発覚!

1482年1月


年が明け1月3日を過ぎると、一門衆や家臣達、豊嶋家に従属する国人衆などが江戸城に新年の挨拶にやって来る。

ハッキリ言って正月は多忙だ。

上座に座り新年の挨拶を受け続ける。

一門衆や重臣等は手短に済ませてくれるが、中堅の家臣達の多くは挨拶が長い!!

国人衆も同様で昨年大幅に加増した国人衆などは挨拶と軽い雑談だが、所領を削られた国人衆はご機嫌取りのつもりか無駄話が長い。

恐らく新年の挨拶を受けるのが一年で最も苦痛な時間だと思う。


とはいえ収穫もあった。

伊豆の国人衆のうち沿岸部に所領を持つ者達が新年の挨拶にやって来たのだ。

中でも伊豆海賊衆の中でも影響力の強い富永盛勝、鈴木繁宗、松下長綱、清水綱吉の4人が豊嶋家に臣従する事を表明した為、沿岸部はほぼ豊嶋家の味方となったのだ。

内陸部に所領を持つ国人衆の半数ぐらいは旗幟を鮮明にしていないが、沿岸部を押さえられたら海に面していない内陸は干上がるので、恐らくいずれ豊嶋家、三浦家の統治を受け入れると思われる。

沿岸部の海賊衆に関しては三浦時高に頼んで豊嶋家の水軍にしたいと言ってあるので、両家の関係が悪くなることは無いし…。


そして挨拶攻めが終わり、やっと落ち着いてのんびり出来ると思っていたが、俺は現在江戸城の奥の一室で照、彩、桔梗の三人に睨まれつつ正座をしている。

部屋には俺と向かい合うように座る3人の他にもう1人、顔を俯け座る女の子がいる。


「殿!! 私達は侍女に手を出した事に怒っているのではありませぬ。 何に怒っているかお分かりですか?」

照がキリっとした顔で俺に詰め寄る。

彩はコッソリ私に手を出せば良かったのに、という呆れた表情でこちらを見ている。

桔梗は若干申し訳なさそうに、だが手を付けられた事を報告しなかった事には不満らしく頬を膨らませている。


「正妻が居るのに侍女の於福を抱いた事…」

「違います!! 侍女達に手を出すのも構いません! 私達が怒っているのは於福と夜伽をしていた事を隠していた事です!! 隠れて於福を抱き、御子が出来たらどうするおつもりだったのですか? 私達が知らずに於福に豊嶋家の者との婚姻を斡旋していたら? その際、於福は如何なされるおつもりだったのですか?」


恐らく他の女に手を出した事に関する怒りもあるんだろうけど、照、彩、桔梗が夜伽の相手をしているのに密かに俺が手を出していた於福が用済みになったら捨てるつもりではないのか? と言いたいようで、俺が誰に手を出していたかを把握し、万が一捨てるような事があれば、正妻としてその後の生活に困らないようにしないといけないという義務感のようなものがある感じだ。


「も、申し訳ございません。 正妻の皆様を差し置いて私が…」

「於福は悪くありません!! 於福、顔を上げなさい。殿に迫られれば断れないのは道理。殿が悪いのですから」

於福が平伏して謝罪の言葉を口にするのを遮り、照は俺が悪いと断じる。


於福は成田家から嫁いだ桔梗と共に江戸城に来た侍女で、成田家の重臣である柴崎長親の娘である。

成田家が重臣の娘を侍女として送り込んだ理由はあわよくば俺の側室に、それが無理でも桔梗を通じ豊嶋家の重臣の嫡男の嫁にし、豊嶋家と成田家の関係を強固にしようとする思惑があったはずだ。

結果としては、俺が手を出したのであわよくば、に該当しているんだが…。


「殿!! 殿は於福をどうするおつもりだったのですか?」

「どうするって…、折を見て側室にと…」


「あ~、今思い付きで答えたな。目が泳いでたし」

いや彩さん、怒っているのは分かりますが、そこは見過ごして頂きたい所なんですが…。


「於福はどうしたいのです。 殿の室になりたいですか? それとも豊嶋家の重臣の家に嫁ぎたいですか?」

「そ、それは…」


桔梗は普通にただ聞いただけだと思うが、於福はそういう風に聞こえなかったようで謝罪の言葉を繰り返す。

多分、桔梗が怒っていて重臣の家に嫁げと言っているように聞こえたんだと思う。


「於福、あなたが謝る必要はありません。殿が手を出したのは事実ですので責任を取って頂き、於福を正妻として迎えて頂きます」

「正妻として?」


「当然です!! 殿は妻を上下無く扱うと言われたのです。でしたら側室とするのではなく正室とするのが筋と言うもの。よもや正室にするのはお嫌だと仰るのですか?」

「いや、正妻とする事を許されるとは思ってなかったんだけど、三人ともそれで良いの?」


正妻にすると宣言され驚いていると、3人共当然と言った感じで頷いている。

戦国時代は多妻だったとは言え、嫉妬深い正妻に側室が折檻されたり殺されたりと物騒だから隠してたってのもあるんだけど、俺が怒られはしたけど無事に解決したと思う。


でも俺にだって言い分はあるんだよ。

だって於福もまんざらでは無かったし、最初は話をしていただけなんだけど、その内良い雰囲気になってさ。それに当時まだ照が16歳になってなかったから、彩も桔梗も抱けなかったし。

据え膳食わぬは男の恥って言うし、良い感じになった女の子が居たら、健全な男子としては手を出すのは普通でしょ!!

って言いたいけど言えない…。


結局夕飯の時間まで説教をされた。

これって俺が女の子に手を出したら、その子を全員娶るのか?

いや、気に入った女の子に片っ端から声かけて手を出すつもりはないけどさ。ほら、合戦が長引いたりして遊女とか抱いたのバレたら正妻にするの?

それよりもローションの代用品に目途がついたら、特殊なお風呂計画を進めて俺が講師するつもりだったんだけど、その場合はどうなるの?

うん、特殊なお風呂計画を進める際は密かに行おう!!


翌朝、普段は俺と照、彩に桔梗の4人で朝食を摂るのだが、今朝からは於福も加わり5人での食事になった。

まあ殺伐とした雰囲気では無く、普段と変わらない和気藹々としたひと時に内心ほっとした。

元々桔梗の侍女だったから全員と面識あったし、本人は未だに恐縮しているけど於福が怒りを買って虐められなくて良かった。


後日、成田正等と柴崎長親を江戸城に呼び、事の顛末と今後について話をする。

既に婚姻を結んでいる成田正等は別として、於福の父親である柴崎長親は良くて側室と思っていたところに正妻として扱うと知り、満面の笑みを浮かべている。


「此度、於福を娶るにあたり柴崎長親殿も我が舅殿になる訳だが、今後の事もある故、今暫くは成田正等殿の家臣として成田家に仕えて頂く」

「宗泰殿、柴崎長親は武勇に優れ、また家臣の信頼も篤い男。某に気を使われず独立させても…」


俺の言葉に正等が驚いた様子を見せるが、その言葉を手で制し続きを話す。


「正等殿のお言葉、大変ありがたく思いますが、今後の為、柴崎長親殿には今しばらく成田家の家臣のままで居て頂きたい。 とは言え某の舅殿となる以上、城を任せ所領も増やさねば体裁が悪いので、騎西城(埼玉県加須市根古屋付近)とその一帯1万石を与える」

「有難き幸せ…」


柴崎長親が頭を下げるが、再度それを制し話を続ける。

「ただし、騎西城とその一帯1万石は一度成田家への加増とし、その後、成田家より柴崎長親殿に与える形として頂きたい」

「何故でござる? 柴崎長親に直にお与え頂きましても、いや直に与えるべきでは?」


「本来ならば直に与える方が良いとは思うが、成田家の家臣で居てもらう以上は成田家を通しての方が都合が良いのだ。 周囲には俺が正等殿に気を使っているという風に見えよう。 それと直ぐにではないが、正等殿と柴崎長親殿には不仲になっていただきたい」


俺の正妻の実家に暫くの間とは言え成田家の家臣のままで居ろと言うのもおかしな話だが、更に今後不仲になれと言われ、2人が不思議そうな顔をしている。


「今は落ち着いているが、いずれ間違いなく関東管領である上杉顕定と争う時が来よう。 成田家、柴崎家が不仲と知れば、必ずどちらかに接触し味方に引き込もうとするはず。 故に家を割らないよう気を付けながら不仲を演じて頂きたい」


そこまでするのか? という顔をしている2人だが、その後も想定される事を説明したら納得の表情を浮かべた。

上杉顕定が接触して来た際に色よい返事をした方には、顕定に従う国人衆との繋がりが出来る。

言うなれば敵に寝返るであろう国人衆を炙り出せるのだ。


その後、雑談などをしながら、いずれ関東管領を片付けた後に柴崎家を独立させて直臣とする事を約束した。

う~ん2人は満面の笑みで帰って行ったな…。まあ柴崎家が独立する際は別の土地にはなるが、大幅に加増するって伝えたし、独立後の騎西城とその一帯の所領は成田家のものだと言ったからな。

狙いどおり顕定が餌に喰いついてくれると良いんだけど…。


翌日、朝食を済ませ執務を行う為、主殿に向かうと薩摩に行っていた斉藤勝康が帰還の報告に来ていた。


うん、恐らく後ろにいる5人の武士は島津家の人だろうけど、それ以外の女性陣は何?

良い着物を着た12~3歳ぐらいの女の子が1人、そしてその後ろに20代ぐらいの女性が4人。


俺に目通りした島津家の人間は合計10人なんだが、男5人、女5人、これは男性陣の奥さん達?

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