第26話どうしてこうなった?
このままスフィアとの婚姻話が進み、クヴィスト家が没落するころには、スフィアから得た情報でクヴィスト家の身の部分は全てモーデル家がしゃぶり尽くした後であろう。
更に四公爵は三公爵となり、クヴィスト家の力を吸い取ったモーデル家が支配する力関係へ。
それだけではなくモーデル家が纏めている帝国軍は恐らく既に掌握し終わっているであろう為圧倒的権力と武力その両方から攻め国家転覆を計り国盗りを行う。
それがモーデル家が考えていた近い未来の予想図。
それを俺が『婚約破棄』という一手で長年積み上げて来てやっと手の届きそうな所まできたモーデル家の策略を、更に十年以上先延ばしにしただけでなく、証拠を消すため口封じにスフィアを殺しに来る事を見越して行動を起こし『スフィアを助けた』事によりモーデル家の首筋に剣を当て、身動きができない状態へと追いやった。
それだけではなく、この件を表に出さないことにより四公爵の力関係はそのまま。
そう目の前で、キラキラした目で語るブリジットは、まるで主人を見つけた大型犬にしか見えない。
彼女に対するイメージが音を立ててぶっ壊れていくのが分かる。
「それだけではありませんっ!! カイザル様は私に対して、真実を述べた所でだれも信用しないとおしゃっておりましたが、カイザル様はそれすらも覆せるほどの証拠の数々をお持ちなのでしょうし、それがあるからこそモーデル家の野心に気づいただけでなくスフィア暗殺にも気づけ、それが分かるからこそモーデル家は動くことができない。 まさに完璧の一手、少ない動きで止めを刺すその美しさたるや、そしてその為ならば愚か者を演じて他者から蔑まれてもいいというそのお覚悟たるやっ!! 私は感動で胸が締め付けられておりますっ!!」
そう涙ながらに語るブリジットには悪いのだが、全てにおいてブリジットの考察は間違っていると言わざるを得ない。
俺が今まで屑であった事は間違いないし、スフィアを助けたのも単に罪悪感に押しつぶされそうだったからに過ぎない。
しかしながら人間という生き物は自分の考えを調べる時に真実かどうかではなく、自分の考えが正しい事を証明するために調べる生き物である。
きっとブリジットもこうに違いないと最初に答えを置き、その答えが正しくなるように証拠をかき集め、そして辻褄が合うように『きっとそうに違いない』と組み立てて来ただけなのが今現在の彼女の態度から窺える。
「あー、ブリジットの考えは全て勘違いだ」
「あぁ、その慎ましさたるやっ!! より一層、更に強くカイザル様と共にこの身が亡びるまでお仕えしたいという感情が際限なく溢れ出てきますっ!!」
間違った教えを説く宗教の熱心な信仰心を持つ宗教信者に対してそれは違うと説く事が難しいのと同じように、彼女の考えが間違っているのだと教える事は難しいと、目の前のブリジットを見て『どうしてこうなった?』と頭を抱えたくなる。
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