猫を助けたら俺の部屋が魔法少女のたまり場になってしまった件
愛田 猛
第1話 コードネームはヒーラーG
「それじゃ、お先に上がります。」夜の12時にシフトを終えた俺は、店長に声をかけた。店長はオーナーでもある。俺は愛田一郎。コンビニのバイトだ。
バイトといっても、他の職業があるわけではない。週にだいたい5-6日シフトに入っている。シフトは8時間。だいたいいつも、夕方4時から夜12時までの勤務だ。
「お疲れ様。いつもありがとう。」店長が言ってくれる。店長は10時ころ来たが、これから朝までシフトでワンオペだ。
「いえいえ。店長、無理しないでくださいね。あと、これ買いましたから。」そういって俺は20円引きの牛乳を見せる。放っておくと廃棄になるものや、キャンペーンで数をこなす必要のあるものなんかを毎日買って、ささやかな売上貢献をしているのだ。
まあ、実は廃棄の弁当をもらっていることもある。本当はいけないのだが、店長は何も言わない。というか勿体ないから持って行ってくれ、と言ってくれる。 そのため、俺の食事は、ほぼ毎回、売れ残りの弁当やおにぎりだ。
おかげで俺の家計についていえば、まかないつきのバイトみたいなものだ。この時間のシフトは、好きな廃棄弁当が選べるので、実は気に入っている。
それどころか、店長には感謝してもしきれないところがある。
俺の部屋は1DKだが、このアパートの大家さんも、店長なのだ。
職住隣接で徒歩一分。 給料は安いけど、待遇についてはそれほど悪くない。
今夜は廃棄の鮭弁当、おにぎり、サンドイッチを、買った牛乳とともにレジ袋(もちろんこれも買った)に入れて持つ。
おにぎりとサンドイッチは今から食べるわけではなく、明日の食事だ。
店の裏から出て、表をぐるっと回ってアパートへ戻る。アパートはコンビニの裏の敷地だが、塀で仕切られているのでコンビニから直接はいけない。まあそんなのに文句を言ったら、埼玉の奥から都心に通うサラリーマンに殴られれるだろう。 あ、埼玉をディスるつもりはありませんよ。念のため。
アパートの階段を上がったところに、一匹の黒猫が倒れているのを見つけた。毛並みは綺麗だが、傷ついていて血と泥で汚れている。
「おい、大丈夫か。」声をかけてみる。
猫はちょっとだけ顔を上げたが、また目を閉じた。これはかなり弱っているな。
「ちょっと我慢しろな。うちにおいで。」
俺はそう言って、猫を抱き上げる。
部屋はすぐそこだ。猫を抱いたまま郵便受けを開き、中に入れている鍵を取り出して、ドアを開ける
かけてあったバスタオルを座布団の上に敷き、猫を寝かせる。
綺麗な黒猫だ。首輪はしていないが、毛並みがいい。飼われているか、最近逃げたばかりなのかもしれない。
とりあえず弁当はキッチンにおき、タオルをお湯で濡らして猫を拭く。かなり汚れている。これだったら、最初からぼろ布かなんかを使うんだったかな。まあいいや。
顔には傷はなく、綺麗だ。額には★の形に見える傷というかマークのようなものがある。それもアクセントの魅力だ。 ちなみに女の子だった。
全身を拭き、汚れを落とした。足に一か所、大きく傷がある。
ここだけは放置できないな。とにかくタオルを何回か洗い、綺麗にする。 そのあと俺は猫に声をかけた。
「ちょっとしみるかもしれないけど、我慢してくれ。悪いな。」
俺はそういって、消毒用アルコールで猫の傷を拭く。ちょっと痛いようだが、我慢したみたいだ。
「よーし、偉いぞ!」俺はそういって、傷にオロナインを塗る。 まあ、貧乏なうちには常備薬は正露丸とオロナインくらいしかないのだ。 でも、宇宙へ行くならその二つを持っていけ、という話を聞いたこともあるし、いいだろう。
あとは俺の古いTシャツを切って、包帯代わりに傷口を覆って縛る。
こうしないと、猫はすぐ傷をなめるのだ。猫を飼っていれば、エリザベス・カラーなんていう、襟巻トカゲになったような、メガホンみたいなものを首に付けるんだが、さすがにそんなものは俺の部屋にはない。
猫は静かにしているので、俺は晩飯を食べることにする。鮭は猫のためにとっておこう。
俺は鮭なしの鮭弁当を食べる。本当は冷蔵庫にあるピーチ味のサワーを飲もうかと思っていたのだが、猫に何かあったらいけないのでやめておく。
食べ終わったら、残った鮭の身を水で洗う。塩味がついているので、こうやってできるだけ味を薄くする。
猫はまだ動かない。
俺は部屋の隅に、鮭と小鉢に入れた牛乳を並べておく。
「俺はもう寝るけど、食べられたら食べてな。トイレはしょうがないけど、いちおう風呂場のドアをあけておくから、できればそこでしてくれ。おやすみ。」
さすがにトイレのことは無理だろうが、いちおうお客様だ。明日、獣医さんに連れていこうかな。でもお金かかりそうだよな…。
俺はそんなことを考えながら眠りについた。もう2時近い。
翌朝、俺は顔になにかを感じて目を覚ました。
見ると、昨夜の黒猫だ。起きたようだ。
朝の八時だ。窓から日がさしこんでいる。
鳥の声がチュンチュンと聞こえる。女の子(猫)と迎える朝。これも朝チュンか。初体験だな…。
部屋の隅を見ると、鮭もミルクも平らげている。
「おお、起きられたか。よかったね。大丈夫なのか?」
俺は猫に声をかける。
猫は小さい声でにゃーと鳴いた。 不思議なことに、「もう大丈夫よ。ありがとう。」
と言っている気がした。
「そうか、よかったな。傷を見てみようか。」
俺はそういって、猫の足を縛っているシャツの切れ端を解いた。オロナインの効果なのか、自然治癒力が高いのか、傷はかなり治っている。これなら大丈夫そうだ。
猫は玄関のほうに行き、またにゃーと鳴いた。
「そうか、出たいのか。もう行くんだな。よければ、またおいで。ミルクくらい出してあげるから。」
俺がそう言うと、猫がまたにゃーと鳴く。
「お魚は?」と言っているようだ。
「ああわかった。じゃあ、できるだけ魚も用意しておくよ。俺はだいたい12時過ぎに帰ってくるから、それくらいの時間においで。」
猫はまた「にゃー」と鳴いた。約束よ、と言っているようだ。
「ああ、約束だ。俺は、女の子との約束は絶対守るから。」
俺はそう言いながら玄関を開ける。
黒猫は再度にゃーにゃーと鳴いて部屋を出ていった。
「たまには来てあげるかもしれないわ。決して、魚につられるわけじゃないんだからねっ!」と言っているようだ。
ツンデレ猫さんだな。
その日も、夕方4時からシフトに入った。今日のこの時間は、女子大学生の有馬マリアちゃんがバイトに入っている。背が低くて、ちょっと頬のふっくらした元気のいい女の子だ。
ちょっと目の化粧が濃い気もするが、世代の違いもあるだろうし、俺が文句をつける筋合いではない。
猫の話をしたら、「愛田さんって、意外に親切なんですね。」と言われた。いつだって俺は親切だ。近所でも評判さ。
「なんだか最近、この近所も事件が多いみたいですよ。2-3日前に通り魔事件もあったみたいです。猫ちゃんも、それに巻き込まれたのかもしれませんね。」
マリアちゃんが言う。そんなことがあるのか。マリアちゃん、夜に一人で帰して大丈夫かな?
マリアちゃんは8時であがった。ここから11時まではワンオペだ。
客がいなくなったところで、俺は弁当の廃棄作業をする。まだ消費期限前だが、ぎりぎりまで売るわけではない。2時間以内になったら廃棄するように指導がきているのだ。
今日は焼きさば弁当にしよう。猫がくるといいな。
店長がやってくる。
俺は店長にも猫の話をした.あ、ペット禁止だったかな>?
「そんなことがあったのか。最近この辺も物騒だよね。昔はそんなことなかったのに。」
店長が言う。
「そうなんですね。まあ住宅街だから、泥棒はいても不思議はないけど、通り魔が出るのは困りますね。」
俺も相槌をうつ。
そうこうしているうちに時間になり、俺は帰る。
今夜は、廃棄の焼きサバ弁当とおにぎりとサンドイッチ、それから買った発泡酒と20円引きの枝豆だ。
猫が来ても来なくても、発泡酒で一杯やろうと思ったのだ。冷蔵庫にピーチサワーがあるけど、弁当には合わないしな。
部屋に戻り、郵便受けを探ると、鍵が見当たらない。確かに鍵をかけてここに置いたはずなのに。泥棒が入ったか?こんなぼろ、いや時代のついたアパートに。
ドアに手をかけると、鍵はかかっていなかった。しかも電気がついている。
俺は警戒しながら部屋に入る。
玄関からまっすぐに居間が見える。居間の戸は開いていて、こたつに人が座っている。
どういうことだ?
座っている人間が俺に気づいて、手を振りながら立ち上がった。
「お帰りなさい。先にやってたわよ。」
俺は彼女の姿に釘づけになっていた。
背はあまり高くない。綺麗な金髪だ。服は、セーラー服とナース服を足して二で割ったような感じだ。白を基調にしているが、ところどころにゴールドのアクセントがある。
そして何より、金色のミニスカートが目を奪う。
綺麗な金色で、風もないのにゆらゆらと揺れている。 もう少し揺れれば見えるかもしれないが、たぶん、見えないような絶妙な計算がされているのだろう。
すらりと伸びた細い二本の足が出ている。
そして顔は…なぜか、Gの字がついたアイマスクの仮面を付けている。
そのため、たぶん可愛い女の子だと思うのだが、顔も年齢もわからない。
俺はあまりのことに、声も出せずに立ち尽くす。
彼女が声を上げた。
「こんばんは。愛田さん。まずは自己紹介するわね。」
彼女はそう言って、なぜか片手を上に上げる。
そしてどこからかBGMが流れてくる。
彼女はポーズを取りながら言う。
この世の悪は許さない。
可愛いだけじゃありません。
正義と愛を守ります
コードネームはヒーラーG
なぜかバックに金色に輝くGの文字が出てきた
そういう効果が出るようになっているのだろう。
音楽も盛り上がって終わった。
「…」
俺は言葉を失っていた。
ヒーラーGという女の子の横に、昨夜の黒猫がちょこんと座っていた。
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新連載です。
現代ファンタジー、魔法少女ものを書きたくなりました。
モデルは実在のものとは関係ありません(笑)。
魔法少女ネタを知っていても知らなくてもいいような書いていくつもりです。
少しでも面白いと思ったら、最新話に行って、一番下から★を付けてください。
他には何もいりません(いや、それはウソです、レビューもコメントも嬉しいです。でも★が欲しい!)
ちょっとなりふりかまわず書いてみました。
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