第126話 襲来・瑠璃の華


「まさかここまで早く習得できるなんて……耀、あなたやっぱり才能の方向性が違うのね。付与魔法と強化魔法の才能って…少しニッチだけど」


「うん、僕もビックリしたよ。こんなあっさり出来るようになると思ってなかった…射撃系の魔法と感覚が全然違う。やり方を忘れてただけみたいに、3重付与まで簡単に出来る…」


「ふふっ、ペトラ先生に感謝ね?あの子、魔法の腕前凄いわよ?サンサラ先生には流石に及ばなさそうに見えたけど…現時点で私より断然上ね。今日だけで私も修練不足を実感したわ」


「…これに関してはザッカーさんが実践主義過ぎただけだよね。そういう意味では少しズルしちゃったかもだけど…でも、これでかなり前に進めるよ」


「それにしても以外だったわね。付与魔法ってサポート専用の魔法ってイメージが強かったんだけど…強化魔法と近接戦で組み合わせるとここまで強いのは本当に目からウロコよ」


「まぁ武器がある前提だけどね。でも、この世界って魔道具化させれば手元に呼び戻せたりするし魔法袋もあるから武器が無い状態ってあんまり無いんだよ。その辺、かなり噛み合ってて強力かも」


「装備を失くさないのはホントに便利よねぇ…モン◯ンみたいにずっと武器を担いだままとかしなくてもいいし、落としたり盗られる心配も少ないし。ま、装備してた方が速く構えられるけど」



夕暮れの屋内演習場…放課後も過ぎた夕日が照らし出す時間帯は生徒達も寮や街に散っており、校舎内には殆ど生徒が居ない


しかし、校舎内に残ってはいけない決まりは無く、希望があれば一部の校内施設は日付が変わるまで開放され使用できる事になっている


屋内演習場もその1つであり、道具類も簡単なものならば使用しても良いことになっていた


四脚に上から鎖でぶら下がる真四角の的に向けて、太腿のホルスターから短杖を抜く朝霧が抜きざまに素早く狙いを定めて瞬時に魔法を発動した


まるで西部劇の拳銃の早撃ちのような速度で白銀の魔力光と共に放たれた30cmはあろう氷柱が銃弾のように放たれ、20m先にある的に命中…金属音を立てて的が揺れ、鎖ががしゃりと音を立てる


放課後、魔族の少女ペトラから付与魔法のアレンジを教えられた耀だったが…それまでの悩みはなんだったのか、と言わんばかりに容易く付与魔法の重ね掛けを成功させていた


曰く、『才能の方向性』


簡単に言えば、『向き不向き』


お昼に受けた講義『射撃系魔法の実践』ではその手の魔法に秀でたエルフの少女シオンからの手ほどきを受けても上手くいかず、逆に朝霧はみるみる新たな魔法のエッセンスを吸収していたのだ


だが、付与魔法に関しては耀の吸収があまりにも早い


付与の掛け方、重ね方を見せられ、考え方を変えられた耀はいとも容易く3重付与を成功させており、3つの付与魔法の統合にまでその手を掛けていた


僅か半日の出来事…しかしその成長速度は普通の魔法使いが年月をかけて得るような内容である


勇者としての力、才能がどれほど非常識なのかを改めて思い知ることとなっていた


3重の付与魔法成功は非常に高精度な魔法の操り方が求められる。付与魔法専門で学ぶ魔法使いが生涯で成功させ、統合させることが出来れば一流を名乗れるような技術の1つだ



それを、僅かに半日



手にした愛用の武器、分厚い刃に片手剣よりも短めの頑丈さと取り回しを重視された剛短剣には檸檬色にも似た鮮やかな黄色い魔力光がオーラとなって纏わり、美しく光を放っている


耀の魔力光がしっかり見えるのは今日が初めてのことであり、これまでは自分の魔力に色があることを耀は知りもしなかった。


それ程までに、分厚く濃い魔力を付与魔法に込められている証拠であった



「せいっ!」



それを逆手に持ち、腕が消えて見える速度で振り上げれば的に向けて一直線に檸檬色の半月状の刃が放たれ、地面の土をばっさりと両断しながら的へ飛翔


バギンッ、と激しい金属音を鳴らしなから的へと命中する


飛刃、と呼ばれる魔力の斬撃を飛ばす技術…強化魔法による肉体強化と武器に魔力を纏わせる魔力操作、素早く得物を振るう俊敏性によって可能となる遠当ての斬撃


通常魔法的魔力運用と高度な強化魔法…魔法使いと戦士、両方の技法を用いなければ成立しない高難度の技。魔法、というよりも魔力を動きに合わせて形状的エネルギーにして放つ技術である


破壊力で言えば当然ながらに直に短剣で両断する方が遙かに強いのだが、それも技術次第で飛刃は凄まじい切れ味を発揮する…遠距離魔法が使えない者からすれば非常に使い勝手の良い技だろう


…かの白金級冒険者ライリー・ラペンテスですら、魔力運用への適性の無さから不可能だった両適性が必要な技能。これを付与魔法の感覚から魔力の運用を掴み、半日にして瞬時に形にした耀の異様さを指摘する者はまだ居なかった



「うん、かなりいい感じ。魔力消費も大した事無いし、威力も調整できる………これで戦いやすさが段違いだよ」


「こんなに魔法の世界なのに戦法がかなり物理なのは…ちょっと面白いわね」


「そこはほら、魔法の世界だからね。斬撃が飛ぶとか十分ファンタジーだよ。…というか、その言葉は彼方君に言うべきなんじゃないかな?」


「……言えてるわ。かー君、昔から変身物とかロボット、SF、パワードスーツみたいなの大好きだったから…まさか本当にそれで勝ち残るとは思わなかったけれどね」


「初めてみた時の事、忘れられないけど……あれは勇者というより魔王とかの類いだと思ったよ。寄りにもよって真っ黒尽くしなんて……」


「ま、昔からあんまり英雄願望というか…目立ちたがりやじゃなかったもの。真っ白の騎士様、なんて柄でも無かったし、金ピカも嫌じゃない?」


「き、金ピカはちょっと変かなぁ…?あ、そういえば朝霧さんも魔法を色々変えたんだっけ?シオンさんから結構教えてもらえたって言ってたよね」


「そうなのよ、ほんっと助かったわ…サンサラ先生、理屈とか基本の使い方は凄く分かりやすいんだけど、オリジナルの凝った魔法になると凄く複雑なのよね。参考にはなるけど……こう……レベル100だけ見てても戦い方自体の勉強には少し足りなかったのかも」


「サンサラさんって世界でも凄い魔法使いなんだよね?…まぁサンサラさんもザッカーさんも、やり方が実践主義のスパルタ形式だからなぁ…。戦闘理論というより『体で覚えろ』の感じでしょ?だからペトラさんの教え方は新鮮だったなぁ」



今日、出会った2人の少女…シオンとペトラの2人は耀と朝霧の魔法と戦闘に強い刺激とインスピレーションを残していった


今までザッカーとサンサラにそれぞれ指導をされていた2人だが…基本的にはほぼ実戦で試させる2人の教え方は技術は分かるものの耀の参考には一歩足りなかった


端的に言えばレベルが高すぎるのだ、学ぶ途中の2人では真似しきれない部分が存在した


そこに至る為の橋がなければ難しい…その為の技法や理論、思考が足りていなかったのだ。それを補える機会こそが、シオンとペトラの2人との邂逅だった


言わば、彼女達からのアドバイスは「中級者向け」


初心者を抜けてから、超級者だけを見て参考にしていた朝霧と耀からすれば目から鱗の連続と言ってもいい程だ


しかし、サンサラとザッカーからしてみれば…少し仕方のない話でもあった



何せ、ここまで教えた事を吸収して身にしていく人間は今まで見たことがないのだ。ザッカーはそもそも教えた事自体が多くないが、さらり、と教えてみたらすぐに出来るようになったり元から自分との戦闘スタイルが似ているのも幸いして教え方が実践的になっていった


サンサラに至っては何人もの門下生を抱えている身ではあったが、彼女の技能を全て飲み光らせる者は今まで存在しなかった。魔力の運用法、術式の構築、展開、多重展開、同時使用、戦闘時の応用、サポートに回す例、魔法作成の技術…教えれば教える程に身に着けていく朝霧は彼女にとっても見たことが無い


むしろ勝手に魔法作成という高難易度の技術を行い、自分が教えた魔法の術式にアレンジを加えてオリジナルの魔法に発展させたりと度肝を抜かれる技術をさらりと披露してくる朝霧に、思わず教えの手が加速していた部分があった


朝霧をではなく唯一のと扱ったのには、朝霧が存外に良い娘だった事に加えてサンサラが自分の全てを教えるに足るを見出した事が大きかった


事実、大魔女サンサラ・メールウィの師匠紋を身に刻んだ者は芽原朝霧を除いてこの世界に存在しない


総じて、2人は自覚無いながらに勇者と呼ばれるに足る素質と才能をこれでもかと見せつけていたのだ



「あ、夜ご飯まだだったね。今って食堂開いてたっけ?」


「開いてないわね。ほら、この前街に出た時の屋台飯なら魔法袋にあるわよ?食べる?」


「うん、いただこうかな。うわっ、なんかすごい種類あるけど…どれだけ買ってきたの朝霧さん…?」


「し、仕方ないじゃない…全部美味しそうだったのよ。異世界ご飯って美味しいんだもの…つい食べてしまうわ」



グラウンドの縁にある長椅子に腰を下ろした2人


時間は既に夜ご飯の時間を過ぎており、この時間では学院内の食堂は空いていないだろう。朝霧がその代わりに、と魔法袋から次々と取り出して長椅子の二人の間のスペースに置いていくが……何故か妙に多い


朝霧はこう言った出店や屋台が好きな傾向にあり、気が付くと何かを片手に頬張っている姿もしばしば見られるくらいだ


…とは言え、何故か10種類以上も魔法袋からするすると出てくるのを見れば朝霧の顔を見ざるを得ない。彼女が気不味そうに視線を逸らす…自覚はありそうだ



「ルルエラは…もうご飯食べちゃったと思うし、食べよっか。ちなみに何がおすすめ?」


「そうね……やっぱり肉串……いや、ここは生姜焼きみたいなのとピーマンもどきの炒め物かしら…あ、これもイケるわよ?セッコとかいう鮎みたいな魚の塩焼き」


「おぉ……って、生姜焼きみたいなのあるんだ。これも先人達がこの世界に広めてくれたおかげかな…?あ、これとかたこ焼きに似てない?」


「ん………それはトトスの爆弾焼き……中身がアツアツ……美味しい……」


「あ、それも美味しかったわねぇ。中はタコじゃなくて大きい貝柱みたいなのが入ってるのよ。ソースは醤油系に近いかしら…たこ焼きソースが恋しくなるわ」


「……んむ……んむ……私のオススメはこれ……紅白鶏のモモ肉…ハンドル付き……」


「これ私も好きなのよねぇ。どう見ても大きさが鶏じゃないけど、クリスマスチキンとか遊園地のターキーみたいで美味しいのよ」


「いいね、これ。匂いもいいし……こっちに来てから胃袋大きくなって良かったよ。僕、向こうじゃ全然食べられない胃袋だったから」


「私も、この仕様には感謝してるわ。にしても、随分詳しいわね……よく買ってるの?あな……………た…………?」


「えっ………………」










「「うわぁっ!?誰っ!?」」





あまりにも自然に会話に混ざり込んでいて、全く気が付かなかった!


長椅子で食事を挟む二人を、長椅子の横からしゃがみ込んで間に挟まるようにしてそこに居た一人の少女の存在に!


いつの間に居たのか、いつからそこに居たのか全く感知できなかった!


違和感なく会話に入り込み、地球のターキーの倍くらいある巨大鶏もも肉の焼き物を小さな口でもりもり頬張っている少女は小柄なルルエラより一回り大きいくらいの十分に小柄な体に、まるで深い湖に月明かりが入り込んだような深い瑠璃色の短めに切られた髪が目に映える


少し閉じかけた眠そうに見える目に、何よりも目が行くのは彼女の頭部でぴこぴこと動く…猫耳


よく見れば背中側で細長くしなやかな猫尻尾がゆらゆらと海原に揺れる海藻のように気ままに揺れ動いているのが見える


その目つきからダウナーな印象を抱きがちだが、とても愛らしく美しい少女だ。透明感と大人しさ、口数の少なさが彼女に神秘的なイメージを纏わせている


……のだが…


これに反して顔程の長さはある巨大ターキーをワイルドに片手に持ちながら小さな口でブチッ、と食い千切ってはもくもくも咀嚼している姿が妙にサマになっている



「ん…私はマウラ……2人に会いに来た……。……少し話してみたかったから……カナタから聞いただけだと、分からないし……」



ドストレート、隠すこと無く、初っ端から言い切ったのは彼女が初めてだろう


それを示すように、左手をひらひらと振ればその薬指に嵌まる黒銀の指輪が存在感を見せた。そう……カナタを囲む女性陣が身に着けている共通のアクセサリー



「…いきなり来たわね。まさか今日中に3人も来るとは思わなかったわ。…………猫耳ね」


「う、うん。シオンさんもペトラさんもちょっと隠して話しに来たからビックリしたけど、こんな真正面から来るとは…………確かに猫耳だね」


「………?」



シオン、ペトラと続いて接触してきたが、2人は話しの最中までカナタとの接点は話さずに入り込んできた。一転、この少女の直球に切り込んできた様には少し驚きを隠せない


……あと、間近で見る初めてケモミミにも驚きを隠せない!



ーー凄い、本当に動いてる…!


ーー人の耳とは別に猫耳あるんだ…!


ーーなんか小動物みたいで可愛い…!



それは日本人なら当然の反応…!


リアルエルフ、リアル古風口調少女、そしてリアル猫耳と来ればファンタジー好きは食い付かずにはいられない!


こてん、とそんな様子の2人に首を傾げて不思議そうにする少女のなんと愛らしいことか



「……私はシオンとペトラみたいに頭が回らない……。……聞きたい言葉はあるけど、どう聞けばいいのか分からない……」



ぽつり、ぽつり、と猫耳の少女が言葉を紡ぐ


己の不器用と弱さをターキー片手に言葉にしながら、長椅子の上に手をかざし…出された食事を改めて魔法袋に収納してしまう



「……試すみたいな問答は苦手……そういうのは3人に任せてるから……。……だから、私はやりたいようにやらせてもらうことにした…」



ぽつり、ぽつり、と…口数少ない彼女が呟く言葉がやけに大きく聞こえた


しゃがんで長椅子を覗き込むような姿勢で、2人にそれぞれ視線を向けながら…大きくない声にそれでも顔を近づける朝霧と耀に……



「…サギリ、ヨウ…今から3分、私から……ーー」



ーーバチッ、バチチッ



弾ける稲妻の音が耳を打つ


瞬きをしていない、なのに……猫耳の少女が姿を消した


呆気にとられた


その2人の後ろから耳元で……ぞわりと擽ったさを覚える蠱惑的な声が、囁かれた






「ーー…………無事に、逃げてみせて………?」


  




「「……ッ!?」」





ぶわっ…!!


朝霧と耀に、鳥肌が立つような震える感覚が走った


紛れもない……それは身の危険への伝達信号


まるで親しい者へ背後から耳元にて囁くかのような可愛らしい声にも関わらず、背筋が震え寒気を覚えるほどの戦慄感がビリリッと走ったのだ


弾かれたように、耀と朝霧は左右に飛び退き座っていた長椅子から退避をしたその瞬間…





爆発音を響かせ天井付近から落下した瑠璃色の稲妻が先程まで腰掛けていた長椅子を木っ端微塵に粉砕した




「ま、マウラさんっ!?いきなり……!!いや、ここまであからさまに試されると分かりやすいか……!」


「っ……ここまで直接的なのはほんと初めてね…!耀!不味いわよ…!もしこの子がシオンとペトラに並ぶ強さなら…!」


「うん…!今の僕達じゃまず勝てない!いきなりだけど、やるしかないね!」



肩を並べるようにして瞬時に合流した朝霧と耀は短く言葉を交わし、突然の攻撃とその目的に対して交戦を決定した


この世界で人と戦った経験は少ないが……実戦の心得はある程度それぞれの師から教えられているのだ



ーー敵対行為に対して躊躇うな、殺されるくらいなら殺したほうが良いね


ーー迷ったらまずは黙らせるのよ。話はそれからね、死んだら話し合いもできないもの



その教えはこの場で予想外にも2人をすぐさま動かした



「「話は戦いの後…!」」



ゆらり、しゃがんでいた姿勢から立ち上がる小柄な少女の体に、バチバチと瑠璃色のスパークが走る。濃密な魔力が帯びる発光現象のスパークとは明らかに違う、弾ける火花にも似たその音は明らかに電気


開かれず緩慢さを見せる眼差しをこちらに向けるマウラに向けて、耀はすかさず万象看破マスター・アナライズによる鑑定を簡易的に、しかし躊躇わずに行った




〘名前〙マウラ・クラーガス

〘年齢〙15歳

〘職業〙魔法使い

〘出身〙ユーラシュア

〘魔法〙雷焉回帰ハイエンド・ボルテージ

〘二つ名〙なし

〘魔力量〙412200(数値化による誤差あり)

〘詳細〙

速度のパラメータ全振りの少女。姿が消えたら死角からの一撃に気を付けよう!

彼女の雷は強烈な麻痺の効果もあるからまともに食らえば即ダウンだ!魔法の使用タイミングは必ず見過ごさないように!

動きを制限するなら氷魔法は有効だ!

足止めと移動範囲を制限させて迎撃と防御を狙おう!


技名

青の這電ブルー・ラン

 拡散する地を這う電撃。飛んで回避がオススメだ

青の降雷ブルー・ボルテックス

 空から落ちる雷撃。狙撃技だ、撃つ瞬間に回避しよう

雷弾プラズマ・バレット

 雷属性の魔法弾。通常の遠距離攻撃だが、弾速が速い。避けるか弾くように

雷迅掌らいじんしょう

 触って直接雷を流し込む。触られたらピンチだ、もし触られたら魔力を固めて防御しよう

半・青の雷迅ハーフ・ブルーサンダーボルト

 全方位に雷をばら撒く。逃げ場はあまり無い。防壁を立てるか気合で避けきるか、弾こう。ここぞと言うときの大技だ






「なんかRPGゲームの攻略本みたいな説明になってるっ!?なにこれっ!?」


「何が見えたのよ!?鑑定にそんな事でてくるの!?………って、かー君の仕業ね…!耀の鑑定に割り込めるなんてかー君しか居ないわ!」


「ってことは彼方君はあの子が僕達に挑んでくるのは折り込み済みってことだね…!というか、こんなネタを仕込んでくるあたり彼方君もオタクだね…!」


「こういうの好きなのよ、かー君!昔から攻略するよりクリア優先で攻略本はガンガン見るタイプだったのよ!」


「彼方君とは仲良く慣れそうで良かった…!多分もっと強く鑑定すればこの文章も貫通できるけど……それって今は意味ないよね…っ」


「これ、遠回しにかー君が「彼女を無事に3分いなせ」って言ってきてるようなものよ!試されるのは趣味じゃないけれど…悪い結果は出せないわね!」



耀の鑑定結果に出てきたのは……どこかゲームの攻略本のように見える明らかに編集された内容となっていた。耀の鑑定は凄まじい精度を誇り、大魔女サンサラ・メールウィの鑑定妨害を容易く貫通する


これを欺けるのはただ一人…勇者ジンドー、つまり彼方以外に居はしない


つまり彼女に鑑定をした耀にあえてこの文章を見せているのは彼方本人に他ならないのだ。何かを試されている…それを感じ取りながら、2人はすかさずこれに乗ることを決める


鑑定結果から見れば、目の前の少女は魔力量ですら朝霧を上回っている。さらに言えば、あのシオンとペトラの親友と言うのだから…間違いなく彼女達と


ガチンコバトルでは現状勝ち目がないのは明らかだ



(技名を指定してる…って事は使う魔法を制限して戦いに来てるってことだ。なら、勝ち目のない戦いじゃない筈…というか、氷魔法は有効って書いてあるし…!ここは朝霧さんをメインで立ち回って…………っ!?)



耀が頭の中に戦法を組み立て始めた最中…見ていた先に居たはずの猫耳の少女の姿が居なくなっている事に気が付いた


おかしい…さっきと同じだ。瞬きもしていないのに思考の最中で彼女の姿を見失ったのだ





ーー姿が消えたら死角からの一撃に気を付けよう!




「っ………伏せて朝霧さんっ!!」


「っ!!」



これは耀の勘


ふ、と鑑定に見えたその一文に寒気を覚えて放った咄嗟の行動と言葉は、しかし考える暇も無く朝霧を瞬時に動かした


耀は視界の端で目撃する…膝の力を抜くように地面へと体を落とした朝霧の頭スレスレを通り過ぎる…瑠璃色の髪を靡かせるマウラの鋼鉄のガントレットに鉄拳を


瞬間、迎え撃つように腰から抜き放った剛短剣を起用に回して刃の反対の背を、その鉄拳に向けて振り抜いた


ギャンッ、と金属同士の衝突音が鼓膜を震わせる、鉄拳と剛短剣はギリギリと押し合う…猫耳の少女の、あの少し閉じたような目と視線が交錯した



「ん………いい判断……。……鑑定、活かせてるんだね……」


「どうも……っ!これしかないからね、僕…!………朝霧さんっ!」


「…っぶないわねっ!怪我しても知らないわよ…っ!氷爆フリーズ・バーストっ!」



背中から地面に体を倒して回避した朝霧が、地面から伸ばした氷柱で背中を押させて無理矢理姿勢を直し、手のひらに出現させた白銀の光の球体を即座に起爆させた


銀の光が手榴弾でも弾けたように炸裂し、耀と朝霧以外の周囲全てを光で飲み…半径15m近くの地面や有る物全てを凍結させる


周辺の物を冷気の爆風で瞬間冷凍する範囲魔法「氷爆フリーズ・バースト」は周りに強い冷気を放つ魔法「氷気フリーズ・オーラ」を朝霧が魔改造した魔法


ある程度の強化魔法は使えても、近接戦を苦手とする純魔法使い型である朝霧が接近拒否をする為に作り出した魔法だ


それは、効果範囲を背面を除いた全方位に指定し、巧みに耀だけを範囲から弾き出し他の全てを冷凍する


無詠唱、杖無し…ここに来て、練習の成果が発揮された


しかし…



「居ない…!?どうなってるのよあの子…!」


「いや、少し見えた…っ。朝霧さん、あのマウラって子…だけだよ!鑑定にも書いてあった……速さ極振りのスピードスターだ…っ。今も朝霧さんの魔法が広がるのに合わせてバックステップで範囲から抜け出した…!」


「っ……またとんでも無いのが来たわね…っ。って事は狙うより弾幕の方がいいかしら…?私じゃあの子の動きは全く見えないわ、耀が頼りよ」


「いや、倒すのは目的じゃない…無事にやり過ごせばいい、って言ってたよね…。僕でも集中してやっと、ブレてどっちに動いたかが分かる程度しか見えないよ。今の状態で何度も迎え撃つのは無理…!」



しかし、マウラの姿は無く朝霧の魔法を受けた様子もない


周囲から「バチッ、バチッ、ヂヂッ」と稲妻が必要な音が聞こえており姿が見えない彼女の存在感を否応なしに伝えてくる。周辺に居るのは明らかだ


突然、気配が強くなった


魔力の高まりと共に、後方からのプレッシャーが強まるのを感じ取る。見ればそこでマウラが足裏をグラウンドに叩きつけた瞬間が見えた



「………青の這電ブルー・ラン

 


囁きとも聞こえる魔法名が言葉にされた瞬間に、彼女の足裏がグラウンドを叩き、そこから青色の電撃が地を這う蛇のようにして扇形に放たれた



「っ、跳んで朝霧さん!」



耀の合図とともに強化魔法によって5m以上を容易く飛び跳ねた二人の真下を青色の稲妻がバチバチと通過していく


だが、それだけでとどまらず


マウラの指先が飛び跳ねたばかりの2人に向けられ、その指先に瑠璃色の光がスパークと共に宿る



「……雷弾プラズマ・バレット



ーーダダダダダダダダダダダダダッッッ!!



マシンガンのような連射音を掻き鳴らして彼女の指先から放たれる雷の弾丸はペットボトル程度の大きさをした雷製の魔法弾だ


それが一点から近代兵器の銃器が如く雷の弾丸を2人に向けてばら撒き始めた



(やばっ…!?跳んだら避けられない…っ!)



空中にいる僅かに数秒と無い時間…この魔法弾が自分達を蜂の巣にするには十分過ぎる程の時間だ


跳べば、飛行できない限り逃げ場などない。サンサラから教わった…この世界で浮遊は出来ても自在に鳥のような飛行が可能な者など殆ど居ない、と


ましてや空中で戦闘を行えるような機動力が発揮できる者が居るとすればサンサラが知る限りは唯一人…勇者ジンドーをおいて他に居ない、と




……そのサンサラもまさか彼の教え子2人が、空を脚で駆け回ったり風に乗って飛んだりしているとは思ってもいないのだが……



「好き勝手されるのは趣味じゃないわ…!氷晶柱クリオ・ピラーっ!」


「朝霧さん…っ!ナイスっ…!」



だが、朝霧が空中で動く


指先を真上に突き上げるような仕草に合わせ、真下の地面からクリスタルのように透き通る巨大な氷の柱が突き上がる


まるでタンクローリーを縦にしたような極太の氷柱が3本、朝霧と耀の目の前に聳え立ち飛来する雷の弾丸を弾き返したのだ


一瞬の彼女の判断が、2人の危機を救う


これを見てマウラは僅かに目を細めた







(………硬い……。……軽く撃ったけど、それでもあの氷……欠けてもない……。……防御の判断、魔法の選択…悪くないね……)



シオンから聞いていた、朝霧の生み出す氷の異様さ


講義の時にシオンはいとも容易く朝霧が生み出した氷塊を粉砕したように見えたが、確かな違和感を覚えていたのだ



ーー氷にしてはあまりにも硬すぎます。殴りつけた時…熱と強化を回していた私の手まで。注意してください、マウラ……あれは、普通の氷属性ではありません



(……的中だね、シオン……。……流石に舐めて当たったりしない方が良さそうかな……?……なら、直接触れる雷迅掌は悪手……最悪、相打ちで凍らされる……。……落とすなら、ヨウの方…)



氷にしては、異常を通り越して硬すぎるのだ


いくら巨大な氷柱と言えども普通の物ならば放った雷弾数発でへし折れる筈だ。しかし、乱れ撃ちした全ての雷弾を受け止めてなお傷一つ無いとはどういう事か…これにはシオンが先に仮説を立てていた


曰く、通常の氷属性では無い


硬度、強度で言えばその辺の鋼鉄など遙かに上回っている。雷弾にも少なからず熱はあるが、表面が溶け落ちる様子もない…青透明の装甲と言われても頷けてしまう


ペトラはこれに対して仮説を立てていた



ーー恐らく見た目通りの氷ではないな…。水が凍った「氷」ではない。その様子では、冷気の力そのものが具現化した、という方が近いように聞こえる



それが意味する事の深部は分からないが、マウラは瞬時に戦法を決めた


得意の接近からの強襲は狙いを1人に絞り、あまり今まで披露したことが多くない中距離攻撃を主軸とした攻め方を軸へと据える。何せ時間は3分……悩んでいる暇はない



(……私に論で聞き出すのは向いてない……。……やるなら正面勝負、戦いの中で…2人を視る……。……どんな人なのかは、戦い方にすぐ現れるから…)



カナタにも協力を仰いだマウラは二人の能力を聞いた上で自身の鑑定情報を一文を欺けるように魔道具を設定してもらった


聞いた話ではまだ勇者と呼べる強さではない。フルパワーで相手をしては話にならないだろう…だから、使用魔法は極めて少なく制限して強化魔法の倍率も上限を決めた


これはカナタが自ら設定した物だ。この制限があっても、マウラならば2人を撃破可能だと踏んだ上で朝霧と耀にも十二分に勝ち目がある最低限度の強さのライン


特異魔法は無し、大規模魔法も無し、範囲魔法は威力と範囲を半分にして、込める魔力にも制限をして威力と強化の出力を抑える…今のマウラ特異魔法抜きにして全力の約3割程度の力を出していた


それでも、傷一つ付かない氷……はっきり言って特異魔法無しではフルパワーでも全身を凍らされ閉じ込められるのは危険な可能性が高い。自分だけでは脱出出来ない可能性すらある



2人が地面に着地した


その間隙を縫うように、周囲へ複数の魔法陣を浮かび上がらせ、そこから雷弾をばら撒きながら姿勢を低くして氷柱を回り込むように突撃を開始する



氷晶錐クリオ・スティングっ!」



朝霧の力ある言葉、それに反応して氷柱から槍の穂先のような氷の円錐のような氷柱がギラリとそろい生え、散弾のようにマウラへ向けて放たれる


ばら撒いた雷弾と正面からぶつかった氷柱はそのまま雷弾を貫通し、マウラへと迫るがこれを残像が残るような速度のステップで紙一重の回避


外れた氷柱が地面に突き刺さり、刺さった箇所の周辺がバキバキと凍り付いていくのを尻目に見て警戒度を引き上げたマウラは、いつもの愛武器ではなくただの鉄製ガントレットを打ち鳴らした



(……当たれば凍る……シオンなら体でも熱で弾き返せるけど私が普通に弾くのは危ないかな……?……もっと魔力が使えるならいけるけど……)



それは遠距離攻撃を生業とする純正魔法使いとしてはあまりにも厄介な魔法と言えた。魔法を素手で弾く猛者などそうそう居ないが、近接職にとってこの氷は当たれば身動きが取れなくなる危険な存在だ


いざ近づこうにも、先程の近接用で使われた冷気の爆風魔法が厄介極まりない


つまり、やるなら中距離牽制と一撃離脱の繰り返しがベスト


どんな戦いを見せてくれるのか……マウラは僅かに「ふっ…」と笑い、速度を上げていった







「ちょっ……全然当たらないじゃない…っ!どんな速さよ動いてる所殆ど見えないわ!」


「僕も完全には見えないよ!とにかくばら撒き続けて!自由に動かれたらどうしようもない!」


「っ……耀、真上よ!」


「うそっ!?」


「ちっ………氷晶柱クリオ・ピラー!」



耀の視線が周囲を高速で動き回るマウラに釘付けになる中で、真上に集まる魔力を感じ取った朝霧が即座に指先2本を真上に跳ね上げ魔法を行使する


その動きに合わせ、地面から斜め向きに飛び出した氷柱が2人の真上を遮った瞬間にマウラが揃えた2本の指先を手刀のように振り下ろした



「……青の降雷ブルー・ボルテックス



直後、直上から周囲を瞬時に青色に照らし出す閃光が迸り、轟音を立てて一本の剣のごとく落雷が2人の真上から叩き落される


轟音を聞くだけでその威力を思い知らされる一撃、当たれば人型の炭へと変貌させられる威力に見えるそれはすんでの所で割り込んできた氷柱に直撃し、雷弾では傷一つ付かなかったその氷柱を半ばまで粉々に粉砕する


しかし、その隙に距離を零にしたマウラが恐ろしい速度で2人に迫った


正面から突き出した彼女の鉄の拳を、耀は手にした剛短剣を地面に落とし、起用に片腕で真横に弾き飛ばし、空いた彼女の横腹に向けた反対の手による掌打を打ち込みにかかる


これを真横はぴょんと飛び跳ねて流された自分の拳と同じ方向に体を浮かせて回避、空中で横向きになりながらくるくると回転し、地面に接地する瞬間に足裏をグラウンドに擦りながら着地を見せた


その表情に、焦りも何も映っていない


冷静にして冷徹、あの少しだけ閉じかけた眠そうな目の奥にある光は一切動じる様子がない



「今の受けられるの!?そんな何事もなさそうにされると、ちょっと自信無くすかも…!」 


「弾けるだけ十分よ!南家本流護身術が異世界でも有効みたいで安心ね!流石は師範代…っ!」


「こんな事ならもっと鍛錬しておくんだったよ!それで、どうしようね…これ!僕達は当てられないのに彼女は打ち放題だよ!」


「耀が追いつけないなら私はもっと無理よ!………っ、1つだけ、やってみたい事があるのだけど……試してもいい…?」


「なんだか怖いね…そういうセリフ…!でもいいよ、このまま続くよりよっぽど可能性ありそうだしっ」



耀の家、つまり南家は古流武術を現代にまで残す大きな道場である。現代では護身武闘術を謳ってはいるものの、本来の名は「南流穿闘術」…文字通り、護身ではなく闘う武術


その真価は受けながら同時の反撃による互いに必中にして一方的必殺の体技


耀はその家の長男である。当然ながら、道場の頭である師範の父とその先代となる祖父から幼少より技術を受け継ぐように、と鍛錬を課されてきた


本人曰く「やらされてるだけ」であったが、祖父と父から見ればその才能は明らかに特出していた。体躯には恵まれ無い、男としては小柄な少年だったがその力は明らかに……祖父と父の2人を超えうるものがある程に


故に、僅か17歳にして門弟数百人を抱える道場の師範代を任されるに至る


平和な日本でこの技が役に立つ日など来るはずもない、とたまにサボってゲームやアニメ、漫画に明け暮れた耀だったが、まさかここに来て異世界でこの技術を振るう絶好の環境が待っているとは流石に思いもしていなかった


だが、強化魔法という人の域を超える肉体能力を手にする神秘を掛け合わせた瞬間…この武術のステージはさらに数段跳ね上がる。肉体能力を爆発的に上げる強化魔法はあまりにもこの武術と相性が良過ぎた


後に、マウラも「……面白い受け方…。……当てられたらちょっと危ない……」とこの時の事を語る


しかし、アクロバットかつ驚異的な反応速度でこれを回避したマウラに目を見張る。攻撃を避けたならまだしも、など尋常の反応速度ではない


ここまで速さと体裁きに差があればいずれ受け切れなくなるのは明白、ただでさえあまりの速さに見えるか見えないかの瀬戸際なのだ。耀の脳裏に焦りが浮かび始めていた


朝霧の言葉はまさにこの状況で言えばギャンブルそのもの…しかし、耀は即座に乗った


マウラが動く…牽制として放たれた雷弾が5発、同時に2人へ着弾する軌道で迫るのを見た耀は地面に刺していた剛短剣を即座に引き抜き体を空中で回転させるように回しながら合わせて刃を曲線に振り回す


振り回した刃は全てが雷弾の軌道に合わせられ、刃が思い切り雷弾を切り裂き霧散させた


マウラはその間に距離を潰す


狙うのは…現在、目を閉じて放つ魔力を飛躍的に上昇させている朝霧。明らかに何かの魔法の用意を整えている最中、狙わない手はない程に無防備な姿


だが、それを耀は許さない


間に割り込んだ耀に、低姿勢からのアッパーに似た打ち上げを叩き込むマウラだが手のひらを真下に向けた耀に受け止められ、その姿勢のまま体を前に突き出し肩口でマウラに突き当たる


その体当たりにも似た耀の一撃を受けてなお、起用に宙返りで勢いを殺したマウラは受け流しざまに振り下ろした鋼鉄に覆われた手刀を耀に向け…


耀は逆手に持ち直した剛短剣の背を手刀に合わせて振り抜いた


剣の背と鋼鉄の手刀が衝突し、金属音と火花が撒き散らされ二人の顔を照らし出す



「んっ………面白いっ………!」


「面白いで済まされるのはっ……ちょっと心外かなっ…!」


「…正直、すぐに一人は倒せると思ってた…っ。……想像以上だよ……っ?」


「なら良かったっ…!でももう少し粘らせてもらおうかな…!……朝霧さんっ!」



耀が力付くでマウラを引き剥がして弾き飛ばした瞬間、閉じていた瞼を開き白銀の魔力を撒き散らす朝霧は耀の声とともに高めた魔力を解放した



「さぁ、行くわよ!魔法名無し!術式もアドリブ!範囲はやったことない最大範囲!どうなっても知らないんだからっ!」



半ばヤケクソのように声を上げながら手を合わせ、白銀の魔力をスパーク状に放ちながら名も無い魔法を起動する


それはたった今、作り上げた即席の魔法にして術式


自分の首を狙う者が目の前で動く中で目を閉じ、集中して作り上げた新魔法


それが発動した瞬間








屋内演習場の半径200mを誇るグラウンド面積の全てが、天井付近まで1つの氷塊で埋め尽くされた




簡単なこと




巨大な氷の柱を生み出す氷晶柱クリオ・ピラー……それを纏めて1つの氷として発生させただけの事だ


完全な力技…精度もなにも無い、強引に効果範囲を氷で埋め尽くすだけの魔法


炎や雷ならば範囲内を焼き尽くすであろうその魔法は、しかしながら氷という質量と物質によって埋め尽くされれば脅威度は変わる


ただ一箇所、中心点である朝霧のいる場所だけを残してグラウンドは氷に包まれたのだ



「はぁ……はぁ……!む、無理したわ…!これ魔力すっごい持ってかれるわね…。もう使いたくないわ…」


「よ、よくこんなの出来たね朝霧さん…。どこまで覆ってるの、これ?というかマウラさんは……」


「一応、広げられる限り広げだのだけど……マウラなら、ほら…そこよ」


「うわっ………」



魔力の消耗に息を切らせる朝霧に、ここまで思い切った魔法に度肝を抜かれた耀は周囲一面を埋め尽くし、まるで氷の洞窟にでもいるかのような光景に思わずぽかん、と口を開けた


朝霧がここまで周囲へ大規模な魔法を使った事は一度もない


旅の最中やこの国に身を移してからも使ったことは無いのだ。どちらかと言えばレーザー系、弾丸系の魔法を操ってきた朝霧には狙ったもの以外を攻撃しない魔法が多数を占める


故に氷爆フリーズ・バーストを習得したのだが、それにしても範囲が桁違い過ぎる


代わりに、あまりにも燃費が悪いようだが…それも朝霧が指差す先に見える物を見れば成果があったと頷けるだろう



そこに…薄青く透明なクリスタルのような氷壁に埋まるようにして氷漬けとなった猫耳の少女の姿を見つける


ーー範囲が戦場全てとなれば、いくら早くても逃げ切れない


それを考えた朝霧による力技の結果であった


マウラは生み出された氷塊に飲み込まれ、完全にその中へと閉じ込められる形となっていたのだ



「さて、マウラには悪いけどあと一分くらいはこのままにさせてもらうわ。…流石に少し疲れたわね…ほんと」


「これ、マウラさん生きてるのかな…?普通に全身氷漬けなんだけど…」


「どうかしら……ちょっと威力の調整効いてなかったかも…。でもあれだけ強いなら死ぬことは無いはずよ?」


「僕、絶対に食らいたくないなぁ…」


「燃費悪すぎるから使い物にならないわよ、こんな魔法。無作為に範囲広げて力付くで発動なんてスマートじゃないし効率悪過ぎるし」


「完全に即席の魔法だったもんね。魔法の名前も無いし…そんなに魔力必要だったの?朝霧さんの普段の魔法も大概だと思うんだけど」


「普段はもっと効率よく魔法が発動出来るように色々と術式を弄ってるのよ。範囲の指定とか、出力とか、魔力を回す術式の回路とか、その他諸々…。それを全部跳ばして無理矢理魔力回して発動させたの。効率悪いのも当然よ」


「僕の魔法は燃費良過ぎて全然分からない世界だなぁ。僕、多分一番燃費悪いの、強化魔法だよ?燃費最高で常時発動してるような強化魔法だよ?」


「耀の真羅天誠ザ・シャーロックは特別よ。どう考えても私と同じ括りの魔法じゃないもの。…サンサラ先生に魔法を習って分かったけれど、耀の魔法は異質よ。多分、私の魔法よりもね」


「い、今のところ色々調べられるだけの便利魔法って感じなんだけどね…。ねぇ、そろそろ解除したらどう?流石にこれ以上は…」



乱れた息を整える朝霧がたった今使用した魔法の利便性の悪さに思わず悪態をついた


朝霧が行ったのは単純明快、周辺一帯を根刮ぎ氷漬けにしただけの事である。が、その範囲は演習場内部の空間約400mが氷の中に埋まるような規模であった


二人かいるのはまさにクレバスに空いた穴の中のような空間である


全空間をするならまだしも…全てをなど尋常の規模の魔法ではない。まさに荒業にして魔力の暴力と言える使い方である


2人が吐く吐息が白く色づいていることから、この場所がどれだけ低温に引き下げられたのかが見て取れる。そして…目の前にはまるで、氷河の奥底で氷漬けにされたマンモスかのように猫耳の少女…マウラの姿が氷の奥底に見えた


戦闘領域全てを氷で閉ざす…いかに速かろうとも逃げ場がなければ関係ない


だが、その代償は安くない


朝霧が持つ大量の魔力の内7割近くを持っていかれる程に効率の悪い魔法となった。これは入念に魔法を構築せず、たった今アドリブにて創り出した魔法である


この時点で並の才覚では不可能な荒業であることを朝霧と耀はまだ知らない


魔法の創作とは絵を描く物と様々なシステムを構築するコンピューターの間のようなものだ


魔力にて魔法の道行きを描き、どのように動作し、どの結果を生み出し、どのように機能するのかを想像の領域で創作する…イメージの強さ、構造の想像力、魔法式を繋ぐ緻密さ、その全てを用いて時間をかけて作り出すものが「魔法の術式」


決して、耀がマウラを弾いている間に目をつむりながら数十秒で構築するような物ではない


だが、朝霧か発動した魔法は当然ながら即席故に


魔力を極力使わなくても発動可能にする式、効率性を求めた式、複雑さを省いた式、威力と出力に関する式…そのどれもがアドリブ故に大雑把


これが彼女の大量の魔力の大部分を消費させる原因となった


だが、目的は達成されている…マウラは見事氷の中に幽閉されたのだ


耀は安堵に続いて心配を感じ始める…これほどの極低温ではさすがの彼女も無事では済まない筈だ、と




そんな2人の耳に…妙な音が聞こえ始めた






ーーピピピッ、ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ





まるで目覚ましのアラームに似た電子音


くぐもって遠くから聞こえてくるような響き方


この世界では基本聞かない近代的な聞き慣れた音




ーーサンプン、ケイカ。サンプン、ケイカ。サンプン、ケイカ




カクカクと角ばった人ならざる電子音声が電子音に重なって言葉を作る


どこでそんな音がなっているのか…その場所に目を向ける朝霧と耀の視線の先に、氷塊のショーケースと化した氷の中で動きを止めた瑠璃色の髪の少女が写った


その音声が響いた直後…




巨大な雷鳴の音を響かせ、目の前の氷塊がイルミネーションの如く瑠璃色の光を放ち



鉄を超える巨大な氷に、バギンッ、と一筋の大きな罅が走った




発生源は……その中に閉じ込められている筈の少女から



まるでテレビのように、氷壁の向こう側…氷の中で瑠璃色の稲妻が乱れ走り奇しくも美しい光のアートを描いているのが見え


雷鳴が響く度にマウラを中心として氷に罅が広がり始めたのだ



「……冗談でしょ?シオンの時とは大きさも規模も違うのよ?身動きなんかとれる訳が……」


「あー…ほんとに手加減してたんだ…。正直信じたくはなかったけど、でもこの魔力は……」



呆然と、目の前で起こる現象を見送るしかない


恐らく……3分の時間制限が終わった事で力を抑える理由が無くなったのだろう


目の前の美しい瑠璃色の稲光が氷の中を駆け巡る光景とは裏腹に鳥肌が立つ程の莫大な魔力がビリビリと伝わってくるのだ


彼女と戦っていた時とはまるで比べ物にならない


瑠璃色の光と稲妻がぎゅるぎゅると彼女を一点にして収束していき、そして魔力の稲妻の凄まじい波動が一挙にして放たれ…






彼女を中心とした氷塊、半径約200mが粉微塵に内側から爆散した




あまりの衝撃に顔を腕で覆わなければ目を開けていられない


あまりに鮮やかで鮮烈な瑠璃色の閃光と稲光に瞼を開けたままでいられない


あまりの魔力圧に口から吐息をしなければ酸素が足りない



まるで雷雲に走る雷の中心点のように、その少女から瑠璃色の稲妻が周囲へ爆走し、凍り付いたグラウンドの土をズタズタに引き裂いていく中


瑠璃色の光と粉々になり宙を舞う氷の破片がその光を反射し、稲妻が辺りを走り続けるその光景の中で


ほぅ……と何事も無く真っ白な吐息を漏らす少女のなんと幻想的で美しいことか



変わらずに少し閉じそうな目をゆっくりと朝霧と耀に向けられ、自分達は彼女とその後ろにいる彼方に何かを示せたのかと次の言葉を待った



マウラは3分間の短い戦いを開けて、口を開き…一言目に……










「…………へくちっ……」







可愛らしく、くしゃみを漏らしたのであった




当然、2人はかくんっ、とずっこけそうになった








〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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【後書き】



ーーいやぁ良かった…新作のエイ◯アン、とても良かった


「……満足そう……そんなに楽しかったの…?」


ーーあぁ…。特にエイ◯アンの1と2と4とプロメ◯ウスを何度も見てるようなオタクには堪らないねぇ


「……それを何度も見て知ってるのは、だいたいおじさん…というかエイ◯アンシリーズ、好きだよね…?」


ーー大好きだとも。モンスターホラーとかパニック系映画なら一番好きと言ってもいい。あの悍ましい生態、生理的嫌悪を催す造形、目を背けたくなる殺戮方…どれもがとても素晴らしい


「……そこに魅力を感じるのはちょっと変人……。……でも、モンスターホラーの醍醐味なのは分かる…」


ーーその通りさ。未知の生態、人なら受け入れられないような機能、なのに人を凌駕する生命体としての強さ、銃を持って立ち向かえる人が主人公だと思える怪物…あぁ、素晴らしい…


「……なんか、最近よく本編で聞き馴染みが出て来た感じ……ねぇ、エデルネテルの生態ってもしかして……に」


ーーうん、完全にエイ◯アン…というかゼノ◯ーフ一族からインスピレーションを受けて設定されてるんだよね


「……そう考えたら寒気が……っ…」


ーー悍ましいながらも理に適った、敵を利用し味方を増やす生態……「これだ!」と思ったのさ。だからエイ◯アンの生殖サイクルから殺傷部分を抜いて苗床をリサイクル可能にする生態を基本にしたんだ


「……エデルネテルってそこから来てるんだ……。……え、じゃあなんでこんなにエッチなモンスターに……?」


ーー蚊ってさ、産卵のために血を吸うでしょ


「………?」


ーーで、痒くなるでしょ?あれは吸血対象に気付かれないようにして沢山血を、安全に吸う為の麻酔なんだよ。言い方を変えれば、産卵の為に相手の痛みとか苦痛を和らげてる訳ね


「……それって、安全の為だよね……。……相手に気を使ってる訳じゃなくて…」


ーーそ。言い換えれば、蚊は吸血相手に痛みとか違和感を与えると不都合が出るのさ


エデルネテルのコンセプトも同じでね。敵を苗床として利用して増える…でもその過程で苗床が苦痛や負傷、ストレスで死んだら子孫繁栄に支障が出る訳だ。新しい苗床が簡単に手に入るかも分からない


だから、苗床の恐怖やストレス、負傷を極限まで無くす為の生態に進化した


じゃあ、全身麻酔して意識不明にすればいいか…それは違うね。人間は意識不明とかだと身体機能が下がってく…産卵や出産に耐えられなくなってしまうんだ。だから意識を奪い続ける事はできない…となると何を与えればいいと思う?


「……んー…相手が良いと思う感覚を与える…?」


ーーその通り。そして、繁殖…つまり性行為を好的に受け入れさせる為の感覚は何かと言えば…


「………あっ……!……気持ちいいって感じさせる……っ」


ーーそれが、エデルネテルがやけにエロゲみたいな生態に進化した理由さ


そして、生態とかが特にマッチしてると思ったのがエイ◯アンだった、って訳。ほら、兵隊役が連れ帰って巣とかで苗床にする所とかそっくりでしょ?


そして媚毒で強制的に発情、感度を引き上げて強引に交尾を行う。何度も孕ませるために傷は付けずに丁寧に、だけど荒々しく野生の魔物のように


度を超えて与えられる快感と発情は抵抗どころか逃走の余力と思考を削ぎ落とし、難なく対象を幾度も孕まる事が可能になる


この人間が持つ生体機能を利用し本来神聖な筈の子を産む美しい営みを冒涜する忌み嫌われる筈の悪魔的な生殖


そしてこれはエデルネテルだけじゃなくて、オークやゴブリン、一部の亜人魔物が人を相手に繁殖行為を行うのはこういう形の過程があるんだ


「ん……エデルネテルについて、詳しくは【Database】で、だね……。…………あれ、書いたらもしかしてやばいやつ……?」


ーー…エデルネテルの事を詳しく書こうとすると間違いなく小説が消される可能性がある


場合によってはノクターンにエデルネテルの詳細を記す、なんて対応を取らざるを得ない…!なんて…なんて住みづらい世の中なんだ…!


「ん…?……逆にノクターンなら手加減なく生々しく生態が書けるんじゃ……?」


ーーー……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

ま、参考までに考えておこう


参考までに、ね


「……詳しく生態の設定……か、考えるだけで尻尾の毛が逆立つ…っ!」


ーーま、それは然るべきタイミングで、ね


まぁつまるところ、今回私が何を言いたいかと言うと……
















別にエロスとエチエチが好きなだけでエロゲモンスターを登場させた訳じゃないんだからねっ


ということさ!


決して!


私が!


魔物とか異種族とか敵からのエロスとお色気要素が大好きだから聖女とかエルフ魔族獣人その他や女騎士やら幼馴染がちょっと危ない目に遭いそうなスリリングな展開があってもいいかなぁ?と考えたり、ダークファンタジー好きを拗らせて過去の人物がちょっとばかりエッチな目に遭ってそうなバックストーリーを加えたり、その為に敢えて難しい設定を考えて理論武装のように遠回しな理由付けをしながらエロスの化身エデルネテル君を本作に導入したとか、そんな事はないんだからねっ!


勘違いしないでよねっ!






「……これがっ……人類悪………っ!……早く消さないとっ………私達がエデルネテルの餌食にされる………っ!?」

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