第25話 もしも
◆
朝霧さんと一緒に暮らし始めて約一ヶ月が経った。
はっきり言って俺自身今この状況が信じられないでいた。
どういう縁の巡り合わせでこうなったのか、こ世界説明できる人など一人もいないだろう。
当事者である俺が分からないのだから、分からないのが当たり前である。
唯一わかる人がいるのだとすれば神ぐらいであろうか。
いればの話なのだが。
しかしながらこうして元妻の存在を考えなくて良い生活は想像以上に快適で、あらゆる問題、今解決しなければならない問題を忘れてしまいそうになる。
それでも、ふとした瞬間にフラッシュバックで様々な事を一気に思い出してしまい、鬱に戻る。
その繰り返しだ。
本当であれば既にこの家からは出て、前住んでいたマンションを売り払い、朝霧さんにお礼もして、そして誰も知らない町で一人で会うんで行こうと思うってはいるのだがなかなか上手くいかない。
その最大の理由が、今住まわして頂いているアパートから外に出ることが出来ないのである。
出なればいけない、出なければ何もできない、そんな事分かっていても身体がなぜか動かないのである。
そして、ネガティブな『if』が頭を埋め尽くしていき、そして何もできなくなる。
もし町で元妻にあったら。
もしもと同僚にあったら。
もし元嫁と共通の友人に会ったとしたら。
もし、もし、もし、もし……。
そうなるともう駄目だ。
そして、そんな俺が情けなく思い、さらに落ち込んでしまう。
一度は死のうとしたのに、あの時の勇気はどこへ行ったのか。
それでも、こんな俺に怒るわけでもなく、そして何があったのか聞いてくることもなく一緒に過ごしている朝霧さんが少しずつではあるが俺の心の中に入ってきては、その度に俺の心が癒えていっている気がするのだが、それと同時に『女性』というだけで怯えてしまっている自分がいる。
最低だ。
分かっている。
俺の全てを奪っていったのは朝霧さんでもなく女性だとかいう括りでもなく、元妻という一人の人間であるのに。
そんな事は分かっている。
でもできない。
簡単なことが、何もできない。
そして、最初に戻る。
その繰り返しだ。
きっと今の俺は病気なのだろう。
分かっている。
病院に行かなければならない。
分かっている。
そして、今日も一日が終わる。
◆
「ねぇ、どうしたのお母さん。 最近よく物憂げな表情をして黄昏てるけど、何か悩んでいるんだったら相談に乗るよ?」
「ありがとう。 でもそういうんじゃないんだ」
「じゃあどういう事?」
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