16


      *


 それから一週間、彼は一度もマスターベーションをしなかった。セックス恐怖症になってしまったのかもしれない。心の傷は思った以上に深いようだ。


 学校の授業でも、2人はぎこちなかった。佐伯くんがものすごくぎこちないものだから、それにつれらて奈留枝(今度こそ、出席カードを読み取ることができた)さんも、少しぎこちなくなっていた。彼女にしてみれば、どこか勢いであそこまで行ってしまったって思いもあっただろうから、あらためて昼間の光の中で佐伯くんを見て、やっぱり自分は彼には恋はしないってことを再確認したのかもしれない。あれ以来、奈留枝さんは佐伯くんの部屋を訪れていない。


 学生ラウンジのいつもの席に、カワタくんは姿を見せない。断片的に聞こえてくる情報によると、問題となった女の子は、ただの「つまみ食い」だったそうで、冷却期間を置いたのち、また奈留枝さんのところに戻って来るつもりらしい。


 状況は複雑な四角関係(わたしも加えれば相関図でペンタスターが描けるかも)に陥っている。誰もが重苦しい気持ちを抱えて、日々を過ごしている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る