3rd Story
<<剣豪ムサシ視点>>
暗闇、何も無い漆黒の場所に俺はいた。
物心ついてから武の修業に明け暮れてきた。
最初は生きるためだった。
野山を駆けまわり小動物や山菜を採って糧を得る。
自分で作った罠を張り、冬は巣穴を掘って獲物を獲る。
山中で見つけた古びた山小屋で剣や槍を見つけたのはひとつの転機であっただろう。
誰もいない山中、ひたすら刃こぼれの剣を振り回し、古い槍で突いた。
ただただ獲物を得るための手段として。
世は戦乱、儂のような孤児はどこにでもおった。
その中でただひたすら食べることだけを目的として剣と槍を修練したのだ。
手本も何も無かった。
剣を振り回し、槍で小動物を追い回す毎日。臆病な小動物があの頃の儂に仕留められるわけが無かった。
気配を察した奴らは儂が構えると即座に逃げ出していく。
気配を消すすべを磨いた。殺気を消し音を消す。
やがて小動物を突けるようになった時、遠くに大きな鹿の姿を見た。
初めて見る強者の姿。初めて感じた恐怖心。
それからは鹿を倒すための槍を修練した。素早く突き出しそして引く。
木を砕くために同じところを何度も狙う修練もやった。
どのくらい時が経ったのか。住みかとしている洞窟と狩場を巡る日々を過ごした。
ある日突然、その単調な日々が終わりを迎える。
この山に、戦に敗れて落ちてきた武将とそれを追いかける者達がやってきたのだ。
手負いの武将は儂を見るなり襲い掛かってきた。
初めて敵対する人間。必死になって剣をふるう。
追っ手の武将が現れた時には死に絶えた武将だったモノと返り血にまみれた儂の姿があったそうだ。
儂はその武将に連れられて彼らの陣に行った。
それ以降、儂は糧を得るために獣を狩るのではなく、糧を得るために人間を斃すことが生業になった。
そして数十年、生を終えた後、涅槃に向かったはずの儂ではあったが、怪しげな光を放つ女子がいる世界にいた。
何かを言っているようではあったがよく聞き取れなかった。
ただ儂に次の生が用意されていることだけは何となく理解できたような気がする。
何も無い漆黒の世界。
数多斃してきたあ奴らの怨念が俺をこの場所に留めて居るのだろうか。
それならそれで構わない。
この漆黒も俺の修業のひとつだと思えば何ということは無い。
もうどのくらいここにいるのだろうか。漆黒の中では時間の感覚も無くなるのだろうか。
突然何者かの気配を感じた俺は精神を研ぎ澄まし、極限まで集中力を高める。
「見える!!」
漆黒の闇の中、目を閉じて集中する俺の目に何かが見えるはずもない。
だが、闇に浮かぶ微かな2つの光。確実に俺を狙っているその光、いや眼光が見えたのだ。
ひとつ、ふたつ、いや5つか。俺を取り囲む気配。野生の凶暴性をむき出しにするその気配を逃さぬようにじっと時を待つ。
次の瞬間、俺は小太刀を抜き、ひとつ目の敵を切り裂いた。
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