第22話証拠

 その事を知った私は一瞬にして血の気が引き、そこからの記憶も無ければ遠征を終えて日常に戻ってからもどこか上の空であり、何も考えたくないという感情と、いつカイザルにあの日の全てを告発され我が家が潰されてしまうのか、その結果投獄刑なのか教会送りなのか、最悪極刑もあり得そうだ。


 もともと正義感の強いブリジット故に自らの実家が裏で行っているであろう事を考えると強いストレスを感じてしまい、自分自身の精神を守るためにブリジットは無意識に何かを考えようとする事をやめた。


 それでもいつ訪れるかも分からない断罪の日を過ごすというのは毎日が生き地獄であり、いっそ早く楽になりたいと思うのも無理からぬことであった。


 そんなある日、私はカイザルを人気のない学園端にある雑木林へと呼び寄せ、早く告発してほしいと告げる。


「それで俺をここに呼んだと?」

「ええ、そうよ。 あんたなんかにこんな事をお願いするのは腸が煮えくり返るくらい腹立たしいのだけれども、それ以上に生き地獄の日々を過ごすくらいならば早く断罪された方がましだもの」


 そして私は今、プライドを捨てあのカイザルに頭を下げる。


 カイザルは恐らく私の苦しむ姿を見て楽しんでいるのだろうけどそれも今日で御終いである。


 これで楽になれるのならば安いものだ。


「俺がモーデル家の悪事を知っていることを、ブリジットさんが知っていると?」

「そうよ。 本当は私がモーデル家の罪を告発すべきなのだろうけれども、幼い弟や妹までも私の手で不幸にしてしまうと思うと、どうしても足が動かなくなるの……」


 だから、私にはできないその行為をカイザルに、自分の手ではなくカイザルの手を汚させようというのだ。


 あんなに屑だと見下していたカイザルより、今では私の方が屑に成り下がっているなんて、少し前の私に説明してもきっと信じてもらえないだろう。


 とうに枯れていたと思っていた涙が私の頬を流れ落ちて来る。


 いざ告発しに行こうとすると身体が動かなくなる不甲斐なさ、悔しさ、怒り、罪悪感、悲しみ、そんな様々な負の感情が胸の中で激しく渦巻いていく。


「で、証拠は?」

「……は?」

「証拠だよ、証拠。俺がモーデル家の雇った賊を一人で、しかもワイバーンを使役する賊相手に一人で戦いスフィアを助けだしたと言って誰が信じるというのだ? それこそ誰もが覆せない程の証拠が無ければ無理であろう。それを証明するための証拠はあるのかと聞いている」

「そ、それは私が目撃者であると──」

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