第67話ちょろいん
いつもと変わらない馬車移動。
その筈なのにわたくしの心臓はいつもよりも激しく鼓動し、若干息も荒くなってしまっている。
「ふふっ」
「どうした?」
「いえ何も。 ただ、これからわたくしはブレットとデートをするのだと思うと嬉しくて……思わず微笑んでしまっただけですわ」
「全く、シャルロットは。 可愛すぎるだろう」
「ん? 先程何か言いましたか?」
「いや、何も」
「嘘ですわっ! 絶対何か言いましたのをわたくしは聞き逃しませんせしたわっ!!」
「全く、聞き逃したのなか聞き逃してないのかはっきりしろよな。 『今日は晴れてよかったな』って言ったんだよ」
「なんだ、そんな事ですか。 ならば別に素直に言ってくれても良いでしょうに」
「こんな事だから別に言わなくても良いと思ったんだよ」
いつものブレットと馬車で移動するという日常が、これからブレットとデートへ向かうというエッセンスを加えただけで、全く感じ方が変わってくるので不思議である。
ブレットとの会話も、いつも通りにしようとしているのだが、いつもより若干ぎこちない感じになってしまう。
そんなわたくしに引き換え、いつも通りに会話をこなすブレットがなんだか憎いと思うのは致し方ない事であろう。
そして、一度休憩を挟みながら馬車に揺られること二時間程。
どうやらブレットが従者に指示した目的地へ着いたみたいである。
目的地付近に近づいてきたあたりで馬車のカーテンはブレットによって絞められており、わたくしは今どこに来ているのか全く分からない状態だ。
全く、ブレットのくせに憎い演出をして来ますわね。
はっきり言って今日はずっとブレットにトキメキっぱなしである。
『そうはならんやろう』と思っていた、ちょろいんと呼ばれるアニメや漫画のヒロインたちの気持ちが少なからず分かった気がした。
もう、今のわたくしはブレットが何かする度にトキめいてしまう自信がある。
それくらいには今日のわたくしはちょろいんだ。
「さぁお姫様。 目的の場所に着きましたのでエスコートさせてください」
そして、そんな状態のわたくしであるとは知ってか知らずか、ブレットいつもしないようなキザなセリフで砂糖を吐きながらわたくしへ手を差し伸べてくるではないか。
これが普段の日常であるのならば単なる『ボケ』とみなしてツッコミがてら笑い飛ばしてやるのだがいかせん今はデート中であり、その効果は絶大で、わたくしはその見え見えな甘い言葉にすら簡単にトキめいてしまう。
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