世界は『力』で満ちている。
ぐりーなー
第1話 強制でしかない
『特殊能力』それは神様から与えられたプレゼント、らしい。
これは持たざる者の解釈であり、能力者はそんな事を言ったことは無い。
だから、「らしい」だ。
神様は不平等だと力を持たないものは言う。
全ての選択権は神様にあると言う。
しかし神に邂逅した者はどこに居た。どこで言った、何を見た。
分からない真実を勝手に神様の所為にして神様可哀そう。いっつも君らは被害者ですか!?
俺は無能だ。力も持たない社会のゴミ拾い役だ。
この世は能力の性能と力で全てが決まる。
脳筋の集まりだ。しかし脳筋の癖に脳味噌が正常運動している奴が殆どで、えっとつまり人間皆賢いかもしれない。
能力を保持しているのが当然。そして、その当然に持っている筈の能力の強弱で自分の価値が決まっている。
つまり俺ら無能はスタートラインにも立てていない訳だ。価値のない人間と決められている訳だ。
俺はそんなのだけが価値なんて認めたくないけどね!!!
全くなんだってんだ。
結局、全部人間が決めた事だ。関係ないんだ。そう、神は関係ない。誰の所為でもないんだ。
……神のバカッ///
おっと失礼。
状況を整理しよう。
ここは学校だ。毎日数万と言う数の人間が通うマンモス校だ。
うん、そこまでは良い。だがその中のどこだと言う話。
馬鹿でっかい学校だ。俺の知らない場所など八割はある。
その中でも別段施設や教室ではないただの廊下。
何十メートルとある真っ直ぐな廊下。
道中に教室はない。あるのは前方何十メートル先の突き当りにある階段。それと、後方、三、四段の短い階段を上った所にある非常口だけだ。
なんだこの無駄に長い使い道のない廊下。誰用だ。
そう、無駄。誰も使わない、イコール、人は一人としていない。
じゃあ何故この無駄に長い廊下に俺は居るのか。何か用事はあったのか?いやいや雑巾がけダッシュや五十メートルハードルの大会に出る予定はない。
分からん……。
取り敢えずこうなった前後の記憶を探ってみる。
――――――登校。
いつもの様に家を出て、いつもの様に途中でコンビによって昼食を買って「あ、もう直ぐ学校だ。嫌だなー」なんて思って……。
…………この廊下だな……。
はい、異論です!!
しかし。
……駄目だ……思い出せない!!
「あのー……」
「ちょっと待って。今思い出し中だから」
「はい……?」
うーん、と、ええと??
あー……。
「仕業やん」
「……?」
こいつじゃん。
「私ですか?」
「うん……」
ご紹介遅れました。と言っても俺も知らない人なんですけど、怖い。
黒のミディアムショートカットがフワッと仕上がっている。ソワソワと動くたびに良い匂いがするんですが、なんなんですかね、女の子特有のあれ。
身長は百四十センチと小柄、シャキッと着た制服、プリッツスカートが似合うのなんのって。
真っ白な肌、小っちゃい顔、猫の様に大きい瞳。顔のパーツは均整で、真面目そう……って、あれ?良く見たら美少女じゃね?
いや、可愛いけど尚更怖いわ。この価値もない無能を奴隷にでもするつもりですか?
「落とし穴に嵌めてから気絶させたましたけど??」
だから何みたいな顔辞めてくれる??
誰もいない、それは目の前にいる人間を覗いてだという事を忘れていた。なんで忘れる事があるんだ。
気絶と把握できない現状が原因だった。
「か、カツアゲか!」
「何故そのような思考に……!!」
「俺の意識を飛ばして長い廊下に連れ込んだからですけど!?」
「ち、違うんですよ!」
体全体で否定する姿が逆に怪しい。
「言い訳をするつもりか!!」
この期に及んで、俺を奴隷にして罵る気の癖に!弁明なんて聞いてやらんぞ!?
「は、話を聞いてください」
可愛いっ。
「良いよ」
間違えた。
「あ、良いんですね……」
彼女はコホンと咳をして話し始めてしまった。しくじった。
「私を貴方の……」
!?
その言葉が耳に入った瞬間、俺は俯かせていた顔をバッと上げ、俺の精一杯の決め顔で彼女を見つめたぜ?
「貴方の!」
俺にも春が来たかっ!?
「奴隷にして下さい!」
おお……!
「……え?」
違う!歓喜じゃない!……逆なの?立場そっちなの?てっきり俺が奴隷側だと思っていたのに俺が罵る側なの?
いや……恥ずかしいわ……浮かれてた俺……。
「どういう事!?」
流石に意味が分からないからキショイ決め顔を戻して真剣に聞いてみた。
「そのままの意味ですよ。奴隷として私をこき使って頂ければ!」
「な、何を言っているんだね君は!」
それはエロい方に捉えて良いんだろうか、いや駄目だろ。でも、奴隷だぞ!?いや、冷静になれ、この時代に奴隷とか考える奴がイカれていないわけがない。……俺も考えてたけど!
しかし彼女は出会ってからここまでで一番真剣な顔で言っていた。体も震わせ余程勇気を振り絞った奴隷宣言だったのだろう。
「いえ、本当は……パートナーになって欲しいんです」
「人生の!?」
「違います」
即答傷つくわ。しかしそっちではない、となると大方予想は付くけど、なんで!?なんで俺?
「じゃあ何よ」
「生徒会戦挙のパートナーとなって欲しいのです!」
はい、的中。
生徒会選挙。この世界は能力の強弱で物事が決まる事が多い。そんな風潮に乗り、この学校の生徒会も能力者の戦闘をトーナメント戦で行い、勝ち抜いた上位八人がなる仕組みになっている。
パートナー制度がある理由は諸説ある為わかってはいない。ただ、その中でも『支え合い』と言う理由は少し腑に落ちる。
生徒会に入る事、それは学校おおよその憧れだ。
何故なら将来有利になるし、金も手に入る。更には国を支配する代表者への挑戦権、願望が叶うかもしれない、極力頑張るよチケットもあり、一縷の可能性でもあるならば参加は無料の為、出る人間が多いのだ。
そんな能力ありきの生徒会戦挙。さて疑問が浮かびますねぇ。
俺はさっき無能だと胸を張って自負したわけだよな。じゃあだよ、じゃあ。
「なんで俺なんですかね?」
「えぇ!?」
何そのマスオさんバリの驚き。驚いてんの?驚いてないの?
無能とパートナーを組む。それほどに切羽詰まっているのか、この少女が。
実際考えにくいんだ。無能力者を選ぶ理由なんてほぼないもん。
「あ、自己紹介を……」
「あ。今ぶっこむの?」
凄いタイミングで自己紹介きた。
「私は
折羽?どこかで聞いたことのある様な……な!?
「お、折羽ってあの……名家!?親族の八割以上が能力ランク一級以上の!?」
「ええ、間違いありません」
なんてことだ!能力ランクは十級から十段、そこからマスターまであるが、五級ですら凄いと言われているのに、一級以上しかいないと言うあのいかれた家族……!
じゃあ尚更だぞ。
「なんで!?」
「
様て。奴隷への心構えが凄い。
「忘れって?」
彼女と会ったことでもあるのだろうか。こんな美少女なら忘れるはずが無いと思うんだけど。
顔を何度見ても整ってんなぁ、って感想しか出てこない。あ、ごめんねまじまじ見て、恥ずかしそうにするよねそりゃ。
「中学二年生の頃のお話なんですが……」
中二……中二……駄目だ、人を殺戮した記憶しか出てこない。え?まさかその時の被害者?復讐系ですか?復讐系ノベルですか?
「う、うん……」
「本当にお忘れの様ですね……」
プルプル震え拳を固く握り、今までだったら悲しそう~、とか恥ずかしそう~、とか、照れてる~って感じに読み取ってたけど、いざ復讐って考えると、あれナニコレ、めっちゃ怖いんだけど、怒ってる風にしか見えないんだけど、あれ?さっきの可愛さどこ行った?
「ご、ごめんなさい!」
「しゃ、謝罪なんて!?むしろ助けてもらったのですが!」
勘違いか!?あれ?めっちゃ可愛いやん!
「ええ?」
そっちの方が記憶にない。助けた記憶ない。……そう思うと俺ってめっちゃ悪くね?
「ま、いいや。どちらにしろ、誘いは断ってるんだ。ごめんな」
初めての誘いだけどね。
「な、何故……私は貴方様の為に生きて」
重い重い重い。
「理由をお聞かせ願いますか?」
「ああ、えっと、別に大した理由じゃないが。俺にその資格はないんだよ。有名になって偉くなって人を動かせるような人間じゃない。まあ、それ以前に力が無いってのもあるけどな」
「この大馬鹿もの!!」
あれ?今俺罵倒された?
「貴方様は馬鹿ですか!?あれだけの力を持っておいて、素敵な考え方をしておいて!現に私が相応しいと思っております!相応しくないなど……なんで……なんで……」
え?怒られてる?褒められてる?
というか、彼女は泣いてしまった。
「あれだれぇ」「うーわ、泣かせてる」
なんでこんなタイミングで人来んの!?何の用!?この廊下に何の用!?
「ちょっちょっ……」
こういう時どうすればいいのだ。オロオロとすることで精一杯になってしまう。
「ちょっ、ちょっ」
ちょっちょっ、しか言葉が出てこない。ふぉ、フォロー……フォロー……
「泣くのやめてくんない?」
何のフォローでもない。寧ろ直球のストレートの願望だよ。
「いやです」
「え?」
「オーケーを頂くまで泣き止みません!」
脅迫だぁ!!
そう言えばもう一つ断る理由があったな。
まあ簡単に言うと……面倒臭いじゃん?
なんかさー、人の上に立ってさー、偉くなってさー、仕事増えて責任重くなるとかさ。嫌ですわ。
ってか「うーわ」って顔してないで早く用事もない長い廊下から去りなさいよ!!
どうしよ、それが問題なんだ。見ている人がいる。これはもう一度断った後更に泣かれた時、こんな有名な彼女を泣かしたゴミカスクソ虫汚物ザ汚物人間として最悪な目立ち方をする。陰湿ないじめも増えるだろう。これは人気になるより質が悪い。
「ふふ……」
「あれ?今笑った?」
「うえええええん」
こいつ……!!
まあ、仕方ない、取り敢えず、だ。
「わかっ「やった!ありがとうございます!」
「まだ了承途中ですけど!?」
「えっ……お断り……です、か……」
ぐすんぐすんとなく名演技女優が腹立つ。
「あーもう!やってやるよ!!」
「わーい」
喜び方が子供!
「でも条件がある」
「伺いましょう!納得がいかなければ泣きます!」
「女の涙を脅しに使うな」
ふふふふふ、しかしこの俺が簡単にオッケーだけをすると思うなよ。
「出るのは生徒会戦挙だけだ。それ以上は何もしないと思ってくれ」
「…………………………………………………………………………分かりました」
「なんだその間は」
不服そうな顔を見るに絶対に分かってないぞこいつ。
ま、一回戦負けてさっさとパートナーを切ればいい話だ。なんか嫌な空気が流れてるけど、きっと気のせいだよね。きっとね。
キーンコーンカーンコーン
いいタイミングでチャイムが鳴った。
「教室戻らないとですね!来斗様!これからよろしくお願いします!」
「あ、ああ」
「お先に失礼します」
「うん……」
いい笑顔で颯爽と去っていく背中を見送った。さっきの女の子たちも同時に居なくなった。最初から掌の上で転がされていた!結局何が目的なんだ、あいつは。
ってあれ、教室どうやって戻るの?
一限目は休んだ、違う、休まされた。
この出来事は俺の人生を狂わせる入口だったことを若い来斗はまだ知らない。
……犬のうんこ踏むよりかは、辛い。
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