第102話
兄が私と並んで屋敷に向かって歩き出した。
どうい意味だろうと、隣を歩く兄の顔を見上げる。兄の横顔。表情は硬い。
どういうことだろう?
尋ねようとしたけれど、兄はこれ以上この話はしたくないとばかりに、唐突に顔に笑顔を張り付けて私の顔を見た。
「1か月もすれば、祝勝会が開かれるだろう。戦争で活躍した者たちへ叙勲される。まずは皇太子殿下が褒美を賜るはずだ。それ以外に、皇太子殿下救出に携わった者たちへも勲章と褒美が与えられるだろうな」
皇太子殿下、エミリーのことを兄が話題に出したため、あっという間にエカテリーゼ様のことは頭から抜け落ちた。
「救出された皇太子殿下は、ご無事なのですか?お怪我はありませんか?」
「んん、まぁ、そうだな。怪我はない」
兄が言葉を少し濁す。
「その……詳しいことは父上も言わないが……多少の問題が起きたらしく」
え?
「それは、どういうことですか?多少の問題って?怪我はしていらっしゃらないのでしょう?それならいったい何が……」
兄が首をゆっくり横に振った。
「祝勝会までには落ち着くか、このまま問題が続くかは分からないが……、今は様子見だと父上は言っていた。まだ、表に出せない極秘情報らしい……が、どうやら、精神的な問題が少しあるようなんだ」
心臓がバクバクと音を立てる。
無事じゃないの?いったい、エミリーに何が?
精神的な問題?
もしかして、誘拐されたことで、心に傷を負った?
そりゃ、そうよね。怖い思いをすれば……例えば暗闇が怖くなるとか、あるものね。だって、エミリーはあんなにも繊細な心を持つ女性だもの。
誘拐なんてされたら、怖いよね。何をされるか分からない恐怖を味わったんだわ。
もしかしたら窓もないくらい地下室みたいなところに何日も閉じ込められて、暗闇が怖くなってしまったのかもしれない。
……怪我はないということだから、拷問されるようなことはなかったんだろうけれど……。食事はちゃんと与えられていたのだろうか。腐った物とか食べさせられたり精神的な苦痛を与えられていた可能性だってある。
エミリー。
ああ、かわいそうなエミリー。
そうだ。ポプリを送ろう。
レースをタップり使った可愛い匂い袋を作るんだ。
可愛くて、そしていい香りがすれば癒されるんじゃないだろうか。
エミリー。ああ、この腕にぎゅっと抱きしめて、大変だったわね。もう大丈夫よと、慰めたい。
ああ、そんなことよりも……。
ただ、会いたい。
会いたい、会いたい、会いたい!
エミリーに一刻も早く会いたい!
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