第4話目下目標は奴隷の購入
「屑が」
そして家族で馬車に乗りどこかへと走り去っていくのを見ながら俺は小さく呟く。
俺も屑だがあいつらも屑だ。
それと同時に湧き上がる悔しさが胸を締め付けてくる。
今まではこの感情を家族に吐き出したところで、武力行使では逆に倒され、叫んだところで山猿の様にあしらわれる事はわかりきっていた為、使用人へ向けて吐き出すしかなかった。
ほんと、自ら更に敵を作るなど前世の記憶が戻った今から思えば本当にバカとしか言いようがないな。
そんな事を思いながら俺は使用人を呼ぶ為にベルを鳴らすと初老の使用人、クヴィスト家執事であるセバス・チャンが音もなくやってくる。
暗殺ギルドに昔勤めていたと言われてもしっくりくるレベルだ。
まぁ、暗殺ギルドではなく暗殺を生業としていた移民なのだが今はどうでもよい事である。
彼の人生も波乱万丈だった、ただそれだけという事だ。
そしてセバスは見下すような視線を隠す素振りも見せず呼んだ理由を聞いてくる。
「何用でしょうか?」
「腹が減った。 何か摘まめるものを持ってきてくれないか」
いつもならばその表情を見て怒り心頭、暴れまわるのだがここはグッとこらえて昼食を持ってくるように告げる。
「……かしこまりました。 今しばらくお待ちくださいませ」
いつもと違う俺の反応にセバスは一瞬だけ考える素振りを見せるも直ぐに昼食を持ってくる為部屋から音もなく消える。
「さて、これからどうしたものか……」
そして俺はこれからどう行動するか試行錯誤するのであった。
◆
あれから一か月が経ったのだが、記憶が戻ってからの俺の朝は早い。
と、いうのも今現在俺は冒険者登録をギルドで済ませ足のつかない資金集めをしているからである。
とりあえず目下目標は奴隷の購入である。
最低三人は欲しいところ。
奴隷の状態は問わない。
必要なのは才能があるかどうかだけ。
死んでさえいなければ後はゲームの能力を引き継いだ俺の魔術でどうとでもなるので、それが例え欠損奴隷や死ぬ寸前の奴隷でも構わない。
人間の肉体には価値があるらしく労働に使えない分安上がりなのだが、黒魔術師や薬師達にはそれなりの需要がある為奴隷として考えれば安価に手に入り、市民が買うには少しばかり高すぎる値段となっていた。
しかしながら市民では稼ぐのが大変な金額であったとしても衣食住に困らず稼いだお金が出ていくこともない環境である今の俺ならば少し頑張れば稼げる金額でしかない。
記憶が戻ったのと同時にゲームの能力、ステータス、仕えるスキルや魔術、ストレージに各種アイテム等を引き継いでいる時点で死亡フラグなど問題ないのでは? と思ってしまうが賭けているのは俺の命である為念には念を、石橋を叩くくらいがちょうどいい。
何故ゲームに酷似した世界の悪役に、当時ゲームをプレイしていたキャラクターの能力を引き継いでいるのかは全く分からないのだが、分からない事をいくら悩んでも仕方がないのでこの件については考える事は止める。
そして俺には奴隷を買える資金があり、状態異常などを治せる能力があるのならば駒として買っておいても損は無いだろう。
ちなみにゲーム内の貨幣であるが、地球で全ての国で使える貨幣が無いように(仮想通貨は除く)ゲーム内全域どの国でも同等の価値で扱えるゲーム内の貨幣を帝国で使う事は出来ない。
帝国は帝国の、王国は王国の貨幣がそれぞれあり、同じ商品でも物価は異なるあたり、ゲームではなく現実なんだと思わされる。
最悪ゲーム内の金貨を質屋に金として売るという手もあるが、毎回換金していては面倒臭い人に絡まれてしまいそうなので極力避けたい。
そのため稼ぐ手段があれば稼ぐ、である。
「あ、あとは欠損奴隷や死病持ち等の奴隷となりますが……」
「それでかまわない。早くしろ」
「か、かしこまりました」
そして今現在、冒険者業で稼いだお金を握りしめて奴隷商へと足を運んでいた。
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