第30話大型犬の様な表情

「申し訳ございません、クロード殿下。 しかし、人の話は最後まで聞いてください」

「……す、すまない」

「先ほどの答えなのですが、お誘いは嬉しいのですがお断りさせていただきます」


 そう言うとブリジットは頭を下げる。


 まさか断られるとも思っておらず、そして俺の誘いを断られたこと自体初めての経験であった為この後どうすれば良いのか分からず固まってしまう。


「ク、クロード殿下っ、ブリジットさんを一端お許しになさってあげてください……っ」

「あ、あぁ……。分かった、許そう」


 そんな俺にスフィアが声をかけてくれて、今なお頭を下げ続けているブリジットへ許す旨を告げる。


「ありがとうございます。それでは私はこれで」


 そしてブリジットは俺の許しを得た瞬間頭を上げ、この場から去っていくではないか。


 以前の彼女であればこんな態度は決して取らなかったはずである。


 これでも婚約者候補の一人である為俺とブリジットとの関係は幼少期から続いており、こうして実際に相対して感じるブリジットの変化を、関係が長いが故にその分如実に感じ取ってしまう。


 そもそもこの俺の誘いを断ってまでブリジットは何処に向かっているというのか。


 もしかしたらブリジットは我ではない他の男性に会いに行っているのではないか?


 そう思ったら居ても立っても居られず、我はブリジットを尾行するのであった。





「お待たせ致しました、我が主」

「いや、待ってないし呼んだ覚えもないのだが?」


 お昼休み、校舎裏の雑木林で昼食を取ろうとしたその時、どこからともなくブリジットが現れてくる。


 今現在ある意味で有名人である俺は校舎裏の雑木林や、学園端の死角等で人目を避け昼食を取っているのだが、呼んでもいないのに必ずと言っていいほど毎回ブリジットがやって来る。


 場所を変えても変えた場所を予め知っているかの如く毎回現れる為今ではブリジットを撒くことを諦めて、場所を変える事もせずここ最近では校舎裏の雑木林一択である。


「まぁまぁそう仰らずに。 追っ手を撒くのに少し手こずりましたが、カイザル様の剣であり犬であり奴隷でもある私からすれば何人に尾行されようとも必ずや追跡を掻い潜りカイザル様の元へとはせ参じますっ!!」


 なんだろう……ここ最近なんだか自己主張が強くなってきているような、より一層駄目な方の性癖が強くなって行っているような、そんな気がするのは気のせいであろうか?


 そして俺は『撫でて撫でてっ』とブリジットが頭を差し出してくるので頭を撫でながら、飼い主に撫でられている大型犬の様な表情をしているブリジットへ話しかける。

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