第69話ブレットよりもわたくしの方が

 そして、この目の前に広がる景色もそうですけれどもブレットの気持ちが伝わってきてわたくしは思わず目頭が熱くな理、気がつくと泣いていた。


「シャルロット、遅くなってすまない」


 ブレットはそんな、感動で涙を流すわたくしの前まで来ると跪き、わたくしを見上げながら何かが遅くなった事を謝罪する。


 それが一体何であるのか見当もつかないわたくしは、どういう意味か問いかける。


「お、遅くなったって、何がですの?」


 わたくしがそう言うとブレットは懐から黒くて四角い掌に収まるサイズの箱を取り出すと、わたくしへ差し出すように向けてくる。


「本当は、君の父上から婚約を承諾する前にシャルロットへ言わなければならないと思っていたのだが、俺が臆病だった為なかなか言う勇気が持てず今まで逃げてきた。 けれどもそんな事などとるに足らないと思えるほどにこの一年間でシャルロットの事が好きになった」


 そうブレットは言いながら黒い箱を開ける。


 そこには銀色に光る指輪が入っていた。


「シャルロットには内緒で、向こうの住人に聞いたんだ。 向こうの世界ではこういう時はどうするのかって。 こちらでは短剣を交換する風習があるのだがそれは婚姻時にとっておくとしても二回も同じ事をするのは味気ないと思ったからさ。 そしたら向こうでは左手薬指に指輪をすると聞いたんだ」


 そしてブレットは一つ深呼吸をした後、わたくしへその美しい瞳を向けながら言う。


「……好きだ、シャルロット。 俺と結婚してください」


 その瞬間、わたくしはあの時何を忘れたのか思い出した。


 とるに足らないどうでもいい事だから忘れたんだと思っていたそれは、とるに足らないどうでもいい事ではなく、ただ単に『実は私の事は好きでも何でもないのではないか』という恐怖から二の足を踏み、その恐怖から今日の今日まで考えないように無意識のうちに思考の外に追いやっていただけである事を思い出した。


 そしてブレットはその恐怖を乗り越えて今、わたくしに向かって『好きだ』と言ってくれたのである。


 聞きたくて仕方なかった嬉しい言葉を、こんなにも素敵な場所で聴けるなど、これ程嬉しくて幸せな日が来ようとは思いもよらなかった。


 結局、わたくしの独りよがりな恋で、独りよがりな婚約からの結婚だと思っていたので尚更である。


 そして、当然わたくしの、ブレットへ返す言葉は、カイザル殿下の主催したパーティーよりも前から既に決まっている。


「わたくしも……っ。 わたくしもブレットの事が、いいえ、ブレットよりもわたくしの方が大好きですし、愛しておりますわっ!!」

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