第10話逃がすわけねーだろバカ

「ふーん、散々バカにしといて背後を取られただけであんな必死の形相で逃げるんだ?」

「だ、黙りなさいっ!! どんな方法で躱したのかは分かりませんが二度目はありませんよ」

「分からないのにどうやって魔術を当てるつもりだ? どうやって避けたか理解出来ていないやつの攻撃なんか当たるわけがないだろ? バカなの?」


 そして俺はメリッサを煽りまくる。


 もし相手が俺ではなく、また冷静な判断ができたのであれば最初の一撃を躱された時点で警戒し、逃げる算段を考えていた事であろう。


 しかしながら相手は普段から魔術も体術もできないボンクラであり、素行と頭の悪い俺であり、その俺からバカにされ怒り心頭であろう今現在のメリッサは逃げる事など微塵も考えておらず、どうやって俺を痛めつけようかという事しか考えていないことがその表情から読みとれる。


 もし、逃げる事を考えていたのならば百に一つは逃げれたのかもしれないのに、その間に逃げられないように結界を張る。


 もし警戒して逃げる事に意識を集中していたのならば結界を張る時の僅かな違和感に気づき、逃げる事が出来たのかもしれないのに。


 そんな事を考えている最中もメリッサは俺に向けて炎魔術をくり出し、その炎魔術の数々を今度は避けるのではなく同じ炎魔術で相殺していく。


 いや、相殺なんて生易しいものではない。


 これは飼い犬への躾である。


 俺が放つ魔術すべてがメリッサの魔術を凌駕しており、メリッサの魔術を打ち消した後も俺の魔術は消えることなくメリッサへと向かっていく。


「あ、ありえない……こんな事があるはずがない……相殺されるならまだしも同じ魔術で相手の方が上回るなどあってはならない事……」


 なんとか俺の魔術を搔い潜りながら反撃していたメリッサなのだが次第に反撃の手数が少なくなり、そして遂に反撃することをやめると、その表情はようやっと事の重大さに気づいてしまったのであろう。


 今メリッサが俺へ向ける目は、見下したそれではなく化け物を見る目をしていることからもメリッサの俺に対する心境の変化がうかがえて来る。


 それもそのはずで同じ魔術は基本的に威力は同じであり、互いに真正面からぶつかった場合相殺されるのが普通である為である。


 しかし今現在の俺はゲーム時代の装備品を身に着けており魔術攻撃の威力は底上げされている為同じ魔術であればこちらが上回るのは当然であるのだが、そんな事など知る由もないメリッサからすれば魔術の根源を揺るがしかねない程の衝撃を受けた事であろう。


 ストレージが使え、ゲーム時代のアイテムも使えるのは有難い限りである。


 希望のアイテムを選択するだけで出し入れや一瞬で装備などできるのは有難い。


 そして俺が一歩踏み出せばメリッサは二歩、俺が二歩踏み出せばメリッサは三歩下がり始めた。


「……え?」


 するとメリッサはついに下がることができなくなった。


 俺が張った結界の端にきたのである。


「俺、言ったよな? 躾だって。 逃がすわけねーだろバカが」

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