第54話

 どうしよう。嘘はつきたくないので、曖昧に笑って何も答えないでいると、なぜか突然メイが怒りだした。

「全く、ロバート様も旦那様も何を考えているのか。無理に結婚させようとする旦那様も旦那様ですし、エカテリーゼ様を優先してろくに舞踏会でフォローをしないロバート様もロバート様です」

「メイ、私が公爵令嬢だとばれないように近づかないようにと、お兄様にはお願いしたので……それに、お父様も私の行く末を心配して……」

 ああ、ごめんなさいお父様、お兄様。なんだか悪者にされちゃってます。

「そうですよね……心配ですよね。あのエカテリーゼ様がこの家を取り仕切るようになったら……」

 ふぅとメイが大きなため息をつく。心配?え?

「大丈夫ですよ、私がいます。きっとエカテリーゼ様は王都にあるこのお屋敷に住むことになるでしょうから、リリー様は領地で過ごせばいいんです。私も、旦那と子供と一緒に領地についていきますからね。だから、安心してください。本当に、無理に結婚なんてしなくていいですからね!」

 メイが、家族と一緒に私についてきてくれる?

 数少ない私のアレルギーを知るメイ。メイも、ずっと私のことを心配して今後のことを考えていてくれたんだ。

 それが嬉しくて……。

「ありがとう……メイ……」

 私が婚約すると言ったら、メイはどんな反応をするだろうか。

 男性アレルギーが出ない相手が見つかったと言ったら、喜んでくれるだろうか。

 よかったですねと、涙を流して喜んでくれるかもしれない。……でも、それが偽りだと知ったら。

 偽り……うーん、男女のそれではないけれど、形としては何も偽ってないから大丈夫なのかな?そもそも政略結婚のほとんどはそこに男女の愛があるとは限らないんだから、問題ないのかしら?むしろ、女同士の友情でも、好きって気持ちがある分幸せなのかも?

 ふふ。そう、私、婚約するのよ。

 ああ、早くメイに教えて安心させたい。

 エミリー……いいえ、エミリオと婚約する約束をしたの。

 エミリオは、とても背が高くて綺麗な顔をした青年よ。とても綺麗な所作をしていて、しっかりした考えを持っているのよ。

 もう、きっと、誰が見てもため息が漏れるくらい素敵な男性。

 そして、中身はとびっきりかわいい女性なの!あ、これは内緒ね。内緒。私だけが知っている秘密。

 私だけが知っている、特別。

 なんだかそれすらとても嬉しい。

 早く、エミリオと婚約したい。どれほど幸せな毎日が待っているのか。

 あ、流石に婚約しても毎日は会えないわよね。でも、今よりはずっとたくさん会えるようになるわ。

 きっと、エミリーの刺繍の腕が上がるのもすぐよ。ふふ。

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