世界の果て

まーくん

1st Story

<<ジネン子爵家3男ダイス視点>>


法衣子爵の3男として俺は生を受けた。


子爵と言えば聞こえはよいが、領地を持たない法衣子爵のそれも3男ともなれば、市井の若者達と大して変わらん身分である。


代々我が家が拝命する司法長官職は一番上の兄貴が継ぐだろうし、もし兄貴に何かあったとしてももうひとりいるのだ。


俺は成人になれば家を出てひとり立ちしなきゃならない。


法衣とはいえ、子爵家は子爵家。それなりの教育も受けてきたし、仕事の斡旋も受けられるだろう。


ひとり立ちの際にはある程度の援助も期待できると思う。


親父の弟、つまり俺の叔父さんは王都で金貸しをしているし、他の親戚も商売をしている人が多い。


中には商売に失敗して親父に無心して来る人達もいることにはいるが、ほとんどが手堅く生計を成り立たせているようだ。


代々司法長官の家系というのも関係しているのだろう。


さて、俺の紹介を少ししておこうか。


ジネン子爵家の3男に生まれて15年。


長男のジョー、長女のレイ、次男のストー、そして3男の俺ダイス。


長男のジョーは親父と同じ王城の司法室で次期司法長官としての勉強中。


頭も要領も良いジョーは間違いなく司法長官を拝命できると思う。


ストーはどちらかというと肉体派。剣の腕前もカレッジ時代には2年連続で競技大会優勝と輝かしい実績を持つ。


もちろん卒業後は騎士団長からのラブコールを受けて騎士団へ。


入団3年目にして既にチームリーダーとして活躍している。


レイは王城で開かれた舞踏会で見染められた公爵家の嫡男と結婚し、次期公爵夫人として悠々自適の生活が約束されている。


俺はといえば、学力については名門王立カレッジの2年生の中で中程度、剣の才能は無し、魔法については収納(小)、回復(小)、生活魔法と貴族として最低限の能力はあるが、攻撃力に関しては生活魔法に含まれる火魔法(微)と水魔法(微)程度。


防御に関しては、収納(小)を使うことで魔法を吸収して防ぐ防御力が高い程度か。


つまり、ほとんど攻撃力は無く、防御力については中級程度までの火魔法や水魔法は防げる程度だろう。


この程度では冒険者で大成することも難しいから、やはり一族の皆同様商売で堅実に一生を終えるのが関の山ということだな。




そんな俺だが卒業まであと1年を残してそろそろ進路を考えなきゃならない。


別に後数年は脛齧りをしたってかまわないんだけど、なんか皆んなから出遅れた気もするし、そのままずるずると働かないなんてこともあり得るからな。


ということで現在は職探し中だ。


まず第1候補は叔父さんのところで雇ってもらうことかな。


いきなり支度金で商売を始めても社会人1年生の貴族のボンボンに何ができるかってえの。


悪いヤツに騙されて有り金巻き上げられるのが落ちだろうし、ここはひとつ無難なところで叔父さんを頼るのが一番だと思う。


第2候補としては騎士団に入ることだろう。


騎士団だからといって戦闘能力だけが評価されるわけでもない。


騎士団にだって経理もあれば庶務職や公安部門だってあるんだ。


戦闘力皆無の俺だって、仕事はあるだろうし、貴族特権で騎士団への入団試験もかなり有利だし。


騎士団に入るメリットはもっとある。


騎士団を退団した後は就職先が引手数多なのだ。


騎士団に入団しただけで身元は確かだし、厳しい規律の中で揉まれてくるから社会人としても申し分ない。


その上文武においても一定以上の内部指導があるから、どんな職場でも使い易いし騎士団からのアフターフォローもあるから余計に安心できるからね。


実際にカレッジの卒業生に一番多い就職先は騎士団なのだ。


第3候補は親父の伝手で王城のどこかの部署に入ること。


これは後々の面倒もあるからあまり選びたくない。まあ最終最後の選択枝かな。


最後に俺が選択することはまずありえないけど、冒険者という選択もあるっちゃある。


剣や魔法の適性が高く、一攫千金を目指すならこの職業かな。


特に準男爵、男爵位の法衣貴族の2男以降はこれが多い。


準男爵、男爵位くらいだと爵位を持っていたところで、王城では下っ端の役職にいることが多く、嫡男は相続できるがそれ以外はろくな伝手も無く王城に入るのは難しい。


騎士団に入るという手もあるが、競争力が高いため全員が入れるとは限らない。


やっぱり同じ能力ならば、より高位な貴族子弟を優先するからな。


市井で働くにしても伝手が多いわけでもないからあまり優位性は無いし、庶民の商人達には敬遠されがちだしね。


となると冒険者の選択しか残ってこない。


もっとも準男爵、男爵位はご先祖様が自らの力で勝ち取って叙爵することが多いから、「自分も名を上げて!」と家庭内で教育されているのかもね。


まあ、どちらにしても俺が冒険者になることは絶対にありえないと思っていた。あの出来事があるまでは。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る