第37話 最低な女だ
◆
あの日から新谷さんは少しずつ行動範囲を広げている練習をしているらしく、今では少し離れた公園今で歩いて行けるようになったみたいである。
今はまだ電車などは怖くて乗れないし、コンビニなどのレジも女性であると尻込みしてしまうらしいのだが、それでも新谷さんの行動範囲が広がっているのは事実である。
ここ最近では公園で小説を書いているとも言っていた。
それは良い事なのだが、新谷さんの精神が良くなって行くにつれて私はそんなに急いで治さなくても良いのにと思ってしまう。
最低な女だ。
「まーた暗い顔して。 何、好きな人に彼女ができたとか?」
「ここんとこずっと暗い表情をする時が増えたよね? お母さんらしくないよ? 好きな人に彼女がいたのは残念だけど、お母さんには次があるよ次がっ!」
「そんなんじゃないから。 それに好きな異性でもないし」
「でも、気になっているんでしょう?」
「新しい男を見つけて忘れなさいな、そんな男」
「それは……って、だから違うってっ!!」
そして、ここ最近そのことが気になってしまい、知らず知らずに自己嫌悪に陥ってしまっていたようで千秋と美奈子が心配そうに声をかけてくれる。
この二人にはここ最近心配をかけてばかりなので申し訳ないと思うし、その優しさが有難いとも思うのだが、だけれども毎回毎回私の好きな男性について悩んでいるという程で話してくるのは良い加減やめてほしい。
確かに間違ってはいないんだが、異性として好きだとか、そういうのではないと思う。
いち人間として新谷さんの事が心配なだけだ。
「それでどう? パーと気晴らしにカラオケでも行かない?」
「お?行っちゃいますかっ!?」
「それ、私を口実に使って本当はカラオケ行きたいだけなんじゃ……?」
「そうともいうわねっ!」
「細かいことはいいじゃん。 行こ? カラオケ」
「でも私音痴だし、流行りの曲あんまり詳しくないしなぁ」
「いやいや、お母さんと一緒に行くからこそ意味があるのよ」
「あの、なぜか癒される歌声には中毒性があるからねぇ。 まるじ慈愛に満ちた母親にあやされているような……。 私のオカンじゃ絶対に出せないわ。 あの歌声は」
「分かった。 分かったから」
そして私は友達に流されながらカラオケに行くことになったので、それを新谷さんへ報告する。
そして思う。
新谷さんと行けたのならば、よかったな、と。
むしろカラオケでなくても良い。 二人でどこかへ行ってみたいと思うし、カラオケのような密室な空間で異性である私と二人になるカラオケは流石に無理だろう。
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