三浦家への依頼
「宗泰殿、此度のご助力感謝致す。 事前に高救、高教親子の動向を教えて貰っていたにも関わらず重臣の裏切りを許す体たらく。 合戦が長引いておれば上杉定正や高救に寝返る者も現れ、相模が荒れる所であった」
「頭をお上げくだされ時高殿。 こちらこそ勝手に兵を進めた事、お詫び申し上げまする」
「いや、宗泰殿こそ! 頭をお上げくだされ、武蔵では足利成氏と上杉顕定が川越城と忍城を囲んでいると聞き申す。 そんな中、相模に兵を…」
上杉定正と三浦高救、高教親子の軍を敗走させた後、各地の定正、高救派の残党を制圧させる為の兵を派遣した後、俺と三浦時高、高虎親子は、それぞれ2000の兵を率い、扇谷上杉家の本拠地となっていた糟屋館を接収した。
元々、糟屋館には矢野兵庫の軍が兵を進めており、館に残った上杉軍も、籠城の構えを見せていたが、相模川で起きた合戦で、上杉軍が大敗し、当主である上杉定正は武蔵に向かって落ち延びたとの報を受け、糟屋館から逃げ出していたので無血で接収できた。
その糟屋館で今後についての話をしようとしていたところ、三浦時高が開口一番、頭を下げて来たのだ。
俺としては、三浦家の為とかではなく、相模が不安定だと伊豆も危ないし、何より時高が負けた際には、挟撃される恐れもあるから相模を安定させるのは最優先事項だっただけだ。
もっとも、勝手に兵を相模に進め、上杉軍と合戦に及ぶだけにとどまらず、手柄まで横取りした形なので、怒りを買う恐れがあったのだが杞憂に終わった。
「宗泰殿、何を申される。 相模にも所領を持つ豊嶋家が兵を進めるのは当然の事でござる。 それよりも、此度、落ち延びた上杉定正に加え、三浦高救と大森実頼の首級を挙げたのは大きい。 もっとも定正に関しては、相模川を渡っている最中に落馬し、そのまま川に流されての溺死だが、それでも高救は我が三浦の兵が首級を挙げ、大森実頼に至っては落ち武者狩りにあって農民に首級を挙げられたのだ。 これで相模において三浦家、豊嶋家に楯突く者は居なくなった」
「確かに…、だが高救は自らが殿をし囮となって、嫡男である高教を落ち延びさせておりまする。 今暫くは大人しくしておりましょうが、いずれ再起を図る可能性もありまする故…」
「高教か…、だが最早、あ奴に再起を図る力はあるまい」
三浦時高は、高救の首級を挙げた事で満足し、高教の存在を甘く見ているんだけど、高教って史実だと、伊勢盛時、後の
ただ、問題なのがチートで得たPCを使い、ネットで情報調べたけど、三浦家の親子、養子関係がイマイチハッキリしないので、不確定要素もあるが…。
一説には、高教が時高の子供と言う説もあるし、高救の子が義同と言う説もあり、三浦道寸と名乗る事になる人物が誰なのかが分からない。
ただ現状、高教は高救の嫡男なので、後に義同と名乗り、その後、法名を道寸にする可能性もある。
いずれにせよ、史実では、勢いのある伊勢を相手にして3年近く抵抗をした人物なので注意が必要だ。
「しかし、定正殿が落馬し川に流され溺死するとは驚きました。 川から引き揚げた兵も、首を刎ねて良いものか悩んでそのまま運んで来もうした。 某も首を刎ねてよいものやら悩んでおりまする」
「確かに、本来であれば首を刎ね、扇谷上杉家の当主を討ち取ったという所だが…、溺死した者の首を刎ねるのは死人に鞭打つようなもの…。 いっその事、そのまま供養するのが良いかもしれんな」
「確かに、ではそのように致しましょう。 それと今後について、小田原城を豊嶋が落としましたがこれをお返しするするにあたり、某の身勝手な願いで恐縮ではありますが、時高殿には相模より伊豆、駿河に兵を進めて頂きたく存じます」
定正の遺体をどうするかが決まった所で、一旦姿勢を正し、伊豆、駿河への援軍を依頼する。
俺が相模に兵を進めたもう一つの理由、それは三浦家の兵を伊豆、駿河に向かわせるためだ。
「うむ、先の合議では、三浦家は駿河に関知せぬと申したが、扇谷上杉家も残るは七沢城に籠る上杉朝昌のみ。 それも豊嶋の家臣が攻めるとなれば、相模は落ち着いたも同然。 三浦家として宗泰殿の頼みを断る理由など無い。 ましてや小田原城をお返し頂けるとあれば、伊豆、駿河への援軍の件は任されよ。 だが武蔵は良いのか? 伊豆は今のままでも、なんとか守りきれよう。 駿河を諦め、武蔵にて決戦をする方が良いのではないか?」
「確かに、ただ駿河への足掛かりは確保しておけば、いずれ役に立ちまする。 それに足利成氏と上杉顕定も、川越城、忍城に手こずっておりますれば」
「だが江戸に兵を向けたら如何する? 宗泰殿が心血を注いで作った城も城下も荒されようぞ」
「恐らくそれは無いかと。 江戸の城下には公家衆の屋敷もあり町も発展し商人も多くおりまする。 下手に乱取りや乱暴狼藉をおこなえば、豊嶋家を滅ぼした後、統治に障りがありまする故」
そう説明すると、時高は「なるほど…」と言い納得した表情を浮かべる。
本来、可能ならば、敵の本拠地を攻め落とし、士気を落とすのは定石だが、江戸城の城下は湊町として関東の物流拠点となりつつある。
成氏や顕定が兵を進めたら、兵達が確実に乱取りや乱暴狼藉を行い、城下が荒らされることは間違いない。
顕定ならともかく、成氏は関東の物流拠点を荒せばそれだけ戦後に得る物が少なくなる事は理解しているはずだ。
古河公方を名乗る成氏と言えども、率いている兵の多くは国人衆の兵である。
しかも大軍となればなおさら統率出来る訳もない。
だから成氏は野戦で俺を討ち取り江戸城を無血で手に入れる、または、俺を討ち取れなくとも、川越城や忍城の他に、豊嶋家の城を攻め落としていき、俺と江戸城を孤立させたうえで降伏を促し、江戸を手に入れる事を考えているはずだ。
そうでなければ、既に江戸へ兵を差し向けているはず。
「それと、明日、ここを発ち、鎌倉の足利政知様の所に向かおうと思っておりまする。 時高殿もご一緒頂きたく」
「構わぬが、何をしに行くのだ?」
とりあえず、と言った感じで鎌倉に御所を建て、鎌倉公方として祭り上げている足利政知の元に行く理由が分からないと言った感じで不思議そうな顔をする時高に、鎌倉に行く理由を説明する。
「まったく宗泰殿は容赦がないと言えばよいのか、悪辣と言えば良いのか…」
「褒め言葉として受け取らせて頂きまする」
そう言うと、時高は「ふっ」っと苦笑いを浮かべた。
悪辣と言うより悪知恵が働くと言って貰いたいけどな…。
まあ実際、成氏や顕定に対する嫌がらせに加え、伊勢盛時と斯波義寛を貶めるつもりだから間違ってはいないけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます