第3話お母様の笑顔

 ええ、分かりましたとも。


 カイザル殿下がわたくしの想像していた以上にバカである事に。


 そして、そんな虫レベルに知能が低く相手の気持ち(この場合はわたくしの気持ち)を慮る事もできず、また今の自分の行いが、先ほど悪者に仕立て上げたヘンドリク様が行った行為と何ら変わらないという事すら分からず、自分にだけ正義があると勘違いした挙句、その正義を振りかざす愚者であるという事がよーーーーく分かりましてよ。


 むしろ婚姻する前に分かって本当に良かったとも言える。


 もし婚姻していたのならばわたくしはこのバカが死ぬまで、このバカのケツを拭き続けなければならず、そしてそんなわたくしの事を目の上のたん瘤で可愛くない女と認識し愛人を作りまくる未来まで一瞬にして容易く想像する事ができる程の地雷男である。


 そう考えるとこのバカとの婚約破棄はデメリットよりもメリットの方が余りにも大きく思えてくるのだが、それはそれ、これはこれである。


 カイザル殿下のケツはカイザル殿下自らが拭いてこそだとわたくし思うんですのよ。


 と、いう訳でわたくしは今日この日から、今までは世界の均衡などを気にしてあまり使わなかった前世の知識をこれでもかと生かしてチート領地改革からの圧倒的経済力と軍事力からの独立国家設立を目指し、逃がした魚がいかに大きな魚であったのか思い知らせてあげましょう。


 わたくしの固有スキル【ググレカス】先生、出番です、懲らしめてやりなさい。





「シャルロットッ!! カイザル殿下から誕生日パーティーで、しかも皆がいる前で婚約破棄をされたというのは本当かっ!?」


 悪夢のような婚約破棄から一週間、馬車に揺られながらわたくしはようやっと我が領地、そしてその領地である我が家へと帰って来たのだが、家へ入るや否やお父様が顔を真っ赤に染め上げながらわたくしに、カイザル殿下に婚約破棄をされたのは本当かと、わたくしの肩をガッシリと掴みガクガクと激しく揺らしながら問い詰めて来る。


「ちょっ、まっ、お父さっ、や、やめっ!」

「お父さん、そんなに激しく揺らしたら喋れないわよ」

「おお、さすが私の妻であるなっ!! 済まないシャルロットッ!」

「あ、ありがとうございます、お母さま」


 そんなお父様にお母さまが激しく揺らし過ぎであると指摘して、ようやっと解放される。


 そしてわたくしはお母さまへお礼を言う為に視線を向けるのだが、お母様の表情こそ笑顔なのだが、何抜き身の刀を前にしているような、そんな恐怖がお母様の笑顔からひしひしと伝わって来る。

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