第94話作ってみる

「そりゃ、タリム領が今のように活気が出てくる前では一応王国では四番目に活気がある観光名所だったからな。 確かにタリム領と見比べると見劣りしてしまうかもしれないがそれでもまだ観光名所としては人気なだけはあるな」

「そして、それが今のタリム領にない物でもあると」


 わたくし達のタリム領は、今現在でこそ観光地としてはおそらく王国一であるという自負はあるものの、それはあくまでも一過性のものに過ぎないという事も理解している。


 そして、流行というものには流行り廃りがあり、いつかは廃れるということも、前世で嫌というほど理解している。


 この世界は前世と違って情報の伝達が緩やかであり、タリム領が数年かけてやっと観光地として認知され始めたのと同じ様に、廃れて行くのも緩やかだろう。


 しかし、だからといってその間に何もしなければそこで終わりである。


 今盛り上がってるタリム領の現状を利用することもなくブームが廃れて行くのをただ黙って見ているというのはありえない。


 もちろん、昔のタリム領と違ってかなり改善したり新たな食文化が生まれてきてはいるので、ブームが落ち着いた頃には前よりかは活気のある領地になる事は間違い無いだろう。


 しかしながらそれではタリム領の独立という最終段階には程遠い。


 最低でも今の現状を維持して第二の都市と呼ばれる位にはしなければならないのである。


 そして、わたくし達タリム領に足りないものは『観光するに値する歴史的なもの』である。


 確かに戦争時に王国の砦と呼ばれいたタリム領には、国境線を守るための建造物等が多々あり、今現在それらは厳重に管理し補完するようにしている。


 しかしながら戦争があったのは親世代であり、それら喧騒物はまだわたくし達にとっては『過去の物』ではなく『今の物』なのだ。


 そんなモノをわざわざ観光しに来る者など今は一人もいないというのが現状である。


 おそらく、それらが歴史的なタリム領の宝となるのは、早くてわたくし達の孫、またはひ孫世代だろう。


 そして、それ以外にタリム領は何も無いのである。


 せめて偉人の生まれ故郷とかであれば、と思わずにはいられない。


「いっそ、作ってみるのはどうだ?」

「へ?……」

「いや、無いなら作ればいいと、ふと思ってな。 今回カルメリアを訪れたのもその参考になればと思って選んだのも事実だ」

「いやでも……歴史的に価値があるものなど、ブレットも知っての通りタリム領には何も無いですわよ?……ま、まさか、作るってそういう……?」


 

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