最終話 怪獣がいなくなった日(3)
蜘蛛の頭が潰れ、動きが止まる。
その瞬間を合図にしたかのように卵が一斉に
襲ってくる蜘蛛たちをヨウはとにかく追い払うしかし一向にキリがない。
『一辺に倒せる方法ないのか!?』
ヨウの想像したことがアーマーに反応したのか左腕が光に包まれた。
『ぐぅ……熱い……左手が熱い……もしかして……?』
ヨウは飛び上がり蜘蛛が群がっている中心に左手を向けて叫んだ。
『ギガ・グラビトン!!!』
左手が発せられた真っ赤なエネルギーの塊は拡散し、次々と蜘蛛をケチらしていった。
『うおおおおおおお!!!』
左手を右から左、下から上へと向け四方八方に向け放った。
蜘蛛も卵も一つ残らず全滅した。
『……もういないよな……』
地面につくとヨウは片膝をついて息を整えた。
『はぁはぁ……初めてにしてはよくやったな……』
地面が奇妙に動き出した。
『しまった、ここ怪獣の腹の中だった』
ヨウは急いで立ち上がり走り出した。
『しかし、あれだけ暴れたのに怪獣のやつビクともしないな』
奥に行けば行くほど暗くなるそれは無限に続くのではないかという不安さえ感じられた。
『さすがに巨大怪獣の中だけあって道が長いな』
ヨウはマヤコたちが無事か心配だった。
自分がこの戦いをしているのは誰かを守りたかったからだ。
その誰かは誰でもなかった。
何も持たない自分ができることがほしかった。
そしたら、怪獣と戦う
ヨウは嬉しかった。
周りの人間は複雑な顔をしたがヨウは気にしなかった。
むしろ感謝さえした。
隣はいつもマキコがいた。
リクナもいた。
そして新しい守りたい人たちがいる。
『……たどり着いた……』
それは心臓と呼ぶにはあまりにも禍々しいものだった。
地獄から来たのか人間たちの怨みを凝縮したかのような顔だった。
それが一定の音を立ててドクドクと動いていた。
『なんて見た目してんだ……』
――待っていた……。
『なんだ……』
――この場所に生物が来るのを待っていた。
『まさか……あの心臓が……!?
――お前は人間か?
『まあ、今はこんな見た目だけど人間だ』
――何しに来た……と聞いても答えは決まっているようだな。
『ああ。アンタを、その、やっつけに来た!』
ヨウは言葉を濁した。
今までの怪獣たちと雰囲気が違うと感じ取ったからだ。
『アンタ、いや、名前を聞いても良いかな? アタシは薬尾ヨウ! 初対面でアンタアンタ言うのはアタシの趣味じゃないんだ』
――名前か。それはないな。
『ないのか?』
――外では怪獣と呼ばれているらしいな。ならば、それで良いではないか。
『わ、わかった。怪獣、なんで怪獣はやってくるんだ』
――それはお前はなぜここにいるんだと聞いているのか。
『まあ、そういうことになる』
――ヨウ、お前はなぜここにいる。
『さっきも言った通り、怪獣をやっつけに来た。それがアタシの……仕事だから』
――そうか。だが、私はここでお前を倒さねばならない。
『そうだよね。ラスボスはそうでなきゃ』
――お前を倒して新たな怪獣を生み出さなければならない。
『…………!?』
心臓の周りに張り巡らされていた血管が鞭のようにヨウに目掛けて飛んでくる。
ヨウは怪獣の言葉が気が掛かりで避けるタイミングを逃した。
『うわぁああああ!!!』
血管の鞭は間髪入れずにヨウを襲う。
ヨウは避けるが数が多いのと鞭の速さが今まで戦ってきた怪獣たちのものと比べ物にならなく所々に傷が出来てきた。
ヨウは左手と右手にエネルギーを集め、マキコがやったように腕に剣を作った。
襲ってくる血管をひたすら斬った。
溢れ出す血がヨウの身体を濡らす。
それは生物の涙のように見えた。
なぜだ。怪獣は何体も倒してきた。
なぜ目の前のやつを倒すのためらう。
血管がヨウの脇腹を貫いた。
そのまま、ヨウの手足は血管に拘束された。
――やはり、その程度か……。
『………………』
――ヨウ。お前に期待していたが残念だ。これでまた新たな怪獣は生み出される。
お前の命を使ってな。
『そうか……そういうことだったのか……』
ヨウは身体に
『アタシ以外にもここにたどり着いて戦ったやつらがいたんだな……』
――安心しろ。お前もそいつらと同じになる。
『アタシはその人たちの分まで生き延びてやるよ……』
ヨウは両腕にエネルギーをため巨大な剣で血管を斬りはらった。
――そうか……。
血管は一束になり、巨大な蛇のようになった。
『来い……』
血管の束は勢いよくヨウにぶつかってきた。
壁に激突し、血管が四方に飛び散る。
ヨウは両腕の剣を一つにし、血管の束を真ん中斬り込み、走り出した。
モーゼの十戒のように開けていく血管の束は怪獣のもとへ導いているかのようだ。
ヨウのアーマーが限界を迎え徐々に剥がれていく。
怪獣と対峙したときにはもうアーマーはなくなり、生身の身体と化していた。
生身の身体から見た怪獣はさらに巨大だった。
――ヨウ。その身で立ち向かうというのか。
「こっちが真の姿なんでね」
――真の姿か……。ならその姿を見せてもらおうか。
血管がヨウの手足を掴み怪獣の中へと飲み込んだ。
怪獣の中の中へと。
外では怪獣が巨大なオブジェのように固まっていた。
いつ怪獣が動き出してもいいように対危険排除部隊は準備を怠らなかった。
「この戦いが始まって十時間になるな」
キヤコは湯気を立てたコーヒーを飲みながら秋風隊員に話しかけた。
「もうそんなに経つんですね」
秋風は腕時計を確認して言った。
「結局、ヨウ一人に委ねてしまったな……」
「彼女とマキコさんがいなければとっくに世界は終わっていますよ」
「マキコの容態は?」
「安定しています」
「そうか」
世界を包むかのような灰色の雲は終焉を思わせる。
暗い。自分以外のモノが見えない。自分はどこに手を伸ばしているのか。
地面がないのに歩いている感覚。
音も風もない。
ここはどこだ。
歩く。歩く。足が動く限り歩く。
歩いているという感覚すらなくなった。
いるはずなのにいない。
突然、身体が宙に浮き、勢いよく上に引っ張られた。
いや、それは落ちているというのが正しい。
急降下で落下しているのだ。
ヨウはその中で夢を見た。
怪獣を倒している自分の姿にモザイクがかかり、醜いモノに見えた。
どっちが怪獣なんだ。
怪獣を倒して喜んでいる人達も醜くく映る。
やめてくれ。
アタシはどんな風に見えても良い。
大切な人たちを醜くしないでくれ。
――醜いか……。醜いだろう。醜くて苦しいだろう。
目を閉じたくても身体が動かない。
醜くく映る人達の中に所々に顔が見える人たちがいる。
……ススムくん……ユメちゃん……シオリちゃん……マヤコちゃん……。
「マヤコちゃん…………」
動かないはずのヨウの口が動いた。
ヨウの胸の辺りが光、そのままヨウを包み込んだ。
映像のように流れていた夢は一瞬にして消え去った。
暗闇に一筋の光が見えた。
ヨウは迷いなく走った。
理由はないがとにかく走った。
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