第123話 理論上での話

 詠唱と違い魔杖を使った魔術の行使は、詠唱を聞かれて行使する魔術がバレるリスクが少ないという点から、実戦では魔杖を使うのが一般的である。


 勿論聴かれないように声はできるだけ音量を落として詠唱するのだが、聴力向上系の魔術やスキルで詠唱を拾われてはそれも意味がない。


 それに比べて魔術陣であれば見ただけでは魔術の属性系統ぐらいしか分からず、対処されるのをワンテンポ遅らせる事ができると言うのが、理論上では可能である。


 その代わり、詠唱と違い魔術陣を描く事に慣れていないと使い物にならないのだが、この魔術杖には予めルイス家が得意とする氷系統の魔術陣が刻印されており、あとは行使すると言う意味を持つ魔術陣を描くだけで良いように作られている、戦場で生き残る事に特化したルイス家特有の技術であったりする。


 理論上での話を現実に再現したこの杖の価値はそれこそ国宝級の価値があり、それを扱えるのが我が一族だけであるからこその貴族爵位である。


 ちなみにルイス家を継ぐものには魔術陣が施された魔杖ではなく、魔術陣が刻印された剣を受け継ぎ、魔術剣士として国に仕える。


「ど、どうして……」


 そして、その魔術陣が刻印された剣を目の前の闇ギルドマスターが持っており、その剣で私が放った初級魔術【氷弾丸《アイス・バレット》】を全て切り落としていた。


「お嬢ちゃん、人の話はちゃんと聞くもんだぜ? なんで俺がこの剣を持っているんだって顔をしているようだな? この剣はな、お前の大好きなお兄ちゃんに貰ったんだよ」

「う、嘘ですっ! 私のお兄様がそんな大事な剣をあなた如きに、いえ、我が一族以外のものへ渡すわけがありませんっ!」

「残念ながらこれが本当なんだよなぁ。 あいつ『もうお金も腐るほど稼いだからお金以外に何か旨みがないと薬は渡せないな』と言ったら簡単にこの剣を差し出してきたぞ? そこまで判断能力が鈍ってしまったのならばもうここを拠点にするのも潮時だな。 あいつが狂ってしまう前に俺たちはトンズラするよ。 てか最近の貴族連中はホーエンハイム家と言い、ルイス家と言い、安心して闇ギルドを置ける環境すら作れないゴミばかりだな」

「わ、私がそれを聞いてあなたを逃すとでも思いますか?」

「あ? 死線も碌に潜った事もないガキが。 舐めてっと潰すぞ」

「ぐぅぇっ!?」


 そして目の前で闇ギルドのマスターがこの部屋の窓を開けて逃げようとした為私がその窓を氷で固定して逃げないようにするのだが、次の瞬間には私は闇ギルドのマスターに蹴り飛ばされていた。

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