第3話:変わった人たちが居た。
ガラガラガラ……
そんな仕様もないやり取りをしている時に扉が開いた。
「貴方に頼みものをしてあげるわ!喜びなさいッ!」
立場、女王様の人?
入って来たのは金髪サイドテールを揺らす目つきの鋭い女の子だった。めっちゃ堂々としてる……。てかちょっと待って?
「依頼って何?」
「貴方が張ったんでしょ?この紙?」
知らない所で俺が何かやってるんだが。
「……なにこれ」
そんな女王様(仮)から頂いた一枚の用紙には『部員募集!依頼何でも受付中!生徒会(仮)代表:
待って突っ込みたいところしかない。まずもう部活出来てんじゃん。生徒会(仮)て、名前が直球過ぎない?生徒会に喧嘩売ってんじゃん。いや勝手に代表にされてる!完全に生徒会を敵に回しました。何故か。
「なるほど、これはどういうことですの?
「……です」
「はい?」
「千鶴です!」
あ!名前の呼び方?……今じゃなくない!?
「折「千鶴です!それか下僕か、おい、でお願いします!」
「……千鶴で」
「まあ、いいです」
何が不服だよ!最適解だろ!???
「ちょっと私と話してる最中よ、達筆の一般人」
それ、ただの字が上手い学生……。
「すみません、
「えぇ!?折羽さんが!?なんでぇっ?」
最初に気付け。
「あれ?知り合い?」
「級が同じで」
級が同じ?って事はこいつもやばい強いんじゃないの?
下手に反論したら……殺される!??
「へえー。そうなんですねぇ」
「そうなんですね?」
やべ、自然と女王様の手下になってた。
「な、なんでもないで……ああいや!なんでもない!」
「それでなんで折羽さんが?」
「私も部員なのです!」
違う、事の発端だよ。えへへんと無い胸を張るんじゃないよ。
「へえ、意外ね。達筆の一般人と一緒なんて」
呼び方変えない?そこら中に居るよ?その人。しかも俺じゃねえよ、達筆。
「素晴らしい方ですよ。私から志願しましたし」
ええ?///テンション上がっちゃうなぁ。
ピュア男である。
「因みにあのチラシを作ったのは私です」
「ええ!?じゃあ貴方一般人なのね」
そうですけど!?……そう、そうなんだけどね。なんだろうね。無性に腹立つね。
「それで何の用なんだっけ?」
本来の目的を忘れそう。いやもう忘れてるよ。俺のここから出たいと言う目的はね?本来帰ってるんだもん、帰りたいんだもん。
「ああそう、そうなの……依頼、なんだけど」
しかし嘆いていても仕方ないので、そこら辺の机を六個くらい繋げて大きな机を作り俺と千鶴の対面に彼女を座らせ話を聞くことにした。
さっさと終わらせようと言う魂胆へシフトチェンジである。
「ストーカーを追い払って欲しいの……」
「ストーカーを」「追い払うですか?」
「ええ」
彼女は顔を俯かせて恥ずかしいのか、もじもじしてそう言うが、俺たち二人はその時思った。いや、実力で追っ払えばよくね?と。
「実力で追っ払えばいいじゃないって思うわよね……」
「うん」「はい」
「私も最初はそうしようとしたの。でも、電信棒からねっとりした髪と、小汚い肌と荒い息と曇る眼鏡とその他諸々が覗く姿を見ると悪寒がして……。簡潔に言うと生理的に無理なの」
大分簡潔に纏めたな。
「直接相手に触れる様な能力でしたか?」
「いえ、違うわ。ただ能力で触るのも嫌なのよ……」
「そんな事があるんですか?」
「Gを思い浮かべてみて……それよ」
「分かる」
「来斗様!?まさかのそっち側ですか!?」
「生理的に無理なのって間接的にも触りたくないよなぁ」
「貴方、分かってる一般人ね!」
もうそれはただの友達よ。
「ごめんなさい。私には分からない感覚の様で……どこで体験すればいいですかね?」
どMなの?
「試すものじゃないよ?……しかしそっかぁ……じゃあ依頼は受けないとな」
「来斗様自ら!?」
「話が分かるわね。貴方。名前は?」
「チラシに書いてあるし、さっき読んでただろ」
「天野君……ね」
「そうそう。よろしくな、楽々浦さん」
「なんで名前を!?まさかあなたもストーカー!?」
「被害妄想もそこまでにしとけって。さっき千鶴が言ってたろ」
「ふふふ、冗談よ」
「……」
何故ムッとする千鶴よ。
袖を引っ張り顔を近づけ、まるでムッとしている自分を見てくれと言っている様だ。
その顔から導き出される感情は、さっさと依頼に進めという怒りか。
「まあ、依頼に関しては楽々浦さんにいつも通り下校をしてもらって、千鶴はそれを遠くから監視。道中にストーカーを見つけたら千鶴が直ちに成敗するって形でいいんじゃない?」
「私もそれが手っ取り早いと思いますが、どうしましょう?」
急に顔戻った。
「じゃあ、それで……お願いするわ……」
なんでそこでまた恥じらう。分からん、女王系女の子、全然分からん。
「よし、じゃあ俺は帰るな!」
「駄目です!」
「なんでッ!?俺必要ないでしょ!?」
「依頼が終わるまでが部活なのです!良い所を見せないといけないのですよ!来斗様!」
「良い所見せるもなにも、何の使用もないよ!?俺!」
「まあいいじゃない、後ろからついてこれば」
「適当だな!」
しかしそれ以上の反論は怖かったんだ。次はどんな脅迫をされるか分からないし、女王様は鞭で攻撃してくるだろうし。
だから、仕方なく楽々浦さんの監視に加わった。
楽々浦の帰宅路。人通りの少ない普通の住宅街。
ストーカーは居た。怪しまれない方が可笑しい程堂々とした体の為、隠れている電信棒から半分ははみ出している。
取り敢えず様子見としてその滑稽な姿を後ろから眺めている訳だが……?
「どうかされました?」
「……いや」
ふと周りが気になり見渡したが、特に何もなかったのでストーカーの様子をもう一度見る。
と、動いた。
「何をしているんでしょう?」
急に思い立ったように背負っていた真っ黒なリュックを下ろし中を手で弄り始めた。
「よし」
覚悟を決めた?取り出すものによっては……。
千鶴を見ると既に戦闘態勢に入っていた。
俺も少し警戒心を強めて待つ。ガサゴソと探す間をじっくり待つ。
「!」
引っこ抜いた!!
リュックサックから手が現れた刹那、俺は戸惑った。
取り出したもの。それは真っ黒い棒状のものが入った袋、それと大きな四角く薄っぺらい何か。
それは良かったのだ。
驚いたのは千鶴が既にストーカー紛いさんの背後、一メートル内に立ち、拳を握っていた事。
なんつう速さ。
俺の予想では彼はストーカーじゃない。だから一瞬戸惑った、というか、焦った。
あと一歩遅ければ千鶴の拳を止められなかったから。
「っぶねえ」
「来斗様……手を握ってしまいました」
「今乙女のターン要らないの」
「しかし流石ですね。全速力でしたのに……」
「まあ……」
「やはりまだ鍛えていらっしゃるのですね」
「ルーティーンが抜けないだけだ」
「何故止められたのでしょう?」
「……え」
ストーカー冤罪さんは地面に尻餅を突き震えていた。
「あ……すみません、早とちりだったのですね」
千鶴も彼の持っている道具を見て分かってくれたようだ。まあ、完全に違うと決まったわけじゃないが。
彼は包装された未使用のマジックペンと色紙を取り出していたのだ。流石は女王様、下民にも慕われているようで。
「楽々浦はアイドルかなんかなの?」
「一般市民ですよ?」
「ええっ!?女王じゃないの!?」
「どこのデマ情報ですか?」
「あ、貴方たちは一体……」
「あー。えーと」
どう説明するのが正解だろうか。
「ストーカーですか?」
うん、凄い直接的。
「い、いいいいいいややややや、ち、違いますよぉ!!!!」
慌て方考えろ。
「じゃあ一体何を?」
そう言えば楽々浦はどんな感じで…………すんごい見てる。ガン見もガン見だ。引きながら。
「俺が事情聴取しておくから楽々浦のとこ行ってやってくれ」
一人にさせるのは、な。
「分かりました」
「よろしくな」
鬱陶しいやt……千鶴が楽々浦さんの所へ向かった後、俺は彼と向き合う。
ストーカー事件の真実を聞こう。
「大丈夫か?」
「あ、貴方たちは…………」
「楽々浦のサインが欲しかったのか?」
「は、はい…………僕の憧れで……」
うわっ。
えへへ、が、この人の場合、ぐへへ、なんだよな。そのしたり顔も怪しさを倍増させてしまう。
「飾るのか?」
なんて当然だろ。だって色紙だもの。
「……舐めまわそうかと」
お巡りさん大至急ッ!!
「呼んでいいっすか?」
「へ?」
「危ない人って決めていいですか?」
「なんでですか!?」
自覚が無い!?犯罪者である自覚が無いだと!?
自然と変態との距離を遠ざけてしまう。
「いや……だって……キモいんだもん」
「ただの悪口!?」
「あのな……」
自覚を持たせるために俺は楽々浦から受けた依頼と心境を遠目から話した。
「僕が……ストーカー?ですか?」
「うん」
「えっとあの僕は……サインが欲しかっただけで……」
「分かってる。でも彼女からしたらそんな事は知ったことではない。あのさ、見知らぬ人間に跡つけられてたらアンタならどうよ?」
「怖いです……」
「だよな?だって色々最悪のケースを考えるから。ストーカーが押し寄せてレイプでもされたらどうしよう。最悪の場合殺されたらどうしようって思うよな?」
「……はい」
「自分の心の中の都合なんて相手に伝わる訳ないんだよ。やるんだったら最初から言葉で伝えな。自宅じゃなく学校で。まだ勘繰る事は少ないだろうし、相手の気持ちを不愉快に傷つける事も無いと思うぞ」
「……その通りですね」
「で、今からどうする?」
「謝ります。今まで怖がらせてきたことに対して。言い訳はしません。サインを求めるのも……自分の立場に置き換えると怖いですよね。僕も彼女も一般人ですから」
「そうだな」
自分都合だけの欲望で、自分が気づく気付かずに関わらず人の心か体を傷つけているのなら、それは犯罪者と何も変わんないからな。
俺は自分の気持ちに気付いた偉い人を連れ楽々浦と千鶴の元へ向かった。
「ごめんなさい!」
しっかりと不愉快な事をさせた事に対しだけ謝罪をした。
楽々浦は引きながらも頑張って許した。しかしこれ以上の介入は辞めてと強く言う。
少し寂しそうな所に千鶴が追い打ちを掛ける。
「生理的に無理だそうですよ?」
人を傷つける天才か。一番の悪はこいつだと思った。
まあこれで無事解決。男はトホホと反省と傷心の涙をながしながら帰路へ。
「あ、ありがとうね」
一応家へまで送り届けたら楽々浦さんがデレた。女王の仮面が取れた様だ。
「素直だな」
「お礼はしっかりしないと……一応助けてもらったんだしね」
一応?いやいや、それどころか、
「なんもしてないけどな」
「ううん、貴方達がいなかったら彼は毎日やってただろうし……。助かったわ」
「ま、何事も無くてよかったな」
「そうですね。誰もが傷つかなくて良かったです」
それには賛同出来かねます。千鶴さん。
「あの、ね?」
「なんだよくねくね体操して」
「恥じらってんのよ!!」
「どうかされました?」
「部員が一人足りないって聞いたんだけど……」
そのまま潰れればいいのに……余計な事を。
「ちがっ「そうですね!」」
俺の声かき消されたんだけど。
「私が入ってあげてもいいかなーって」
「いえ、結k「ぜひお願いします!」」
「ほんと!?」
こいつ、本当に。
目を輝かせ喜ぶ楽々浦とは裏腹に俺の目は死んだ魚の様だった。
「じゃあ、よろしくお願いしてあげるわ!」
そして相変わらずの立場が女王様。平常運転に戻ったなぁ。
「じゃあ明日ね!」
「おう」「ハイ!お待ちしております」
声色が跳ねている。千鶴も凄い嬉しそうだ。こっちは言葉を発そうとするとかき消されて辛いよ。
一つお辞儀を千鶴がして、楽々浦とは別れた。その後だった。
「すみませんでした!」
千鶴は謝罪する。
「どうしたんだ急に?」
「……脅しのような形でここまで連れてきてしまったなと思いまして」
自覚あったんだ。
「これからも少し強引になってしまうかと思いますが……よろしくお願い致します!」
少し!?
「それと」
「ん?まだなんかあるのか?」
「部活は辞めておいた方がいいでしょうか?少しごり押しでしたから……気になっていて。あれでしたら楽々浦さんにも伝えますが……」
少し!?
というか……そんな寂しそうな顔すんなよ。
俺は人が幸せに暮らしたり笑ってるのを見るのが好きだ、嬉しいんだ。
今日ずっと笑顔で楽しそうにしていた千鶴にそんな顔と遠慮は求めていない。
どれだけ強引だろうが、ごり押しだろうが、楽しそうにやってたからしゃーなしで自分を犠牲にしたんだ。
『面倒』か『誰かの笑顔』を天秤にかけるなら俺は絶対後者を取る。
だから。
「部室はそのままでいいよ。俺が行くかは分かんないけど、俺はそのまま代表でいい」
今回も許容する。自分よりも他人を。ま、譲れない所もあるから折衷案が一番望ましいけどな!!!!
「来斗様……良いんですか」
「良いよ良いよ……」
「やっぱり来斗様ですね!!」
「どういう意味だよ」
「大好きだという事です」
「う……」
不意打ち。
赤くなった顔を見られない様、千鶴とは逆を向いておこう。
「じゃ、俺はこっちだから」
俺は隠すよう慌てて分かれ道を指した。
「はい!ではまた明日!」
千鶴は明るい笑顔で手を振った。
千鶴から背を向け歩く。
実際、俺の帰り道は千鶴と同じ。しかし今日はそれとは別方向で歩く。
確かめたいことがあったから。
ずっと感じていた視線。
もしかしたら第二の楽々浦ストーカーかと思っていたが……。それか0.1パーセントで千鶴。
しかしそれは外れ、最後の可能性が正解だったようだ。
……ストーカーされてんの俺じゃん!
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