと小さいテーブルがあり、向かい側にはテレビと本棚がある。
ソファの隣には机とカラーボックスがあり、部屋の一番奥にベッドが横向きにおいてある。
ベランダにはベッドを乗り越えないと出られないな、などとどうでもいいことを思った。
ちなみに作り付けのクローゼットが部屋の隅にある。
「散らかっていてすみません。」彼女は言うが、散らかるものはなにもない。シンプルだ。
むしろ服とか収納ができているのが不思議なくらいだ。
本棚を見ると、下のほうは専門祖だが、上のほうには魔法少女のコミックやらDVDやらフィギュアが並んでいる。以外だ。
「あまり見ないでください…。」彼女は照れたように言い、インスタントコーヒーをマグカップに入れて持ってきた。
二人ソファにならんで座り、インスタントコーヒーを飲む。
「さっきの、何だったんだろうね。」俺は彼女に言ってみる。
「あれは、多分魔物ですね。実物は怖いものですね。」マリアが言う。
「そういえば、ネコカレーとか言ってたね。それが魔物の名前なの?」俺は聞いてみる。
「いえ、違います。ただ語り始めると長いですよ。」マリアはちょっとおどけて笑う。
どうやら、もう大丈夫そうだ。
俺はコーヒーを飲み終えると、席を立つ。店長が待っている。もう11時前だ。
「また、お礼ををさせてください。」マリアが言う。別に俺は何もしなかったし、お礼と言われてもな。
「じゃあ、一つお願いだよ。こんなことがあったけど、バイトは辞めないでね。」
店長のためにもこれは大事だ。
「はい!辞めません。明日もシフト入ってます。!」マリアは元気よく答えてくれた。もう大丈夫だな。
良かった。
部屋を出ようとすると、彼女が抱き着いてきた。巨乳が押し付けられるとドキドキする。
「今日は本当にありがとうございました。優しくて頼もしい愛田さんがいなかったらどうなっていたことかと思うと、震えます。」
俺もドキドキしている。ただ、彼女の気の迷いだろうから、変なことをしてはまずい。
俺は彼女の頭をぽんぽんと軽くたたき、「大丈夫だよ。じゃあね。また明日。」そう言って彼女の部屋を出た。
我ながら理性があってよかった。コンプライアンス万歳。
戻るともう11時半だった。店長に説明する。
結局、店長との話し合いの末、明日から彼女のシフトを9時までにし、俺が送っていく。店長は9時に来て、俺が戻るまでワンオペとすることで合意した。
12時になったので、上がることにした。一応、残ってやることがあるか店長に確認したが、普段のルーディン以外は無いとということなので、上がらせてもらう。
出る前に、目をつけてあったパンプキンティラミスとシャインマスカットチーズケーキを買う。スイーツは要冷蔵だから、直前に買わないとな。あとは発泡酒と、今月キャンペーンのレモンサワーも買い、レジ袋に弁当と一緒に詰めて、部屋に戻る。
部屋の電気がついている。ヒーラーGとアルケゴスはもう来ているな。
ドアのノブを回る。やはり鍵はかかっていない。
「ただいま。」俺は声をかける。
「お帰りなさい。お魚は?」玄関まで迎えにきたアルケゴスが聞いてくる。
「ああ、鮭だよ。ちょっと待ってな。」
俺はキッチンに袋を置き、ヒーラーGにも挨拶するため、部屋の戸を開ける。
「ただいま。」」
「「お帰りなさい。。」」 少女二人の声がした。
こたつには、ヒーラーGだけでなく、黄色と白を基調にしたひらひらドレスを着た少女が座っていた。 さっきの女の子だ。
「君は、さっきの…。」俺は口に出した。
彼女はにっこり笑った。近くで見ると、ヒーラーGとはまた違う可愛さだ。
顔つきが上品で、落ち着いた感じだ。ヒーラーGよりもちょっと大人っぽいけど、やはり少女だ。
「初めまして、というか二度目ましてね。魔法少女連合、正義の味方本部の己ナミ(おのれ・なみ)よ。よろしくね、」
「は、はあ。」俺はちょっと動揺した。
まさか、ヒーラーG以外もくるとは思わなかったからだ。
「込み入った話をするのは、私より、知的な作業が得意なナミさんに任せたほうがいいと思ったのよ。ナミさんのお茶はおいしいしね。あ、スイーツ買ってきたわよね。」
ヒーラーGはこともなげに言う。
あれ、スイーツ2つしかない。
「スイーツ2つしかないぞ。」俺は言う。
「だから何?」ヒーラーGは言う。
「二つのうち私が好きなほうを取るか、半分こする。その相手はナミさんよ。あなたと分けるなんて一言も言ってないわ。だいたいあなたはアルケゴスと弁当を分けるんでしょ。」
あまりにごもっともだ。
「ねえ、お魚まだ?」アルケゴスが催促してきた。
仕方ない。 俺は弁当から鮭を取り出し、お湯で洗ってほぐす。
ミルクとともにアルケゴスに出してやる。
スイーツとスプーンをこたつの上に置く。
ヒーラーGはそれを見て言う。
「あら、一郎のくせに趣味いいじゃない。生意気ね」
なんだそれは、お前はジャイ〇ンか。だがそんなことは言わず、俺は彼女たちにスイーツを勧める。
「どうぞ。」
「お茶を淹れるわ。ちょっとキッチン借りるわね。」
己ナミという少女は言い、席を立った。
ナミは三人分の紅茶を淹れてきてくれた。しかも品のいいカップだ。大きなティーポットもある。
雰囲気的に、ストレートでひとくち飲んでみる。
芳醇な香りが口の中に広がる。
「おいしい。紅茶がこんなにおいしいなんて初めて知りました。」
なぜか敬語になってしまった。
「お口に合ったようで、よかったわ。」ナミは言う。
ふと気づいて、おれは付け加えた。
「綺麗なカップですね。」
「ありがとう。とっておきのお気に入りなのよ。」ナミは笑顔で答えてくれた・
ヒーラーGが付け加える。
「あ、そのジノリのカップ、一つで10万円するからね。」
俺は紅茶を噴出しそうになった。それからは紅茶の味なんてわからない。
とにかく、割らないように飲み終えることで必死になった。
何とか飲み終えて、こたつの上のソーサーにそっと置く。
「美味しかったです。」俺は何とか口に出した。
「あらそう、おかわりはいかが?」
お願いですからもう勘弁してください。何かあると俺の月収が吹っ飛びます。
「ちなみに、その紅茶、フォートナム・メーソンのロイヤルセレクトで、エリザベス女王がお客と飲むやつだよ。ホテルなんかでは一杯2万から5万くらいかな。」
ヒーラーGがまた余計なことを付け加える。味がわからないままに飲んじまったよ。
ヒーラーGは慣れているのだろう。彼女はシャインマスカットティラミスを美味しそうに食べながら、平然と飲んでいる。
「美似、なんのためにナミを連れてきたのよ。そろそろ説明してあげなさいってば。」
アルケゴスが横から口を出す。
まあ、とにかく紅茶のことをは忘れて、ナミという少女の話を聞こう。
パンプキンティラミスは食べたかったな。
ーーー
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。
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他には何もいりません(いや、それはウソです、レビューもフォローもコメントも嬉しいです。でも★が欲しい!)
ちょっとなりふりかまわず書いてみました。
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