第6話 お姉ちゃんの帰還(2)
「お、二人とも買い物帰り?」
マキコは買い物袋を掲げて、胸を張って言った。
「今日は私が料理作るからねー」
「マジ!? 超嬉しい!」
ヨウは顔を輝かした。
本当に嬉しいらしい。
「ヨウはお姉ちゃんの料理食べた事あるの?」
「あるよー」
また自分の知らない姉とヨウだけの時間だ。
三人で歩いていたが二人と一人で歩いている気持ちになった。
三人になりたくてマキコとヨウの袖を掴んだ。
二人はすぐに気付いたらしくマヤコの手をつないでくれた。
三人の影がどこまでも続くように伸びていく。
帰り道の商店街に異変を感じたのはすぐだった。
あたりを震わすほどの音が聴こえた。
人々の悲鳴、対危険排除部隊の車が次々集まってくる。
「お姉ちゃん、これって?」
「怪獣……しかもかなりデカイ……」
マキコとヨウは同時に咆哮が聴こえた方へ走り出した。
マヤコもなんとか後を追いかける。
そして、マヤコが見たものは……。
「なに……これ……」
牙の生えた八つの足。裂けていると思わせるほどの大きな口。
皮膚は爬虫類を思わせる鱗。
一言で言うなら5メートルの怪獣。
「お姉ちゃん、ヨウ……逃げよう! ヨウでも無理だよ!」
対危険排除部隊と思われる人がマヤコたちに近づいてくる。
「薬尾少佐、燐全少佐ただちに車にお乗りください」
「お姉ちゃん?」
ヨウが対危険排除部隊の隊員であることはマヤコも知っているがマキコがなぜ呼ばれたのか、目の前の人が姉なのか混乱した。
ヨウとマキコはこくりと頷くとマヤコの手を引いて車に乗った。
マヤコの知っている車とは大きく違っていた。
無骨でモニターがいたるところに設置され、怪獣を映し出していた。
マキコとヨウは車に付いてるカーテンを閉め、着替え始めた。
出てきたときの二人の姿はピッタリとしたボディースーツに身を包んでいた。
「お姉ちゃん?」
マヤコの小さな声はマキコに届いていなかった。
「マキコ、身体はまだ動く?」
「訓練プラス主婦業やってますから前より動けるよ」
マキコは買い物袋をマヤコに預けて、言った。
「マヤコを、妹をお願いします」
そう言ってマキコとヨウは車を降り、怪獣の元に歩いて行った。
マヤコは意味がわからなかった。
「危ないからヘルメットを被って」
隊員の人にヘルメットを付けてもらっている間もマヤコの頭の中ではグルグルと自分が見てきたマキコと目の前のマキコが交互に入れ替わる。
マキコの言うことをなんでも従ってきたマヤコでも今回は納得できなかった。
説明してる暇がなかったのもわかる。
「マヤちゃんに説明無しで来ちゃって良いの? マキコお姉さん?」
「ヨウにしては珍しく人を心配してるのね」
マキコの身体から電気のようなものがまとわりついて光出すと、それはさっきまでの姿とは別の『生物』になっていた。
その姿は虎だ。マキコは虎になっていた。
「お姉ちゃん……」
マヤコはその姿をモニターから見ていた。
マキコはヨウより素早く怪獣に向かって走り出した。
マヤコの知っている姉の姿はそこになかった。
虎と化したマキコは怪獣の鱗の隙間を狙って巨大な爪で切り裂いた。
怪獣から大量の血が吹きあがったが、それはかすり傷程度でしかなかった。
「マキコ、手ごたえは?」
「皮膚が分厚い」
マキコは爪に付いた血を舐めながら言った。
「それ汚いからやめなっての」
「猫の習性ってやつかな?」
怪獣が鱗を逆立て鋭い音を響かせた。
マキコとヨウ、そして、離れて見守っているマヤコが耳を塞ぐ。
地面にヒビが入り始めた。
装甲車が怪獣の出した音で地震のようにガタガタと揺れた。
車の中のモノが落ち始める。
中にいた隊員たちは冷静でありながらも焦りが伝わってきた。
「撤退命令は出ないのか!?」
「俺たちの仕事は守ることだ! 前線から離れるわけにはいかない!」
「すっごい音……ヨウのイビキくらいある」
「アタシはイビキで地面割らないぞ」
「で、どうする?」
「とにかく鱗の隙間を狙うしかないでしょ」
ヨウはリクナが開発した『ビームナイフ』を手にし、ファイティングポーズを取った。
マキコは四つん這いになり完全に獣と化した。
二人は同時に走りだし、怪獣の視界に入らないように鱗の隙間をとにかく探した。
「見つけた!」
ヨウはナイフの出力を上げ背中の鱗の隙間に突き立てた。
血がふき出すのも気にせず何度も突き立て、鱗をやっと一枚引きはがした。
「これだけやって、やっと一枚かよ!?」
怪獣が叫びだす。
ヨウは別の鱗の隙間を探すがヨウの動きを止めようと鱗が揺れ出した。
「うわぁ!?」
「ヨウ!」
マキコはヨウの腕を掴み、怪獣の背中から引き離した。
「あーーーーもう、どうするよ!?」
「ヨウが引きはがした一枚の鱗、相当効いてるよ」
「マジ!?」
「人間で言うと爪と同じなのかもしれない。全身爪で出来てると思えば、わかるよな?」
「やめろ! 想像して痛くなるじゃないか!」
「まあ、鱗じゃなくても隙間を狙ってとにかく血を出させる」
「怪獣を出血多量で倒すつもりか?」
「大きいチャンスがない限りそうするしかない」
「マキコが言うんじゃ仕方ない!」
二人はまた怪獣に挑んでいった。
モニター越しとはいえ、目の前で繰り広げられる戦いを見守ることしかできない自分が情けなくなっていた。
「ごめん! 遅くなった!」
車のドアが開くとヘルメットを被ったリクナが乗りこんできた。
「リクナさん!」
マヤコが呼ぶと同時に、車に乗り合わせていた隊員たちがリクナに対して敬礼した。
「状況は?」
「只今、苦戦しています」
「確か、問題は鱗だったね?」
「はい!」
「無線を薬尾少佐と燐全少佐に繋いで」
無線が繋がるのを確認すると普段のリクナからは想像もつかない大人びた声で二人に告げた。
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