第73話

 王妃様がするようなティアラを頭にのせている姿を想像する。

 すらりと背が高くて、美しい艶のある髪の上にティアラがきらめいている姿は絵画のように素敵だ。

 その、隣にエミリー……いえ、シェミリオール殿下が王冠を載せて立っている姿を想像する。

「どうしたの?リリー様」

 涙が出るくらい、二人が並んだ姿は美しくてお似合いで。

 涙が出そうになって、うつむく。

 昨晩布団の中での考えにはしゃいでしまった自分が馬鹿みたいだ。

 そんなに簡単な話じゃない。だからエミリーだって「めんどくさいことを片付ける」と言っていた。

 婚約の打診かもしれない。政治的に、簡単に断れない相手からの……。例えば隣国の王女様だとか。例えば、国内の有力貴族だとか。例えば……辺境伯令嬢だとか――。

「えーっと……ローレル様と皇太子殿下は……お似合いだろうなぁ……って」

「そうですよね!絶対ローレル様と殿下はお似合いですよね!」

「二人とも背が高くてすらりとしているし、二人並んだところが見てみたいんですっ」

 私の言葉に、アンナ様とハンナ様が食い気味に言葉をかぶせてきた。

 そのおかげで、私の微妙な言葉のニュアンスはかき消されたと思う。

 似合うのが……まるで残念だと言うような。

「あら、でも私はリリー様のような方が殿下の隣に並んだ姿を見てみたいわ。小柄で可憐な姫とそれを守る騎士みたいで素敵だと思いますわ」

 ローレル様の言葉に、きゃぁっとアンナ様とハンナ様が黄色い声を上げる。

「それも素敵です!確かに、確かに!」

「騎士に守られる可憐な姫!ああああ、リリー様と殿下の並んだ姿も見たいですぅ!」

 きゃっきゃとはしゃぐアンナ様とハンナ様とは対称的に、私の声は沈んでいく。

「守られる……姫……」

 その通りだ。

 私は、お父様に、お兄様に守られて今まで生きてきた。

 これからだって、大丈夫だよ、ずっと家にいれば……とお父様は言う。これから先も守られるだけの人生なの?

 迷惑はかけられないと、修道院へ行こうと思ったけれど、結局私は「修道院という場」に守られるようになるだけなんじゃないの?

 貴族令嬢として生まれた務めを何一つできず、お荷物なだけの私……。

「守られるだけの……」

 私の落ち込む声に、ローレル様がそっと肩に手を乗せた。

「リリー様、姫は騎士に守られるだけじゃないんですよ。姫は守られ、そして支えるんです」

「え?」

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