第53話まるで別人のよう

 そしてデート当日の日は直ぐに訪れたのだが、これで私の恋も最後だと思うと自然と昔のように恥ずかしがることも無く私の好意を健介に向ける事が出来た。


 しかし、長年付き合ってきて、健介だけを見て来た私だからこそ、私が何かを言うう度に、私が動くたびに健介が一瞬だけ怯えてしまっているのが見えてくる。


 そしてそれらは私が暴力を振るわなくなったからこそ今まで以上に感じとれてしまい、申し訳なさと自分自身の罪の深さに泣きたくなってしまうのだが、今日だけは泣きたくない、笑顔で最後まで過ごしたいと必死に泣くことを我慢しなが、小学生低学年ぶりに訪れたらわんぱく園を二人で周る。


 暴力をふるう事無く健介と一緒に過ごす一日は、暴力をふるっていた頃よりも健介と対等になれた気がしてとても楽しくて、何でもっと早く気付けなかったんだろうと思う。


 しかしながらそんな楽しい時間は、その過ごす時間が楽しければ楽しいほど短く感じてしまう訳で、気が付けば空は夕焼け色に染まり、閉演時間が近づいて来ていた。


 それは私の初恋の終わりでもある。


 終わりたくない。


 帰りたくない。


 一生このままでいたい。


 我儘を言わない、暴力もふるわないから健介の隣に居させて欲しい。


 次から次へとそんな考えが頭の中を埋め尽くしていくのだが、今までさんざん健介には嫌な思いをして来たのだから、健介の事を思えばこそ、もう終わりにするべきだろう。


 健介も私なんかの顔を毎日毎日見たくないはずだ。


 そして私はわんぱく園の中央にある、反射して夕焼け色に染まった池を最後に眺めようと健介と一緒に向かう。


 その向かっている時間が永遠だったら良いのに。


 そう願う私の想いは叶う訳もなく、ついに池へと付いてしまった。


 そして私は十分ほどの時間を有して勇気を振り絞ると、健介へ自分の想いを全て告げるのであった。





 今日の彩音は終始いつもと違っていた。


 それは彩音の雰囲気から行動、そして仕草に至るまでまるで別人かと思ってしまうくらいには違っており、まるで別人のようである。


 それこそ普段の彩音から剣呑さを全て取っ払ったような、その代わりに寛容さと優しさが加わったような変化であり、それと共に今日一日ずっと何かしら無理しているようにも見える。


 その事を不思議に思い「どうした? どこか具合が悪いのか?」と聞いても「なんでもない。 大丈夫だから」と返される。


 それを言葉にすると『いつもと違う』でもあるのだが『あの頃の彩音のようだ』とも表現できてしまう。


 それを不思議に思いつつも懐かしみながらわんぱく園を周っていると、不思議な事に小一時間も過ごせば彩音の暴力に怯える事も無く昔のように彩音と接する事が出来ている自分がいた事に気付き、内心自分の事ながら驚いてしまう。

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