12
充生が父親と一緒につくっていた町のミニチュア。
しばらく時が過ぎてから、彼はまたその制作を再開した。
「おもしろい?」と真帆が訊くと、「とても」と彼は答えた。
「でも、仕事も同じようなことをしてるんでしょ?」
いま取り掛かっているのは、都心に新しくできた巨大商業施設のジオラマ制作だと教えられていた。
「うん、でも、ずいぶん違うし」
「どこが?」
「あっちは主に樹脂素材と金属を使うんだけど、これは軽量紙粘土だから」
「ああ、そう」
どう違うのかはよく分からなかったが、彼は本当に楽しそうだ。そのうち、彼女も手伝いたくなった。
「やってもいい?」
いいよ、と彼が言うので、粘土を平たく伸ばす作業を分担した。それを木製の型で成形し、シンプルな家を造り上げていく。斜面すべてを覆うには百棟は必要だった。
「ああ、気持ちいい」と彼女は言った。
「この感触。懐かしいわ」
「でしょ? すごく楽しいんだから」
彼は自分が好きなことを真帆と共有できて嬉しそうだった。
「康生さんとも、ずっとこうやってふたりでつくっていたのね」
「そう。父さんはもっとはるかに巧かったけどね」
「大丈夫よ」
真帆は言った。
「ぜったいに追いつけるはずよ」
確信があった。これほど似ているのだ。いつか彼は康生に追いつき重なっていくに違いない。彼は父親よりも長く生きて、年季の分だけ巧になっていくはずだ。
「明日の夜はなにが食べたい?」
真帆は訊ねた。
「カレーライス」と充生はすぐに答えた。
愛って、生きて欲しいと強く願うこと。彼女はその言葉を思い出していた。
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