グリーンスクール - マイ・ピュア・レディ

辻澤 あきら

第1話 マイ・ピュア・レディ-1

               マイ・ピュア・レディ


 某月某日――晴。風向、南南西。


 歓声の下、打球は外野を転々とした。打者は一塁を回って二塁へ向かった。ボールが内野に返球されたときには三塁に到達していた。ヘルメットを抑えながら起き上がった姿に、また、歓声が飛んだ。

 トレーニングウェアのまま三塁側のネットにしがみつくように見ていた加代子は、そんな五十嵐の姿に見とれてしまった。たった二年上級だというだけで、どうしてこんなにもカッコイイんだろう。そう思いながら、土埃を払っている五十嵐をじっと見つめた。ただ、五十嵐だけを見ていた。


 部室に帰ると、もう人の気配はなかった。こっそりともぐり込むように扉を開き、中を覗いた。薄暗い部屋の中に、一人だけいた。加代子は恐る恐る足を踏み入れた。それに気づいた中の人物はゆっくりと振り返った。

「三島さん?」

「…はい」

加代子は名前を呼ばれて速やかに答えた。声の主は、副キャプテンの葵だった。

「どこ行ってたの。部活抜け出して」

「あ、…すいません」

「すいませんじゃないわ。どこ行ってたの?」

「あの……、その……、…ごめんなさい」

「はじめ、いたわよね?それから、抜け出したのね」

「……はい」

「あたしは、いいけどね。キャプテンがうるさいのよ、サボリは許さない、って」

「……はい」

「一年生で、サボリ癖がつくとダメだから、場合によっては、処罰もあるわよ」

「……はい」

「まぁ、いいわ。でも、月曜日、キャプテンからまた訊かれるわよ。キャプテンは厳しいから覚悟しておいてね」

「……はい」

「じゃあ、あたし帰るけど、あと戸締りよろしくね」

「はい…」

 葵が去って加代子はほっとした。クラブをサボって野球部の試合を見に行ったなんて言えない。けど、月曜にはキャプテンの野上から詰問される。

 ―――どうして、行っちゃったんだろう。

自問しながら、やっぱり、それは五十嵐先輩のせいだと思った。いや、むしろ、同級生で同じクラブの小西美智代のせいだと思った。

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