第50話無視するだけありがたい
因みにウィリアムはというと、わたくしにいつでも辞めたいときに辞めれば良いと言われたからか、あの日からより一層騎士として仕えるようになった。
真面目というか負けず嫌いというか、ウィリアムの良い部分でもあるとは思うのだがそれがマイナスに振り切れている現状が続いている。
しかしこれも若さゆえの一時的なものであるとわたくしは理解している為下手に刺激せずに見守っていく方針に切り替えている。
そんな穏やかな日々であったのだが悪役令嬢のわたくしにそんな日々が長く続く訳もなく、今目の前には宮廷魔術師筆頭を代々継いでいるダルトワ侯爵家の長男、グリム・フェルディナン・ダルトワが海外視察から今日戻って来たようである。
凄まじい殺気を先ほどからわたくしへと飛ばしているのできっと、わたくしがカイザル殿下を嵌めて地方へと追いやり、ゴールド家の権力でウィリアムを無理やり騎士にさせ、スフィア様へ今なお嫌がらせをしていると、そう思っているのが手に取るように分かる。
「面倒臭い事になりそうですわ」
学園に馬車がついてそうそう、もう既に家へ帰りたい。
「どうする? 今日は一旦帰るか?」
「バカ言わないで頂戴。わたくしの状態が如何に出席日数がぎりぎりの状態であるか分かっているでしょう。 進級するためにも休むなどあり得ませんわ」
本来であれば放課後は休日に追加授業を受ければ問題なのだが、わたくしのこの身体ではそれも厳しい。
そしてウィリアムは目線で「じゃあどうする?」と問うてくるので「無視ですわ」と返す。
前世も今世もこういう奴は無視が一番である。
いちいち相手のする事に反応するからいけないのだ。
それにはウィリアムも肯定のようである。
「マリー・ゴールド、貴様に言いたいことがある」
「……………………」
なので当然声をかけられても無視一択である。
そもそも侯爵家風情が公爵家に対して先に声をかける事が無礼であるにも関わらずあの物言い、あそこまで無礼な者の相手をする必要もないであろう。
むしろ無視するだけありがたいとわたくしは思う。
普通であれば最悪首が物理的に飛んでいてもおかしくない程には失礼な行為であるという自覚は彼にはあるのだろうか?
「昔の自分を見ているようで恥ずかしい……」
あら、羞恥心で顔を歪めるウィリアムも珍しいわ。
きっと自分の黒歴史を見せられているような感覚かもしれない。
確かにそれはきついな、とわたくしは自分自身に置き換えて想像し、そう思う。
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