第243話 悲しい性

 後は黒の仮面の君が私を助けにくるのを待つだけである。


 そう思うと今から胸がときめいてしまい、鼓動は高鳴り、興奮してしまう。


 正直なところもはや誘拐犯には悪いのだが、まったく恐怖など感じる事もない上に『私たちの愛を助けてくれる架け橋』にしか思えない。


「それにしてもこいつ、やけに静かですね。 普通人攫いにあったものは泣き喚くか恐怖で震えるかのどちらかの反応をするのだが、まるでデートの待ち合わせで彼氏を待つ女性のような顔をしやがる……」


 そして、誘拐犯の一人が無駄にピンポイントな推理力を見せつけてくる為思わず今の状況は私にとってどういう状況であるのか説明してやりたくなるのだが、黒の仮面の君が助けに来てくれると知れたらそれこそ私の貞操どころか命まで危なくなってしまうので、そこはグッと堪える。


 はぁ、誰かに何でも良いので黒の仮面の君について話したいのに、話せる相手がいないというのはそれはそれで辛いものがありますね……。


 そもそもクラスの友達にも今まで何度も話して来たのに、当初こそ皆様興味津々といった感じで聞いてくれたにも関わらず、ここ最近では『また言ってら』という態度を隠そうともせず露骨に話題を変更される始末である。


 はっきり言って黒の仮面の君について語れて無さ過ぎて禁断症状が出てくる始末で、今では餌付けしている野良猫を捕まえては野良猫に向かって語っているほどに黒の仮面の君の事を誰かに伝えたいというのに飢えて来ている。


 それでも、今日は黒の仮面の君の事について話す事よりも今から会えるということの方が私にとっては大きく、黒の仮面の君について話したいという欲求も耐えられるのである。


 あぁ、早く私に会いに来てください……私はもう、一分一秒たりとも待ちたくありません。


 そして私は今か今かと黒の仮面の君を誘拐犯の馬車の中で待ち焦がれるのであった





「カイザルッ!! おいっ!! カイザルッ!! おい、カイザルッ!!」

「何だよっ? そんな大きな声で呼ばなくても聞こえてるわっ」


 放課後、一日の授業が終わりブリジットとカレンドールの相手(頭を撫でる)をしながら変える準備をして帰路に着く。


 そして馬車へ行こうとしたら何だか聞き覚えのない可愛らしい声が俺を呼ぶではないか。


 正直あれほど声が出ていれば誰でも聞こえてるわっ! 振り向くと、そこには御胸様をば『ばるんばるん』と揺らしながら俺の方へかけてくるクロード姫が俺の元へ駆けてくるではないか。


 本来であれば女性の巨乳が揺れる様は眼福であるのだが、もとがあのクロード殿下と思うだけで俺の中のあのお胸様に対する興味が一気に薄れていく。

 

 それでも、目で追ってしまう男性の悲しい性。

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