第22話 最強援軍ハーレム部隊結成

 どんな医療でも回復魔法でももう助からない。

 血みどろの獣人の兵士を見て誰もがそう理解した。

 クローナも既に助けるためではなく、少しでも痛みを和らげようと魔力を送っている。


「おぬし……」


 何があった? 聞かなくても誰もが分かっている。

 キカイにやられたのだ。

 しかし、近くにキカイの気配はない。

 恐らくこの兵士は、どこかでキカイに遭遇し、この場所まで必死に逃げてきたのだろう。

 自分の体がボロボロになりながらも、助けを求めて。


「どう、か、みん、なを……」


 そして今にも消え失せそうな命でありながら、彼は自分のことではなく、必死に何かを訴えようとしている。

 何かを伝えようとしている。

 そして、誰もが彼が何を言いたいのか分かっている。

 何故なら、大陸に住む者たちを避難させる任をしているのは自分たち「魔族」だけではない。

 そして、彼は兵士。

 ということは……


「なんじゃ、そのざまは! おぬしはこのままくたばる気か! かつて儂ら魔族の宿敵であった獣人の兵士が、その程度で逝ってしまうヤワでよいのか!」

「うっ、あ……うっ……」

「貴様も兵士であるのなら、務めを果たす根性を今こそ見せよ!」


 そのとき、トワイライトは獣人の兵士の肩を掴んで起こした。

 その強い言葉を受けて、兵士の男は今一度目を見開き……



「わ、我ら、じゅ、獣人軍避難民誘導部隊……アシリア姫の指示の元……民を誘導中、キカイの大群に、そ、遭遇ぅ! み、みな、、現在、ランコォーン砦にて、ろ、籠城中ぅぅ、ひ、姫様もおお! ど、どうか……え、援軍をぉぉ!」


「承った! よくぞ言った! 務めを果たした勇者よ!」



 そして、最後の叫びと、トワイライトの言葉を受け、獣人の兵士は安心したように微笑んで逝った。

 同時に、その場に居た魔族の兵士たちは全員敬礼をして、獣人の兵を見送った。



「さて……ランコォーン砦……じゃったな。しかも、アシリアまでおるとはな……地図を出すのじゃ!」


「はい! お姉さま、このままではアシリアが……」


「姫様。あの砦はたしか相当堅牢な要塞砦と言われ、城壁の守りは固いです。立てこもれば数日……いえ、モグラキカイなどのように地中から攻められたら……」



 獣人の兵士の死に感傷に浸る間もなく、トワイライトが指示を出し、突如皆が輪になって軍議を始める。

 状況が何となくでしか分からないアークスだったが、一緒になってそこに入る。


「あっ、アークスは知りませんでしたね。私たち魔王軍以外にも獣人の軍も獣人の皆さんを避難誘導しているのです」

「あ、ああ。なんとなく、そうなんだろうな~って……」

「そして、それを指揮しているのが、獣王様の娘でもある英雄、『黄金姫騎士アシリア』なのです。獣人と魔族、過去には色々とありましたが、今では私たちの……大切な仲間なのです」


 そう言って悲痛な表情を浮かべるクローナ。

 それだけで、そのアシリアという姫がクローナにとって大切な友だろうということをアークスも察することができた。


「キカイの数が分からぬが、救出するのであれば砦に群がるキカイどもを遠ざける必要があるのぅ……」

「でしたら、姫様! 小生にお任せを! 救世主さまより戴いたこの剣で、奴らなど殲滅してくれます!」

「うむ……確かにのう……」

「本来であれば小生の軍を連れて行くところですが、今回、キカイ共を断罪できるようになった以上、逆に犠牲者を増やすようなことをする必要はないでしょう。小生単独であれば身軽で――――」

「いやいや、一人は流石にダメじゃ! あやつらを倒せるようになったと言っても、己惚れ過ぎじゃ!」


 真っ先に名乗りを上げるオルガス。

 だが……



「俺も行くッ!!」


「「「「ッッ!!??」」」」



 アークスが名乗りを上げた。


「ぬっ、救世主殿!」

「アークス!?」

「救世主様!?」


 まさか、アークス自らが手を上げるとは思わなかったので、誰もが驚き動揺する。


「だ、ダメです、アークス! アークスは希望なのです! そんな危ないことはさせられません!」

「そうですぞ、救世主さま。今となっては小生らより、救世主殿こそが世界でもっとも大事な存在」

「うむ、気持ちはありがたいが、おぬしにはこれから色々と頼まねばならんが、それは今ではなく、もっとおぬし自身のことを儂らと一緒に知ってからじゃ」


 そして、当然ながらアークスの存在の重要性からも、口をそろえて皆が反対する。

 だが、それでもアークスは……


「でも……でも、クローナの大切な友達なんだろ!」

「アークス……」

「その人が危ないって……なのに、オルガスさんにだけ任せて、俺だけ安全な所になんて……俺は戦えるし、キカイだって倒せる! 俺が行かないと!」


 そう、アークスには謎なことが多いが、それでもハッキリしているのは、アークスの力はキカイを倒せるということである。

 もしアークスが行くのであれば、獣人たちの救助の確率も飛躍的に上がる。

 オルガス一人で行くよりもずっと可能性が高い。

 しかし、それでも万が一があった場合……アークスは今の世界における唯一の希望であるために……



「しかし―――――」


「俺の辞書に不可能という文字は無いッッ!!」


「―――――ッ……ぬっ……ぬぅ……」



 力強く、そして自信に満ちたアークスの叫びは、その場に居た全員の心を揺さぶった。


「……って、ご、ごめんなさい。俺、別に根拠があるわけじゃねえし、何でこんなって……でも、なんか俺、ここで行かないとダメなんだって思って……」


 急にハッとなってアタフタするアークス。

 確かに自分のことをよく分かっていない男からすれば、根拠のない言葉だった。

 しかし一方で、誰もが思った。



―――確かに、この男ならできるかもしれない



 と。

 だからこそ、トワイライトもその言葉を受けて……


「ふむ……ふふふふ、ぬわはははは……いやぁ~……儂もやはり女じゃわい。股が濡れたわい」

「えっ、あ、あの」

「おぬし、気に入ったわい」


 機嫌よさそうに笑い、そしてアークスの顎をクイッと持ち上げて……



「んちゅ。んぐ、じゅぞ、じゅる」


「―――――? ……ッッッッ!!!???」


「ふぁ!? お、お姉さまッ!?」


「な、ひ、姫様ッ!?」


「「「「「ッッッ!!!???」」」」」



 キスをした。しかもクローナとアークスが先ほど行った、唇を重ねるだけのキスではない。

 アークスの口内に己の舌を侵入させ、激しく貪り吸うようなキス。


「ぷはっ、ごっそさんなのじゃ♡」

「こほっ、う、あ……ふぁ……あ、あの……」


 突然のトワイライトの情熱的なキスに顔を赤くしてうろたえるアークスに対し、トワイライトは蕩けた雌の表情でアークスを自分の胸の谷間に抱き寄せる。



「儂のことは今後、親しみを込めて『トワ』と呼ぶがよい」


「あ、あの、むご、むごむごむごぉ!?」


「色々と予定変更じゃ! オルガスよ。救世主殿と一緒に儂も行くぞ! ワシもキカイを叩き切れるしのう」


「……は?! ひ、姫様!?」


「それと、クローナよ。こやつ、儂がもらうぞ。よいな?」


「……え……あ……あ……だ、ダメですッ! ぜ、絶対ダメです! アークスだけはあげません! アークス、私の所へ帰ってきなさい!」


「は、はい! 帰ってきま、んごっ!?」


「ぬわはははは、ほれほれ~、離さぬぞ~。クローナのようなまだ未成熟な身体と違い、これぞ王者の乳なのじゃ~。ほれほれ、揉んでも吸ってもよいぞ~?」


「あ、わ、ひ、姫様! は、はしたのうございます!」


「ふん、そうは言うても、オルガスも男っ気のない生活をしておるから、うらやましいと思っているじゃろう? あっ、クローナ。軍の指揮は……と言うても、あとは船に乗るだけじゃから、提督たちと協力して頑張るのじゃ」


「だ、ダメです! わ、私も行きます! アークスの保護者は私なのです! 私が行くんです! それに、私の魔法で補助や回復はオルガスやお姉さまより上なんですもの!」



 本来緊迫するはずの状況の中で、姫としてではなく姉妹として一人の男を取り合うトワイライトとクローナに、アタフタするオルガス。

 そんな様子を見た配下の兵士たちは、苦笑しながら……


「ま、あとは船にのるだけだし、俺らだけでいいか」

「そうだな……まぁ、姫様たちは心配だけど、俺らじゃ足手まといだし……」

「救世主さまもいるし……何とかなる……というか、今となってはこの四人が魔王軍最強部隊だしな」


 そう言って、自分たちだけであとはやるかと空気を読んだ。

 

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