第75話

「リ、リリー様、どうなさったのですか?」

「私……戦争は、早く終わって被害が無ければいいなと思うだけで……私に何ができるかなんて……考えたことも……なかった」

 自分のことだけ。

 戦争が終わったらどうしよう、ああしようと。エミリーとのことばかり。

 ああ。何て愚かなのだろう。

 どうせ私は男性アレルギーだから社交界に出られない。

 私みたいな男性アレルギー持ちが皇太子妃なんて務まるはずがない。

 女の私が戦争で役に立つことなんてどうせ何もない。

 どうせ、無理だから。どうせ、できないから。無駄なことしても仕方がない。

 私なんて……守られるだけの、人に迷惑をかけるだけの、いらない人間……。

 そういう人間にしてたのは、私自身だ。

 ファッションリーダーだと言われても、なんで?どこが?と思っていた。

 もし、私が本当にファッションリーダーと呼ばれるにふさわしい人間なら……。昨日考えていたような女性だと侮られないようなかかとの高い靴だとか、金銭的な理由でドレスを何着も仕立てられない人が着回しを馬鹿にされないようなコーディネートの方法だとか……。

 背の高い人には背の高い人が似合うファッション、太めの人には太めの人がより魅力的に見えるファッション、色々提案して誰かのためになることができるんじゃないの?きつく締め付けるコルセットが必要のないドレスを流行らすこともできるんじゃないの?

 誰かを幸せにすること。私の立場だからこそできることがあるんじゃないの?

 私、エミリーが男だけれど女性らしいものを手元に置けるようにと色々考えた。男性用ブーケドコサージュや携帯用裁縫道具。

 エミリーのためじゃなくて、他の人のためにも何か考えたことある?……自分のことばかりだった。男性アレルギーがあるから何もできないと、正直に言えば、私はかわいそうだと。かわいそうな私と……思っていたくらいだ。

 私なんかがローレル様に勝てるわけない。

 エミリーとローレル様が並ぶ姿を思い浮かべる。

 勝てる、わけはないんだ。

 だけど。

「私は、エミリーともローレル様とも友達でいたい……友達として恥ずかしくない人間になりたい……」

「え?エミリー?あの、私はリリー様を恥ずかしいなどと思ったことはありませんわ」

「もっと、もっと相応しくなりたい。言ってくれましたよね?私なんかって言わないでと。……私、もう、言いません」

 ボロボロと落ちる涙をぬぐいもせず、顔を上げてローレル様をまっすぐに見た。

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