第3話 新しい環境
「高校卒業ばんざーい」
「大学生になってもおバカな岳くんでいてね。」
「快には言われたくないね。」
無事卒業式が終わって、制服姿の撮り納めということで、みんなで写真を撮っている。
「快、大学行ってもバスケやるよな?」
「岳も続けるんだよね?私は続ける予定だよ。」
「俺も続けるよ。快の憧れの颯太先輩もいるしね。」
「おい、岳。今颯太先輩って言った?」
優斗が話を割って入ってくる。
「おぉ優斗、卒業おめでとー、愛してるぜー。」
そう言ってふざけながら優斗に抱きついてる。
「岳、俺の質問に答えろ。颯太先輩って今言ったよな?」
「あぁ、颯太先輩って言ったよ。大学のバスケ部に颯太先輩がいるって話を快としてただけだぞ。」
「へぇ、大学のバスケ部に颯太先輩がいるんだ。知らなかった。」
「優斗と颯太先輩ってなんか関係あったっけ?」
何で颯太先輩の話を聞いてくるのか不思議に思った私は2人の会話に参加する。
「今は関係ないけど、この先もしかしたら関係するかもしれない。」
訳の分からないことを優斗が答えると、岳がすかさず
「相変わらず訳分からないこと言う奴だな。おい、快。今度こそ、颯太先輩にアタックしてみろよ。彼女はいないらしいから。」
そう、私が憧れている先輩は今話題に上がっている颯太先輩だ。
高校のバスケ部の先輩で、憧れの先輩。
バスケは上手いし、優しかった。
自分に自信がなく、声を掛けることはできなかったから、大学こそはと思っている。
「岳、余計な事言わなくていいよ。先輩が好きなわけじゃなくて、ただカッコイイ先輩だなと思ってるだけだから。」
「俺、颯太先輩と仲良しだから、入部したら飯でも食いに行こうぜ。」
「それは緊張しちゃうな、だけど機会があったらよろしくと言っておこうかな。」
岳と盛り上がっていると、
「はいその話終わり。」
と不機嫌な顔な優斗が割って入ってくる。
「写真撮ろうぜ。」
無理やりこの話を終わらせてしまった。
あと少しで颯太先輩とご飯に行く段取りができそうだったのに心底残念。
また岳にお願いしようと思いながら、スマホに向かって笑顔を向けた。
あっという間に大学の入学式の日になる。
高校卒業してから、優斗とは会っていなかったから、久々に会う。
入学式に一緒に行こうと約束していて、準備が出来たら家に来ることになっている。
入学式は就活でも使えるようなスーツで行く人が多いと聞いて、私もスーツで行くことにしている。
急いで準備をしていると、玄関のチャイムが鳴って、下からお母さんのバカみたいに大きい声で優斗を褒め称える声が聞こえてくる。
「優斗くん、スーツ着るとイケメン度がさらに増すわね。これは大学でモテモテになるわ。」「そうでもないっすよ。」
と優斗とお母さんが玄関で話ている声を聞いて、急いで玄関に向かう。
「お母さん、行ってくるね。」
「はいはい、二人共気を付けてね。それにしてもベビールームで並んでた赤ちゃんの二人がこんなに大きくなって、お母さん感慨深いわ。一枚写真撮りたいから、二人並んでちょうだい。」
優斗が私の肩を掴んで方がぴったりくっつくように隣に並ぶ。
今まで香水なんかつけていなかったはずなのに、隣に並ぶ優斗からいい匂いがする。
スーツ姿でいい匂い漂わす隣の男は私の知っている男とはまるで別人のように感じ、心臓がどきんと音をたてる。
「はい、二人共ありがとう。優斗くんのお母さんにも写真送っておくわね。」
お母さんの呑気な声で現実に我に返ると、
「優斗、早く行こう。お母さん、行ってくる。」
と優斗を急かす。
「写真ありがとうございます。それでは行ってきます。」
と言って地下鉄の駅に向かって歩き始める。
急いで後を追うけど、その後ろ姿も私の知っている優斗じゃない気がして、不覚にも緊張してしまう。
「快、遅れるぞ。早く来いよ。」
駅に向かうまで何を話していたのか全く記憶になく、幸いにも地下鉄は満員電車のため、優斗とも距離をとることができた。
大学のある駅に着いて、改札を出ると岳が待っていた。
ほっとした私は「岳~~」と言って、岳に走り寄った。
「快、おはよう。おぉ、まともに化粧するとお前美人だな。見違えったよ。優斗もスーツ着るとよりいい男になるな。」
「岳も背が高いから、スーツが似合うね。これで女の子からモテモテだね。」
とふざけながら3人で大学に向かっていく。
大学の門が見えてくると、新入生らしき人達がたくさんいる。
その人達から何故か視線を感じる。
スーツのタグが付きっぱなしだったかと確認してみるもついていない。
岳と優斗にもついていない。
何故視線を感じるのか分らなかったが、大学の門をくぐってある人にあったらその謎が解けた。
「おー、快と岳じゃないか。入学おめでとう。」
「あっ、颯太先輩。おはようございます。偶然すっね。」
「おはようございます。お久しぶりです。」
まさかこんなに早く颯太先輩に会えるとは思っていなかったので、心の準備でができておらず心臓が早鐘をうっている。
顔も暑くなってきて、真っ赤になってしまっている気がして、慌てて頬に手をあてる。
「お前達、めちゃくちゃ目立ってるぞ。背が高いし、イケメンに美女が揃って歩いてるからな。視線を感じないか?」
「全然視線なんか感じないっすよ。颯太先輩の勘違いじゃないですか。」
隣で岳が呑気なことを言っている。
私は美女という言葉を聞いて更に体温が上昇し、心臓が暴れ狂っている。
まさか先輩が私のことを美女と言ってくれるとは思いもしなかった。
「初めまして。岳と快とは同じ高校で今井と言います。俺もこの大学で経済学部に入学します。これからよろしくお願いします。」
急に優斗が話に割り込んでくる。
「俺も経済学部だから、何か困ったことがあれば何でも聞いてくれ。過去問が欲しけりゃあげるし、おススメのゼミも教えてあげる。連絡先交換しようか。ついでに岳と快も連絡先教えて。」
まさか颯太先輩と連絡先交換できるとは思ってもおらず、嬉しさのあまり顔が緩んでくるのを隠しきれず慌てて鞄の中にあるスマホを探していると
「先輩、すみません。遅れそうなので、連絡先の交換は次の機会でお願いします。快と岳、行くぞ。」
まさかの優斗の発言に動揺が隠せず、
「えっ、えっ。連絡先交換なんてすぐ終わるから、ちょっと待って。」
「初日から遅れて目をつけられるのも嫌だろ。先輩、また後程。行くぞ。」
半ば強引に引きずれらるようにその場を後にした。
「快と岳、入学式終わったら部活紹介があるからバスケ部に寄れよ。入学式遅れないようになー」
と後ろから颯太先輩の声が聞こえてきたので、慌てて後ろを振り返ると、笑顔で手を振っている。
その笑顔がなんともかっこよくて足を止めていると
「快、行くぞ。」と優斗に手を引かれる。
「ちょっと優斗。少しぐらいいいじゃない。折角のチャンスだったのに。」
「何がチャンスだよ。連絡先なんていつでも交換できるだろ。入学式に送れる方が大問題だ。」
「新入生なんかたくさんいるから、少しぐらい遅れても気付かれないよ。」
「そんなわけないだろ。そもそも、あんなカッコイイ先輩がお前のことを相手にするわけないんだから現実を見ろよな。」
分かってはいるが改めて言われると、恥ずかしさとイライラが込み上げる。
「そんなこと分かってるよ。優斗には言われたくないね。」
喧嘩になりそうな雰囲気を察したのか岳が
「まぁまぁ、お二人さんそこまでに。ここで学部別で分かれなきゃいけないみたいだから、入学式終わったら颯太先輩のところ行こうな。快、ここで待ち合わせな。優斗はどうする?」
相変わらず不機嫌な優斗が
「俺はバスケできないから行かない。部活もやる予定ないから、そのまま帰るわ。バイトしようと思ってるカフェを偵察がてら寄って帰るわ。」
「おう、分かった。じゃぁ、快あとでな。」
そういうと岳はさっさと行ってしまった。
優斗と二人残されたが、相変わらず不機嫌なので何も言わず私も自分の学部に指定された教室を目指して歩き始める。
「快、部活の見学終わったら連絡して。」
優斗が後ろから声をかけてきたので振り帰らず、手だけ挙げて
「分かった。」
とだけ言って目的の教室に急いだ。
教室についたころには既に人がたくさんいた。空いている席がないかきょろきょろしていると、可愛い女の子と目が合った。
なんだか仲良くなれそうな雰囲気がているし、隣の席が空席だったのでそこに座ろうと席に向かう。
席に座ると、その可愛い女の子が
「初めまして。太田舞っていいます。S高出身。仲良くしてね。」
人懐っこい笑顔でこちらを見ている。「初めまし、横川快です。S高のお隣高のN高出身です。こちらこそ、よろしく。」
「さっきものすごいイケメン2人と歩いてたよね?」
「イケメンかな?2人共高校の同級生で家が近所だから一緒に来たの。」
「どっちか彼氏なの?」
「まさか、あの二人と付き合うなんてないない。」笑いながら答える。
「そうなの、めちゃくちゃイケメンなのに。私は髪の短い方がタイプだけどなー。」
「岳のことね。あいつ大学で彼女作るって意気込んでたから、今度紹介するね。」
初めて会ったとは思えない程、会話が弾んだ。
しばらく他愛もない話をしていると、学長らしき人が入ってきた。
「みなさん、入学おめでとうございます。今から学部の説明と履修授業について説明した後、入学式となります。」
と言って説明を始めてしまったので、話を一旦中断して学長の説明を聞く。
2時間弱説明を受けると、流石に疲れて終わったころにはぐったりだった。
「舞、疲れたね。この後入学式とか信じられない。」
「快、大学とはこういうところなんだよ。入学式行こう。」
と同じくぐったりしている舞と入学式に向かう。
入学式が行われるホールも学部別で分かれている。
ホールに入ると他の学部は既に座っていて、私を見つけた岳が大きく手を振っている。
ただでさえでかくて目立つのに、それがあんな大きく動くと嫌でも目に入る。
小さく手を振る。
「さっき一緒に来てた髪が短い方だよね。」
「そうそう、ただのバカなんだよね。岳っていうんだ。そうだ、舞。入学式が終わった後、部活の見学行く?」
「私は部活には入らないから見に行かない予定だよ。」
「そっか残念。私も岳もバスケ部に入る予定で、この後部活見学に行くんだよね。」
「バスケやってるから二人とも背が高くてスタイルがいいのか。部活入らなくても見学だけでもいいのかな。マネージャーとか募集してたら面白うそうだなと思って。」
「時間に余裕があるなら一緒に行こうよ。」
「時間はたっぷりあるから一緒に行く。」
部活見学を一緒に行く約束をして、そうこうしているうちに入学式が始まった。
あっという間に入学式が終わる。
説明会で削がれた気力と体力は入学式が終わる頃には、ほぼ0になっていた。
「快、疲れたね。疲れた時はチョコレートだよ。」
そう言ってチョコレートを1粒くれた。
口に入れると少し気力と体力が回復したように感じた。
「これで今日は終わりだね。明日からいきなり授業が始まるなんてね。選択授業の登録もしないといけないし大変だ。」
「そうだね、選択授業一緒にして、お互い助け合おうね。」
「そうだね、部活見学終わった後、お昼ご飯一緒に食べながら選択授業決める?」
「そうしよう。」
「舞、岳と待ち合わせしてるから一緒に来てくれる?」
「なんか緊張しちゃうな。」
と二人笑いながら待ち合わせ場所に行くと既に岳が待っている。
「岳、お待たせ」
「おう、快。お疲れ。流石に聞きっぱなしは疲れるな。ところで隣の美人さんはどなた?」
「太田舞といいます。快と同じ学部で仲良くなったので、部活見学に同席させて頂きます。」
まさかのごちごちに緊張した挨拶に思わず吹き出してしまう。
そんな私を見て気を悪くしたのか舞が睨んでくる。
「ごめん、ごめん。岳、同じ学部で仲良くなったの。部活見学を誘ったから一緒に行くね。」
「こんな美人さんと一緒に行くとなると俺は緊張しちゃうな。」
と鼻の下が伸びっぱなしの岳と3人でバスケ部のブースに向かう。
颯太先輩に再び会うと思うと、心臓がバクバクしてくる。
「颯太せんぱーい。」
颯太先輩を見つけると岳が走り寄る。
「おお二人共来てくれたか。入部するってことでいいよな。」
「来た早々なんすか。入部するつもり満々ですけどね。」
相変わらずカッコイイ先輩を直視できず、心臓よ静まれと思いながら、
「私も入部します。」と颯太先輩をちらっと見る。
「二人共、バスケ部へようこそ。」
颯太先輩は言いながら入部届を手渡しながら、舞の方を見る。
「こちらの方は?」
「同じ学部で仲良くなって、むりやり連れてきちゃいました。バスケの経験はないので入部はしませんので見学だけ。」
「太田舞といいます。バスケの経験はないのですが、高校で陸上部のマネージャーをしていました。マネージャーを募集しているようであればやりたいのですが。」
まさかの発言に驚いて舞の方を見る。
「マネージャー大募集中なんだよ。やってくれるの?」
「はい、是非。」
「快、大手柄だな。いい友達を作った。」
と颯太先輩は言いながら私の頭をわしゃわしゃしてきた。
思いもしない先輩の行動に、心臓が破裂するかもしれないと思っていると、
「それじゃ、この入部届書いてくれるかな。」
と頭にあった手が離れて、舞に入部届を渡している。
あまりに一瞬の出来事だっだけど、高校の時にはなかった距離感の近さに嬉しくも驚いている。
こんなに心臓がバクバクして早死にしないか心配になるほどだ。
「毎週月~金の昼休みに活動してるから、授業後はバイトとかにも時間があてられるから割と自由度が高い部活だぞ。活動は明日もあるから快と岳は絶対参加で舞ちゃんはよければ来てくれるかな。」
「はい、明日から参加します。よろしくお願いします。」
「俺はこの入部届をゲットするのが一番の目的だったから、これからよろしくな。この後はどうするんだ?」
「舞とお昼と食べながら選択授業を決めようと思っていて。」
「それなら第一食堂の味噌煮込みうどんが絶品だからそれを食べるといいよ。選択授業もおススメ教えてあげるから、シラバス見せて。」
と颯太先輩が手延ばす。
その手を掴んでしまいたかったが、ぐっと我慢してシラバスを渡す。
そのとき少し触れた指に心臓がまた大変なことになる。
颯太先輩がおススメの選択授業にマークをしてくれたシラバスを受け取ると、御礼を言ってバスケ部のブースを後にした。
「舞、入部して大丈夫だった?」
バスケ部のブースを後にして直ぐに、ずっと気になっていたことを舞に聞く。
「高校の時マネージャーしてたし、またどっかの部活のマネージャーしたいなと思ってたからちょうどよかったの。快と仲良くなったのも何かの縁かなと思ってさ。」
「良かった。無理やりだったかなと思って心配だったんだよね。」
「俺は舞ちゃんがバスケ部入ってくれて心底嬉しいよ。」
「相変わらず自分の思ったことを口にする男だね。」
と私が呆れて岳に言う。
「岳君も選択授業一緒に受ける?選択授業は学部関係ないって先輩が言ってたよね?」
舞が岳に向かって話しかけると、これまた分かり易い程に喜んでいる岳が
「一緒に受けさせてもらうよ。一緒だと試験の時も心強いし。優斗も誘う?」
「帰り優斗と約束してたから、今から呼び出してみる。第一食堂でいいよね?」
「先輩おすすめの味噌煮込みうどん食べようぜ。」
「舞、今日朝一緒にいた茶髪の方も一緒に授業受けてもいい?」
「もちろんいいよ。仲間が多い方が試験の時心強いし。」
舞も了承してくれたので、優斗に電話をかける。直ぐに優斗は電話に出た。
「部活の入部届終わったから、今から第一食堂で選択授業決めようと思うんだけど、優斗もこない?」
「分かった。今から行くわ。」
とだけ言うとブツっと電話が切れる。
「優斗来るって。第一食堂で待ち合わせ。」
そうと決まれば、疲れきった体と心は味噌煮込みうどんのことしか考えられなくなり、3人で第一食堂に向かった。
食堂に着くと入り口で優斗が待っている。
「優斗」と声を掛けるとこっちに気付いて歩いてくる。
「太田舞といいます。快と仲良くなって、選択授業を一緒に受けさせてもらうので、これからよろしくお願いします。」
とこれまた丁寧に舞が自己紹介する。
「よろしく。俺は今井優斗。」
それだけ言うと食券機の方へ歩いていってしまった。
「ちょっと、なんていう自己紹介よ。もうちょっとちゃんとしてよ。」
と優斗に言うものの、既に岳と食券機の前で何やら話をしている。
「ごめんね、あいついつもあんな感じなんだよね。悪い奴じゃないから。」
「男の人って大体あんな感じだよね。大丈夫大丈夫。私たちも味噌煮込みうどん食べよう。」
と舞が言うと食券機の方へ向かう。
私も慌てて食券機に向かう。
無事、味噌煮込みうどんをゲットした4人で空いている席を見つけて座る。
「颯太先輩のおススメ通り、めちゃくちゃ旨いな。」
「ほんとだね。これはまた食べたいね。」
「選択授業どうする?」
「先輩のおススメ通り履修しようよ。過去問もあるって言ってたし、先輩も受けるやつあるって言ってたしさ。」
「そうだね。」
と4人で話ながら食べていると、あっという間に食べ終わってしまった。
食べ終わって他愛も無い話をしていると、舞が
「快って颯太先輩のこと好きなの?」
いきなり舞がぶち込んできた。
「好きってわけじゃないよ。ただ、カッコイイなって憧れてるだけだよ。」
「何言ってんだよ。今度こそアタックしてみろよ。さっきも頭撫でられてだろ。」
「お前みたに女子力低い奴に興味ある訳ないだろ。」
また同じようなことを優斗が言ってくる。
「いちいち言わなくても分かってるよ。ただ憧れてるだけだから、それ以上は望まないよ。ほんと優斗うるさい。」
とイライラしながら優斗を睨みつける。
「快、めちゃくちゃ美人だと思うよ。スラっとしてるし、スタイルも抜群だよ。今朝、学部の男の子達もそんなようなこと言ってたの聞こえてきたし。」
と舞がナイスフォローをしてくれる。
「お世辞と分かってても嬉しい。舞はなんていい子なのー」
と言いながら舞に抱き着く。
「颯太先輩と連絡先交換するの忘れたな。また明日部活行った時、忘れずにお願いしような。」
と岳の言葉ですっかり忘れていたことを思い出した。
明日部活に行くのが楽しみになる。
「さぁ、そろそろ行くか。今日は身も心もくたくただからな。」
と優斗が話を遮って立ち上がる。
確かに疲れていたので、優斗の後に続く。
みんなで食器を返して、帰り道に行く。
岳とは違う路線なので、駅でバイバイした。
偶然にも岳と舞が同じ方向だったので、2人で一緒に帰って行った。
あの二人が付き合えばいいのになーとぼんやりと考えていると、
「颯太先輩に頭撫でられたのか?」
いきなり優斗が話掛けてくる。
「撫でられたというか、犬扱いされたというか。」
と曖昧な回答をすると気に入らなかったのか
「お前、簡単に触らせるなよ。軽い女だと思われるぞ。」
「颯太先輩はそんな人じゃない。悪く言わないで。」
「お前、その先輩が好きなのか?」
「だから好きじゃなくて憧れなの。」
「好きと憧れってどう違うのか?」
「それは分からない。もうこの話はいいでしょ。そうだ、優斗。頭を撫でられるのは効果抜群だよ、気になる子がいたらやってみなよ。」
「悪い先輩かもしれないから気を付けろよ。」
最後の言葉は聞き流しているのか全く触れず、この会話は終了した。
途中、優斗は近くのカフェにバイトの偵察で寄っていくというので駅で別れることになった。
「授業の時間が違うから別々で登校だし、帰りも別々だな。選択授業の時に一緒に受けるぐらいだけになるな。」
「そうだね。選択授業は4人で受けようね。バイト決まったら教えて。」「おう、また明日から頑張ろうな。」
「優斗もね。それじゃ。」
「今日はお疲れさん、じゃぁな。」
そういうと頭をぽんぽんとして、カフェの方に向かって歩いて行った。
まさかの頭ぽんぽんに静かだった心臓が暴れる。
一日に2回も頭を触られることがこの先の人生であるのだろうかと思いながら、何故心臓がこんなことになっているのか分からなかった。
優斗の後ろ姿がいつもよりカッコよく見えたのも不思議だった。
優斗は特に意味のない頭ぽんぽんだという事は分かっているが、こんな行動をしたことがなかったので驚いている。
非日常だった一日だったから、優斗も頭が混乱してるに違いないと結論付けて、私も家に向かった。
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