第2話スマホの向こう側

 そんな父の事を毛の先ほどは思いながらスーパーで買って来た食材を冷蔵庫に片付け、夕食を作り始める。


「あ………醤油切れてる」


 しかし、日本食を作る上で最も使用頻度が高い醤油を切らしている事に気付き、隣へ借りに行くという選択肢は最初から無いので安いスーパーか高いコンビニかで私は悩んだ、末コンビニへ買いに行く事にしる。


 料理中の食材をそのまま長い時間放置したくないというのが決定打となった。


「何やってんだろう?」


 そして徒歩五分のコンビニへ醤油を買い帰路へと付く。


 何やってんだろう、この言葉に意味はないが何か呟かずにはいられなかった。


 なんだかんだでホームシックになりかけているのかもしれない。


 こんな時は友人へ無料通話で他愛も無い会話をして心の寂しさを癒すしかないとスマホを手に取ろうとポケットへ手を突っ込むと早速友達へ通話を呼び始める。


 昨日はミーコだったので今日はマーコだ。


 因みに家族にかけた場合『何?何?ホームシックになっちゃったの?お姉ちゃん?』とからかう妹に『あんたが決めた事でしょうが』と突き放す母に『どうした?やっぱり家族がいないと寂しいかっ。そーかそーかっ。何なら今から迎えに行こうか?何なら一緒に暮らす様に手続きもするか?』と連れ戻そうとする父の姿が容易に想像できてしまう為、家族という選択肢は無い。


『お母さんお母さんお母さんお母さんっっっ!!』

「何? その無駄に高いテンション……」

『いやだって、ちょうど母性を感じたいなーと思っていたところだったからっ!』

「母性って………だったら自分の親にすればいいじゃない?」

『お母さんは自分のお母さんにそれができるの?』

「…………成程、絶対無理」

『だっしょ?』

「…………………は? ……え? ごめん、通話一回切るねっ! 後で掛け直すから!」

『お母さぁぁぁぁああんっ!!』

『何よあんたさっきから。 お母さんの事そんなにだいすきなの?』

『お母さんの事じゃないっ! お母さんの事なのっ!!』

『何訳の分からない事を言ってんのよ? 素直じゃないんだから』

「うぜーっ!! ニヤニヤしてんじゃないよこのクソババァっ!!』

『例え照れ隠しだとしてもその言葉は聞き捨てならな────』


 スマホの向こう側が面白い事になっているのでこのまま聞いていたい気持ちを振り切り通話を切ると私はアパートの横を流れる川にかかった橋へと走り出す。


 そこには橋の手すりに立っている男性の姿があり今にも飛び降りそうな雰囲気を醸し出していた。

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