第12話タリム領の噂

「成る程、そしてモーデル家の領地とクヴィスト家の領地周辺で商売をしている商人は、周辺という枠組みからモーデル家とクヴィスト家の領地のみで商売をし始める、と。 すると商人が来なくなった地域は商人が戻って来るように引換券での取引をし始める。 そもそも移動の際金貨と銀貨の重量は商人にとって地味に痛かった悩みの種である。 そして人間というものは一度楽な方法を覚えてしまうと前の環境に戻る事はなかなかに難しい生き物であるからな。 そして王国中の金貨と銀貨は自然とタリム領に集まり、そして引換券も未知なる技術を使用してタリム領でしか作ることのできないとなれば、王国はタリム領、ひいてはクヴィスト家に楯突くことが出来なくなる。 もし楯突いて引換券での換金を無効にでもされてしまえば目も当てられないからね」

「さ、流石お父様ですわ。 他にも銀行の有用性は御座いますが今回の作戦での銀行の役割をほぼほぼ言い当てておりますわね」

「これでも一応公爵家を経営して来たわけだからね」


 あぁ、お父様が物凄く嬉しそうにふんぞり返っておりますわっ! まるで『これでなんとか父親としての威厳を守る事ができた』という安堵の表情を浮かべおりますわっ!!


「こら、シャルロット。 思っていることが全て口に出ておりますわよ。 ほら、みるみるお父さんがしょげて来ているじゃない」

「お、お父様は凄いですわーっ! 流石お父様ですわーっ!」

「水戸黄門」

「はい?」

「水戸黄門のでーぶいでーボックスを買ってくれたらお父さん、機嫌が治る気がするな」


 そしてわたくしは無闇に前世の娯楽を購入するのはやめようと心に誓うのであった。





 ここ最近どこ行ってもタリム領の噂が耳に入ってくるようになった。


 そして今、私は子供達二人、娘と息子を連れてタリム領行きの馬車に乗っていた。


 私達の家族の家族は去年まで何不自由無く過ごしていたのだが、夫が流行病で死んでからは明日のご飯を食べる事にも困るような生活まで一気に堕ちてしまった。


 多少の蓄えこそあったため今まで何とか切り詰めながらもやって来れたのだが、その蓄えも遂に底をつき、いよいよ八方塞がりという状況に陥った時にタリム領の噂が少しずつ聞こえ初め、そして今現在ではその噂を信じてタリム領へとなけなしのお金を叩いて向かっている。


 はっきり言って嘘かどうかも分からないような眉唾ものの噂、しかも聞こえてくる内容は全て夢の様な内容ばかりであり、はっきり言って騙されているのではないかとさえ思ってしまうのだが、それでも今の私達にはその噂に縋るしか他にないのである。

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