第6話肉





「痛っ…………」


 身体中を襲ってくる鈍痛により目覚めてしまう。


 そして見えてくるのは見知らぬ部屋とソファーで眠る自分。


 そして俺は昨日、いろんな意味で女性に助けられた事を思い出す。


 有り体に言ったとしても命の恩人という言葉が出て来るのは間違いない。


 さて、コレからどうしようか。


 一晩経って色々と落ち着いて来ると流石に若い女性の家に厄介になるのは世間体的に見てもいかがなものかという常識を考えられる様になって来る。


 仕事も探さなければならないし、出来ればこの街から引っ越したいという気持ちもある。


 そして何よりもこのまま命の恩人である女性に迷惑はかけられないので兎にも角にも先ずは住む場所の確保であろう。


 そう思うのだが、思った次の瞬間には何もやる気が起きない。


 まるで思考に靄がかかったように不鮮明で、纏まる思考も纏まらず、何がしたいのか、何からすれば良いのか分からず、そして行動しようとする気力すらなくなってしまう。


「あら、起きたんですね。ぷぷっ、い、今朝食を作っているのでもう少し待っていて下さい」


 やっぱり俺みたいな男は死ぬべきなのか?と思い始めていた時、件の命の恩人である女性から声をかけられる。


 どうやら朝食を作っていたみたいである。


 しかも俺の分も。


「そんなっ、わざわざ朝食まで作って頂かなくても結構ですっ。 もう大丈夫ですので今日には出て行きま───」

「ダメですよっ新谷さんっ!」

「───へ?」

「昨日死のうとした人が今日になっていきなり大丈夫と言われても信用出来ません。 コレでもし今私が了承して明日の新聞にでも乗る様な事があれば私は今日了承した事を私自身許せそうにありませんっ!!」

「そ、そう言われるとそうなのかも知れないが………」

「それにです」

「それに?」

「せっかくタダ同然で手に入れた家政夫をみすみす逃す訳がないじゃないですか」


 そう言いながら屈託の無い笑顔を見せてくれる彼女を見て、俺は耐え切れず泣いてしまう。


「ちょ、ちょっとっ、新谷さんっ!? いきなり泣いてどうしたんですかっ!? 私何か嫌な事言いましたっ!? もし気付かずに言ってしまってたのでしたら謝りますからっ。 てか、悪戯してしまった手前私の良心が痛むと言いますかっ、ですから私の為にも泣き止んで下さいっ」

「す、すみませんっ。別に朝霧さんに嫌な事言われたとかでは無いですので気にしないで下さい………悪戯?」

「あっ!! な、何でもないっ! 何でもないですっ!! あははははー」


 そして当然と言えば当然なのだがいきなり俺が泣き始めたせいで朝霧さんが慌て始めてしまうのだが、そんな彼女の優しさも相まって涙は一向に止まる気配を見せず、流れ落ちてしまう。


 しかしながら彼女がこぼした『悪戯』という言葉が気になり洗面所へ向かうと、俺の額に『肉』という文字が刻まれていた。

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