第42話 そういう優しさ
「え? 良いんですか? 公共交通機関を使うのは新谷さんにとってはかなりきつい事では?」
そして、俺が公共交通機関を使用しようというと、朝霧さんが心配そうな表情をしながら俺への大丈夫なのかと聞いてきてくれる。
そういう優しさが、元妻とは違い地味に惹かれてきているのも事実である。
元妻と比べるのは朝霧さんに失礼とは思うものの、やはり同じ女性なのかと思ってしまうのと同時に、世の中の女性全てが元妻のような人達ではないという事を教えてくれる。
頭では分かっているものの、いざ異性を目の前にするとどうしても元妻の事が頭を過ぎってしまい萎縮してしまうのだが、朝霧さんと生活することにより、それが少しずつではあるものの緩和して行っているように思うし、実際に実感できているのだから効果はあるのだろう。
ちなみい元妻は、先程のような場合は間違いなく『ならどこか温泉街にでも行こうよっ!! どうせならこれで一気に治しちゃえっ!!』とか言ってくる姿が目に浮かぶ。
今まではこれも元妻なり優しさなのだろうと思っていたのだが、付き合っていた時も、結婚してからもずっとこれである。
今思えば俺の事など何一つとして考えていない事が分かるのだが、当時の俺は元妻に浮気されるまでその事にすら気付く事すらできなかったのだから情けない。
そりゃ陰で『情けない旦那』『つまらない旦那』『煽てやれば簡単に騙せるし、自分の思い通り動かせる』『あれは単なるATM』等と言われる訳である。
そこまで考えて、今は元妻の事を思い出すのではなく、目の前の朝霧さんとこれからの外出を楽しむ事を考えなければと思考を切り替える。
それに、あの元妻の事をわざわざ思い出して嫌な思いをする必要もないだろう。
「ええ、確かにまだ辛い事は辛いんですけど、なんだか朝霧さんと一緒ならば大丈夫のような気がしまして。 それならば良い機会だと思いまして公共交通機関を使っても良いのかと」
「あー、なるほどです。 確かに一人より二人の方が良いかもしれませんね。 でも無理をしてはいけませんよ?」
「分かりました。 無理そうならリタイアを視野に入れさせていただきます。 それで、どこに行きましょうか?」
「そうですねぇ……野春運動公園なんてどうでしょうか? 電車とバスを乗り継いで三十分ほどで着きますし、公園ならば街中と違い人も密集していないでしょうし」
「そうですね。 まずは近場から攻めましょうか」
こうして行く場所が決まり出発の準備を始める。
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