対抗策の効果

秋になり今年もたわわに実った稲を農家の人達が家族総出て刈り入れを行う季節になった。


江戸湊の権利を道灌に取られた後、対抗策として石神井川と入間川の合流地点にある宮城の増改築に加え船着き場の整備が進み、堺や相模、下総などからの船が江戸湊を通り過ぎ、入間川を遡って宮城の近くに作った簡易船着き場、というか桟橋に船をつなぎ、荷の積み下ろしをしている。


石神井城でおこなった評定の後、川上屋彦左衛門を呼んで宮城の近くに簡易的な船着き場を作るので完成次第、俺が卸す商品は江戸湊ではなく宮城の城下での販売、また江戸、品川湊の商人には販売する量を少なくするよう指示をだした。

当然、彦左衛門はこれから整備をすると言う場所で商売をしろと言うだけでなく江戸、品川湊の商人に売る量を減らせとの指示に対し、他の商人から反発がある可能性、また販売量を少なくすることで利益も減るし、在庫が余ると難色を示したが、三浦の海賊衆の話をしたら渋々納得した。

江戸、品川湊の商人に売る予定だった物を三浦の海賊衆に売れば良いだけで、向こうからやって来て商品を購入してくれるのだから、彦左衛門は宮城の城下に店を構え、やって来た商人に品を売れば良いだけだ、店や蔵を建てる必要はあるが、買い手が来るならと準備を始め、夏には店と蔵を建て終わっていた。

因みに三浦高時に送った書状の返事は三浦の海賊衆が尾張の津島湊から仕入れた物などと一緒に積んだ船で即座に運んで来た。


高時は流石元相模の守護だっただけあって判断力と決断力がある。

書状の返事を送るだけでなく挨拶とばかりに豊嶋家に売る商品まで船に積み込ませるとは…。

これには彦左衛門も驚いたようで慌てて商品を宮城の城下に運んでいた。


江戸湊の商人からは石神井城に居る父の所に商品を今まで通り卸してくれと頼みに来ていたが、当初の予定通り道灌が立場を利用し豊嶋家から権利を奪った以上、江戸湊が潤えば道灌が潤う事になると言い、取り合わなかった。

ただ一部、豊嶋家と深い繋がりのある商人には宮城の城下に店を出せば今まで通り取引を続けるとは伝えてあるので、秋になる頃には宮城の城下に商店が立ち並び出し街並みが出来つつある。


俺は道灌がどのような横やりを入れて来るのか、それに対しどう対応しようかと考えてはいたが今の所、横槍を入れてこないので若干拍子抜けした感じだ。

恐らく道真に書状を送った事で豊嶋家にチョッカイを出さないよう釘を刺されたのかもしれないが、そうでないとしたら何を企んでいるのか分からない為不気味だ。

流石に兵を挙げて宮城に攻め寄せるような事は無いだろうが、今回豊嶋家が取った方針により不利益を被った国人衆を焚きつけて宮城を襲わせるぐらいの事はしそうだ。

まあその辺は最初から想定のうちなので風魔衆に宮城周辺の国人衆を見張らせているが、今の所はこれといった動きはない。

動きが無いのは良い事なんだけどやっぱり不気味だ。


それもその後、風魔衆からもたらされた情報により、純粋に道灌がそれどころでは無いだけだった。

どうやら扇谷上杉家の当主を上杉定正にした事で、一部の家臣が討ち死にした上杉政真の幼い嫡男に家督を継がせるべきだと再度言い出しお家騒動になりかけているらしい。

恐らくだが定正を当主にした事で今まで政真により認められていた利権等が取り上げられたり、決着していたはずの境界争い等が覆されたりと、定正を始めその後ろ盾となった重臣達に有利な裁定が下されているのが主な原因のようだ。

風魔衆の調べによると、利権を取り上げられたり、境界争いの裁定が覆されているのは小身の国人衆が多いようで、大身の国人衆に有利な裁定がくだされており、それに対して対抗するために政真の幼い嫡男に家督をと言う派閥が出来て、その派閥を切り崩し定正を当主として仰ぐよう説得に奔走しているらしい。


道灌だけじゃなく、定正まで今まで認められてた利権を奪ったりしているとは…。

恐らく扇谷上杉家の勢力圏内の利権で自家の収入を増やし、係争関係では大身の国人衆を味方につけ自分達の地位を盤石にする為なんだろうけど、確実に一部からは反発を生むやり方だよな。

可能性としては、反発して兵を挙げさせ、それを討伐し所領を取り上げ自分に従う者だけを残そうとしている?

だとしたら血は流れるけど定正に従う国人衆が多くなり地位も盤石になる。

恐らく道灌が説得している国人衆は婚姻関係等が複雑で手出しをすると厄介な家なんだろうな。


豊嶋家としては扇谷上杉家のお家騒動でこっちを邪魔する余裕が無い事は良い事なので傍観しつつ、風魔衆の情報収集組を使って相模に定正が小身の国人領主に兵を挙げさせそれを理由に所領を取り上げ、その所領を定正とその重臣で利権と所領を分け合おうとしていると言う噂を流してあげよう。

燻る火種が消えないように、あわよくば火種が集まって炎上するように。


折角作った火種が消えたら定正や重臣達の目論見が潰えちゃうもんね。

本当は油でも注いであげたいんだけど、流石に油を撒く力は今の俺には無いのが残念な所だ。


それにしても道灌が豊嶋家にチョッカイを掛ける余裕が無いのは良い事なんだけど、俺の意趣返しに地団駄を踏む様子が見れないのは残念だな。

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